【12月末日公開終了】令嬢辞めたら親友認定

たぬきち25番

文字の大きさ
69 / 82
最終章 アルフレッドルートを攻略

2 意外な訪問者

しおりを挟む




 二コラの指導は終わり、彼は自分の家に戻ったので、私はジュリアを見送った後に一人で考えた。

(ニコラは、学院内ではわざわざ鍵をかけて、脅すようなことを言っていた……つまり学院内で、犯人のことを話していたら、筒抜けの可能性がある??)

 二コラは学院では犯人は『時計棟の便利屋』という言い方をしたのにもかかわらず、屋敷に着いて部屋に入ると、犯人は『ハーヴェイ・ロダン』の可能性があると言っていた。
 つまり、この世界に盗聴器があるとは思えないが、どこかで誰かに会話を聞かれている可能性があるということだ。
 しかも普段は、生徒会の業務が忙し過ぎて、ゆっくりと犯人について話をする時間もない。
 二コラが入学してすぐに時計棟の便利屋について調査できたのは、恐らくまで引継ぎしている項目が少なかったからだ。今は、かなりの案件を引き継いでいるので忙しくなっている。

(もしかして、生徒会を忙しくしているのも計算?? ん~~でも、そんなこと出来るかな??)

 私は考えてみたが、全くわからなかった。

「明日の放課後から少しずつ犯人についても調査しなきゃ……」

 私が息を吐いた時だった。
 コツンと窓に何かが当たる音がした。

(何かな?)

 恐る恐る窓に近づき驚いた。
 黒いフードを被った男性が立っていたが、その髪色が……

「もしかしてアルフレッド殿下!?」

 私が急いで窓を開けると、アルフレッド殿下が手を振ったので、私はロープを垂らして庭に降りた。

「アルフレッド殿下!? どうされたのですか!?」

 アルフレッド殿下は困ったように笑いながら言った。

「抜け出してきた」

 もしかして、例の古井戸からここまで来たのだろうか?

「危ないですよ」

 声を上げると、アルフレッド殿下が口に人差し指を当てながら言った。

「しー静かに。心配するな、護衛は外に待たせてある。少し話せないか?」

「……わかりました」

 私たちは庭の隅の奥まった場所のベンチに移動した。
 ここなら少々声を上げても誰にも見られないはずだ。
 二人でベンチに座ると、アルフレッド殿下が私の顔をじっと見ながら言った。

「なぁ、ジェイド……いや、ブランカ、と言った方がいいか?」

「え?」

(アルフレッド殿下……今……もしかして……知られてた?)

 私は唖然としてアルフレッド殿下を見つめた。心臓が早くなり私は思ず胸を押さえながら尋ねた。

「知って……いたのですね……」

 アルフレッド殿下が真剣な顔で言った。

「ああ。ジェイドが時計棟から狙われたことがあっただろう? その時に……知った」

 あの時、バレたかもしれないとは思ったが、ずっと知らないフリをしてくれていただけだったようだった。

「あの時ですか……もしかして、ランベール殿下もご存知なのでしょうか?」

 私の問いかけに、アルフレッド殿下が苦しそうに答えた。

「いや……ランベールは知らない。ジェイドが伝えていないのに、私が伝えてもいいか、悩んで……伝えていない」

 私はベンチから立ち上がると、アルフレッド殿下に向かって深く頭を下げた。

「申し訳ございませんでした」

 すると、アルフレッド殿下が立ち上がって私の頭に手を置いたがすぐに手をどけた。

「顔を上げてくれ、ジェイド」

 顔を上げると、切なそうな顔のアルフレッド殿下と目が合った。
 アルフレッド殿下は、ゆっくりと口を開いた。

「なぁ、ジェイド。いつまでその姿で過ごすつもりだ? そろそろ令嬢に戻ってくれ……私は令嬢に戻ったジェイドに言いたいことがあるんだ」

 令嬢に戻った私に言いたいこと?
 
