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最終章 アルフレッドルートを攻略
2 意外な訪問者
しおりを挟む二コラの指導は終わり、彼は自分の家に戻ったので、私はジュリアを見送った後に一人で考えた。
(ニコラは、学院内ではわざわざ鍵をかけて、脅すようなことを言っていた……つまり学院内で、犯人のことを話していたら、筒抜けの可能性がある??)
二コラは学院では犯人は『時計棟の便利屋』という言い方をしたのにもかかわらず、屋敷に着いて部屋に入ると、犯人は『ハーヴェイ・ロダン』の可能性があると言っていた。
つまり、この世界に盗聴器があるとは思えないが、どこかで誰かに会話を聞かれている可能性があるということだ。
しかも普段は、生徒会の業務が忙し過ぎて、ゆっくりと犯人について話をする時間もない。
二コラが入学してすぐに時計棟の便利屋について調査できたのは、恐らくまで引継ぎしている項目が少なかったからだ。今は、かなりの案件を引き継いでいるので忙しくなっている。
(もしかして、生徒会を忙しくしているのも計算?? ん~~でも、そんなこと出来るかな??)
私は考えてみたが、全くわからなかった。
「明日の放課後から少しずつ犯人についても調査しなきゃ……」
私が息を吐いた時だった。
コツンと窓に何かが当たる音がした。
(何かな?)
恐る恐る窓に近づき驚いた。
黒いフードを被った男性が立っていたが、その髪色が……
「もしかしてアルフレッド殿下!?」
私が急いで窓を開けると、アルフレッド殿下が手を振ったので、私はロープを垂らして庭に降りた。
「アルフレッド殿下!? どうされたのですか!?」
アルフレッド殿下は困ったように笑いながら言った。
「抜け出してきた」
もしかして、例の古井戸からここまで来たのだろうか?
「危ないですよ」
声を上げると、アルフレッド殿下が口に人差し指を当てながら言った。
「しー静かに。心配するな、護衛は外に待たせてある。少し話せないか?」
「……わかりました」
私たちは庭の隅の奥まった場所のベンチに移動した。
ここなら少々声を上げても誰にも見られないはずだ。
二人でベンチに座ると、アルフレッド殿下が私の顔をじっと見ながら言った。
「なぁ、ジェイド……いや、ブランカ、と言った方がいいか?」
「え?」
(アルフレッド殿下……今……もしかして……知られてた?)
私は唖然としてアルフレッド殿下を見つめた。心臓が早くなり私は思ず胸を押さえながら尋ねた。
「知って……いたのですね……」
アルフレッド殿下が真剣な顔で言った。
「ああ。ジェイドが時計棟から狙われたことがあっただろう? その時に……知った」
あの時、バレたかもしれないとは思ったが、ずっと知らないフリをしてくれていただけだったようだった。
「あの時ですか……もしかして、ランベール殿下もご存知なのでしょうか?」
私の問いかけに、アルフレッド殿下が苦しそうに答えた。
「いや……ランベールは知らない。ジェイドが伝えていないのに、私が伝えてもいいか、悩んで……伝えていない」
私はベンチから立ち上がると、アルフレッド殿下に向かって深く頭を下げた。
「申し訳ございませんでした」
すると、アルフレッド殿下が立ち上がって私の頭に手を置いたがすぐに手をどけた。
「顔を上げてくれ、ジェイド」
顔を上げると、切なそうな顔のアルフレッド殿下と目が合った。
アルフレッド殿下は、ゆっくりと口を開いた。
「なぁ、ジェイド。いつまでその姿で過ごすつもりだ? そろそろ令嬢に戻ってくれ……私は令嬢に戻ったジェイドに言いたいことがあるんだ」
令嬢に戻った私に言いたいこと?
アルフレッド殿下の切なそうな顔を見て、私はすぐに言いたいことがわかってしまった。
――さようなら……だ。
ずっと性別を偽っていた私をアルフレッド殿下は、許すことが出来ないのかもしれない。しかも私はこれまでずっと、アルフレッド殿下の側で友人として接してきた。
(仕方ない。これは裏切り行為だ……覚悟していたはずじゃない……)
私は手を握りしめると、顔を上げた。
「ジュリア様から、『令嬢に戻るのは今回の一連の犯人を捕まえた後がいい』との助言を受けました。今回の犯人を私のせいにされると……」
するとアルフレッド殿下がはっと、したように言った。
「そうだな……特にジェイドの家は今、大変だ。確かに令嬢に戻るなら犯人解決の後がいいだろうな」
私はアルフレッド殿下を真っすぐに見ながら言った。
「必ず、犯人を捕まえてみせます!!」
するとアルフレッド殿下が困ったように言った。
「ジェイド、私も共に犯人を捜す。一人で抱え込もうとするな」
「ありがとうございます」
アルフレッド殿下が私の頭に手を伸ばそうとして、手を止めた。
そして手をすっと引いた。
(いつもなら撫でてくれるのに……)
――それは明確な拒絶……
自業自得だが、悲しいと思う身勝手な自分に気付いて、それがまた苦しかった。
そしてアルフレッド殿下が「そろそろ帰る」と言ったので馬が隠してある場所まで送った。
アルフレッド殿下は、馬の手綱を取りながら言った。
「ジェイド。私は、ランベールに言うつもりはない」
「……はい。犯人を見つけたら……自分で言います」
アルフレッド殿下はどこかほっとしたように「そうか……」というと、馬に乗って門を出た。
すると護衛が出て来た。どうやら護衛はすぐ近くで待っていたようだ。
私はアルフレッド殿下の背を見つめながら思った。
――犯人を捜そう。
そしてこの問題が解決したら……
「笑顔でさよならを言おう……」
空を見上げると満点の星空が見えた。今日の月は細く長く、まるで空についた傷跡のように見えて、胸が痛くなったのだった。
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