悪役令嬢ですが、当て馬なんて奉仕活動はいたしませんので、どうぞあしからず!

たぬきち25番

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3  兄上、チョロくない? 私、あなたの未来が、心配です

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 ――激変。

 私のこれまでの人生の中で、今日ほど、この言葉を強く、実感したことは……ない気がする。
 現在、兄は、食堂内の本来の自分場所から、私のすぐ隣に椅子を移動させて、座っていた。ちなみに本来の兄の席と、私の席は数メートル離れているが、今は数センチほど離れたくらい近い位置にいる。え? 単位がおかしいのではないか? いえ。本来は『メートル』と現在は『センチ』。単位は合っているのです!!
 そしてこんな近くに座った兄は、お茶を優雅に楽しむ……わけではなく……。

「フォルトナ、この果物は食べるか?」

「フォルトナ、こっちもなかなか、美味しかったぞ」

「フォルトナ、これも食べてみてくれ」

 思わず『親鳥かっ!!』とツッコミを入れたくなるほどの、超過保護兄に変貌した。
 しかも、たった数分で……。

 始めこそ、「いえ、お気遣いなく……」と兄の食事の手伝いを断っていたのだが、私が断る度に、兄が、シュンと耳と尻尾を下げ、捨てられた犬のような顔をするので、根負けしてしまったのだ。
「では、お願いします」と、兄の手伝いを受け入れた時の兄の嬉しそう顔は、とても可愛くてキュンとするので、仕方ないのだ。

 だが、そうやって、兄を受け入れた結果……。

「フォルトナ、今度はこれはどうだ? 口あけて……」

 デザートを食べる頃には、とうとう、兄にスプーンで、食べさせられるようになってしまった。
 いつの間にか、兄のコルネリウスは、私に対して、口調も砕けてきて、距離もかなり近い激甘超シスコン兄へと変貌を遂げていたのだ。

「あ~。…………もぐもぐ、ゴクン。確かに美味しいですね」

「そうだろ?!」

 兄がキラキラとした瞳を私に向けながら、とても嬉しそうに言った。
 あ~~~兄が、可・愛・い……!!
 
 先ほどまでの『ツン』は姿を消して、『デレ』だけになっていないだろうか?
 主人公だって、兄からデレを引き出すのは、かなり苦労したというのに!!

 悪役令嬢にこんなにすぐにデレるなんて……。

 兄よ、チョロ過ぎやしないかい?
 君は一応、隠しキャラなんだよ?
 あの、つらい『ツン』の後に、ご褒美の『デレ』が来るからこそ、乙女は君に落ちるというのに……。
 これでは、ただの過保護お兄ちゃんだ……。
 これで、大丈夫なのだろうか?

 私は、兄のあまりのチョロさに、兄の今後が、本気で心配してしまったのだった。


☆==☆==


 その後も、兄は私の鞄を持って、馬車に乗り学園に行き、学園に着いたら、迷わずに私の鞄を持ったまま、教室に行こうとした。

「兄上、鞄……そろそろ自分で持ちますわ」

 兄と私は同じ歳だ。私が第一王位継承権を持つ、ルジェク王子殿下と婚約した時、分家から養子として迎えられたのだ。母は美しい人だが、身体が弱く、お医者様に、もう子供を授かることは出来ないと言われてしまった。父は、母を愛しているので、第二夫人を娶るなど、以ての外だと、優秀なコルネリウスを養子をもらうことにしたのだ。

 コルネリウスは、元々は、セルーン家の分家筋の子爵家出身なので、プライドの高いフォルトナは、どうしても、コルネリウスを兄だと受け入れることが出来なかったのだ。
 だから、フォルトナは、コルネリウスに対して、随分とつらい態度を取ってしまっていた。
 自分の存在を、フォルトナに受け入れてほしいのに、拒絶され過ぎて、傷ついた兄は、フォルトナに心を開いてもらった結果。

 ――過保護なほど、甘くなってしまったのだ……。

「昨日は、休んだのだろう? 本当は、抱き上げて、教室に向かいたいのを我慢しているのだ」

「それは、本気で止めて下さい」

 私は思わず、頭を押さえた。
 今までの私たちを知る生徒たちから「何があったのだ?」といぶかしがる声が上がっていたが……。そんなこと、私の方が聞きたいくらいだ。幸いにも、塩対応フォルトナに話かけて来る勇者はおらず、誰も話かけられることなく、教室に着いたのだった。


☆==☆==


 兄に鞄を持ってもらいながら、ぴったりとくっついて教室に入ると、予想通り、皆が大きく目と口を開けて、私たちを見ていた。

「はぁ~」

 私は、皆に気付かれないように小さく溜息をついた。

 想像していたけど、動物園の動物になったようで、居心地が悪い。

 フォルトナは、誰にでも塩対応なので、基本的にぼっちだ。
 将来、王妃になるというのに、取り巻きさえも、いないのだ。
 そんなんで、社交界を渡って行けるのか、社会人を経験した私は、ヒヤヒヤしてしまう。

 まぁ、王妃はむやみに隙を見せてはならないという教えを忠実に守っていたら、一人になっていたのだろうが……。兄もそうだが、フォルトナも、本当に不器用だと思う。
 根は頑張り屋でいい子なのに、みんなに怖いと思われて、距離を置かれている。とても勿体無い。

 王妃教育と、学園での自分の立ち位置、そして次期王妃としてのプライド。
 これらが、フォルトナの心をがんじがらめにしてしまったのだろう。

 悪役令嬢だったフォルトナも、随分と苦労してたようで心が痛んだ。
  
 私がフォルトナに同情しながら、フォルトナ専用で他の生徒は誰一人近づかない、窓側の一番後ろの席に座ると、鞄を持ってくれている兄に向かって、手を伸ばした。

「兄上、ありがとうございました」

「くっ!! 兄上……!!」

 兄は、両手で顔を押さえた後に、大きく深呼吸をすると、なぜか兄は、いつも席ではなく、私の隣に座った。
 ちなみに、普段の兄は、廊下側の一番前に、王子殿下を中心とした攻略対象の皆様と一緒に座っている。

 どうやら、今日は、私の隣に座るようだった。

「こちらに座られるのですか?」

 兄には、兄のコミュニティがあるのだ。そこを当然抜けてもいいのか心配だったので、念のために尋ねた。

「ああ……迷惑だろうか?」

 すると、兄が子犬のように切なそうな顔で私を見ていた。
 その顔は卑怯だ!!
 可愛いが過ぎる!!
 
「いえ。兄上が良いのであれば、いいのですが……」

「兄上……。いい!! 私は、ここにいる」

「そうですか……」

 兄は、嬉しそうに鞄から本を出しながら言った。
 私は、兄の様子を見ながら、果たしてこれでいいのだろうか、と首を傾けたのだった。




 



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