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第3章 モーリスルートを強制攻略!?
11 夜会演習
しおりを挟む「ジェイド!! ここはもう大丈夫です、そして恐らくこれで準備は全て終わりだと思います!!」
「お疲れ様~~!! モーリス!!」
私は全ての準備を終えて、モーリスと片手を合わせてパチンという音が辺りに響き渡った。
ちなみにアルフレッド殿下とランベール殿下は、別室で学園長やゲストたちと今日の段取りなどの打合せ中だ。
モーリスと私は夜会演習中は授業に集中して余裕があれば、会場の見回りをすることになっている。
ただ3年のキリル学習会長たちは最後の夜会演習なので、準備や問題の対処などは免除になるので、何かあったら私たちが動く必要がある。
夜会演習の開始まで、まだ2時間はある。早い人が到着するまでにもまだ時間がある。
(少し休めるな……)
私が準備の出来た会場内を見渡していると、ふいにモーリスに声を掛けられた。
「答えられないとわかっているのですが……ジェイドは将来、どちらかの王子殿下の側近になるのですよね? ジェイドなら、実力も家側も問題ないでしょうから……」
私はモーリスを見ながら言った。
「いえ。私は将来、兄の補佐をするためにリンハール領で生活しようと思っているんです」
モーリスが目を大きく開けながら言った。
「そうなのですか? 意外ですね……てっきり、ジェイドは二人のどちらかの側近になって、将来一緒に王城で働けると思っていました。ジェイドと一緒に準備するのは、とても楽しかったので……」
モーリスは文官志望だ。彼はとても優秀なので将来は文官になれるだろう。
「私もモーリスと準備をするのは楽しかったです。またモーリスと一緒に何かを……いや、できない約束はできるだけ口にしない方がいいですね」
彼はとても頭の回転が早く、すぐに問題を分析し、行動することができる。説明も上手く、ユーモアもあるので一緒にいてとても充実していた。だが。文官になるモーリスとリンハール領で暮らす私が今後、一緒に何かをすることは難しいだろうと思う。
するとモーリスが呟くように言った。
「願ってしまったんです。卒業してからも、ジェイドとこんな風に一緒に仕事して、週末は一緒に食事に行って、他愛のない話をする未来を……」
「モーリス……その言葉は……本当に嬉しいですが……」
もしもこれが乙女ゲームだったら、ブランカとモーリスはこれで仲を深めて、最終的には鉱山の価値が上がって仕事が大変になった私を手伝うためにリンハール領に婿に来てくれる。
でもこれは……
(ゲームじゃない)
「困らせてすみません。ジェイドだって家の事情がありますよね、とにかく今は、夜会演習を無事に終わらせましょう」
「はい」
それから私はモーリスともう一度だけ会場を見回って、夜会演習に備えたのだった。
◇
陽が落ちて暗くなり、続々と着飾った生徒たちが会場に入って来た。
今日は、アルフレッド殿下とランベール殿下は学長たちと、会場の前に特別に用意されたゲスト席に座る予定だ。ちなみにアルフレッド殿下は、生徒会長として踊る模範演技以外は他の令嬢とは踊らないし、ランベール殿下も踊らないらしい。混乱を避けるために成績は授業で踊った分で評価したようだ。
私はフリーの時間になったら、成績のためにも誰か一人は令嬢を誘って踊る必要がある。
「ごきげんよう」
声をかけられて顔を上げると、元生徒会長のジュリアが立っていた。ジュリアはシンプルだが物がいいとわかるとても高価なドレスを着ていた。
「お美しいですね、ジュリア様」
ダンスで令嬢にあいさつをされた時の定型文を口にすると、ジュリアは私に近付くと扇を開いて顔を寄せた。
「(バーバラが弓矢で狙われたと聞いたわ。犯人は見つかりましたの?)」
一応、口外しないように配慮したが、どこかから情報が漏れたようだ。私はジュリアの耳に顔を寄せて尋ねた。
「(いえ、ですが……それをどこで?)」
ジュリアが目を弧にした。
「(あなた、アルフレッド殿下に運ばれたのでしょう? あの方が普段見せないような必死で泣きそうな顔であなたを抱きしめて走っていたって……私たちの間では、かなり広がっていますわ。口に出さないだけで)」
私はよく覚えていないが、アルフレッド殿下が運んでくれた?
しかも抱きかかえられてってことは……お姫様抱っこ!?
(アルフレッド殿下に、お姫様抱っこ……それは……うん。確実に、目立つね……『どうした、どうした』ってなるね……)
「(なるほど……申し訳ございません、犯人はまだです)」
私が頷くと、ジュリア様が眉を寄せ少し離れた。
「まだ(犯人は)わかっていないのね……」
「はい」
そして、ジュリアは少し考えた後に私を見てにっこりと笑った。
「そういえばあなた……今日は素敵じゃない。いつもあなたに似合いもしない、古めかしい服を着ているのに……」
ジュリアの何気ないストレートな言葉が私の脇腹に入った気分だ。
「あ、いつも似合ってませんか?」
「ええ。でも、今日は素敵よ、一曲くらい踊って上げてもよくってよ、ふふふ」
さすが、バーバラ様の見立てだ。
「ありがとうございます。きっとジュリア様と踊りたい男性は多いでしょう? ジュリア様のお相手が途切れると思えませんが……」
ジュリアは扇で口元を隠すと「それもそうね……」と言った後に顔を寄せ低い声で言った。
「(早く犯人を見つけなさい)」
「善処します」
そしてジュリアは颯爽と会場内の一番中央に歩いて行ったのだった。
(犯人か……そりゃ私だって早く見つけたい……)
私が溜息をついていると、またしても背後から声をかけられた。
「ごきげんよう、ジェイド」
最近毎日のように聞いていた声が聞こえて、振り向くとやはりバーバラが立っていた。
「こんばんは、今日も素敵ですね」
バーバラにあいさつをすると、バーバラは固まった後に、「はぁ~~」と大きく息を吐いて、「ありがとう」と答えた。
なぜ、あいさつをしてため息をつかれてしまったのかよくわからない。
バーバラは困ったように笑ながら言った。
「ジェイド、あなたも……素敵よ……」
「ありがとうございます。着心地もとてもいいです」
バーバラはいつもの顔になると、姿勢を正して行った。
「今日の模範演技……あなたに最高のダンスを見せて上げるから見ていなさい」
「はい」
それからバーバラが歩いて中央に行こうとした時だった。
次々に会場内の光が消えた。
今日は、辺りを暗くしてアルフレッド殿下にスポットライトを当てる演出を用意していたのだ。
(あれ? 少し早い気もするけど……そろそろ始まるのかな……)
開始が予定よりも若干早いと思っていたその時だ。
微かな光と、剣を鞘から引き抜く独特の金属音が聞こえた。
――剣!?
私はすぐに剣を取り出して、微かな光と、音のした方の向かって剣を抜いた。
ガシャン!!
そして、周囲から令嬢たちの「何?」「今、音がしたわ」という声が聞こえた。
私の剣は確実に相手の剣を防いだが、いなせない。
(この人……強い!!)
剣をいなせずに硬直していると、壇上に光が当たり、光のおかげで相手が見えたが黒いマントを被っていて顔が見えない。
「ジェイド!!」
すぐ後ろからバーバラの声が聞こえた。そして、私たちを見たアルフレッド殿下の声が聞こえた。
「すぐに灯りを!!」
その瞬間、黒いマントの人が何かを取り出した投げた。
煙で視界を奪われたが、とにかく私は、すぐ近くにいたバーバラを抱きしめて腕の中に匿った。
今の剣、確実にバーバラを狙っていた。
しかも前回は弓矢だったので、犯人は彼女を殺害するつもりだ。
「絶対に死なせない」
私は彼女を庇うように抱きしめながら呟いた。
「……ジェイド……」
必死でバーバラを抱きしめていると腕の中のバーバラが呟いた。
怖かったのだろう、彼女も私をきつく抱きしめていた。
「窓の近くの者、早急に窓を開けろ!! 急げ!!」
ランベール殿下の声で次々に会場内の窓が開けられて、煙が晴れた。そしてようやく会場内に灯りが戻って来た。
「ジェイド!! 大丈夫か!?」
そしてランベール殿下が壇上から飛び降りて、こちらに走って来るのが見えた。
(ああ、もう大丈夫だ)
私はほっとしてようやく、バーバラを抱きしめる腕を緩めたのだった。
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