 アルフレッド殿下の切なそうな顔を見て、私はすぐに言いたいことがわかってしまった。

――さようなら……だ。

 ずっと性別を偽っていた私をアルフレッド殿下は、許すことが出来ないのかもしれない。しかも私はこれまでずっと、アルフレッド殿下の側で友人として接してきた。
 
(仕方ない。これは裏切り行為だ……覚悟していたはずじゃない……)

 私は手を握りしめると、顔を上げた。

「ジュリア様から、『令嬢に戻るのは今回の一連の犯人を捕まえた後がいい』との助言を受けました。今回の犯人を私のせいにされると……」

 するとアルフレッド殿下がはっと、したように言った。

「そうだな……特にジェイドの家は今、大変だ。確かに令嬢に戻るなら犯人解決の後がいいだろうな」

 私はアルフレッド殿下を真っすぐに見ながら言った。

「必ず、犯人を捕まえてみせます!!」
 
 するとアルフレッド殿下が困ったように言った。

「ジェイド、私も共に犯人を捜す。一人で抱え込もうとするな」

「ありがとうございます」

 アルフレッド殿下が私の頭に手を伸ばそうとして、手を止めた。
 そして手をすっと引いた。

(いつもなら撫でてくれるのに……)

――それは明確な拒絶……

 自業自得だが、悲しいと思う身勝手な自分に気付いて、それがまた苦しかった。
 そしてアルフレッド殿下が「そろそろ帰る」と言ったので馬が隠してある場所まで送った。
 アルフレッド殿下は、馬の手綱を取りながら言った。

「ジェイド。私は、ランベールに言うつもりはない」

「……はい。犯人を見つけたら……自分で言います」

 アルフレッド殿下はどこかほっとしたように「そうか……」というと、馬に乗って門を出た。
 すると護衛が出て来た。どうやら護衛はすぐ近くで待っていたようだ。
 私はアルフレッド殿下の背を見つめながら思った。

――犯人を捜そう。

 そしてこの問題が解決したら……

「笑顔でさよならを言おう……」

 空を見上げると満点の星空が見えた。今日の月は細く長く、まるで空についた傷跡のように見えて、胸が痛くなったのだった。





しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

断罪前に“悪役"令嬢は、姿を消した。

パリパリかぷちーの
恋愛
高貴な公爵令嬢ティアラ。 将来の王妃候補とされてきたが、ある日、学園で「悪役令嬢」と呼ばれるようになり、理不尽な噂に追いつめられる。 平民出身のヒロインに嫉妬して、陥れようとしている。 根も葉もない悪評が広まる中、ティアラは学園から姿を消してしまう。 その突然の失踪に、大騒ぎ。

牢で死ぬはずだった公爵令嬢

鈴元 香奈
恋愛
婚約していた王子に裏切られ無実の罪で牢に入れられてしまった公爵令嬢リーゼは、牢番に助け出されて見知らぬ男に託された。 表紙女性イラストはしろ様(SKIMA)、背景はくらうど職人様(イラストAC)、馬上の人物はシルエットACさんよりお借りしています。 小説家になろうさんにも投稿しています。

冤罪で殺された聖女、生まれ変わって自由に生きる

みおな
恋愛
聖女。 女神から選ばれし、世界にたった一人の存在。 本来なら、誰からも尊ばれ大切に扱われる存在である聖女ルディアは、婚約者である王太子から冤罪をかけられ処刑されてしまう。 愛し子の死に、女神はルディアの時間を巻き戻す。 記憶を持ったまま聖女認定の前に戻ったルディアは、聖女にならず自由に生きる道を選択する。

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

不貞の子を身籠ったと夫に追い出されました。生まれた子供は『精霊のいとし子』のようです。

桧山 紗綺
恋愛
【完結】嫁いで5年。子供を身籠ったら追い出されました。不貞なんてしていないと言っても聞く耳をもちません。生まれた子は間違いなく夫の子です。夫の子……ですが。 私、離婚された方が良いのではないでしょうか。 戻ってきた実家で子供たちと幸せに暮らしていきます。 『精霊のいとし子』と呼ばれる存在を授かった主人公の、可愛い子供たちとの暮らしと新しい恋とか愛とかのお話です。 ※※番外編も完結しました。番外編は色々な視点で書いてます。 時系列も結構バラバラに本編の間の話や本編後の色々な出来事を書きました。 一通り主人公の周りの視点で書けたかな、と。 番外編の方が本編よりも長いです。 気がついたら10万文字を超えていました。 随分と長くなりましたが、お付き合いくださってありがとうございました!

誰でもイイけど、お前は無いわw

猫枕
恋愛
ラウラ25歳。真面目に勉強や仕事に取り組んでいたら、いつの間にか嫁き遅れになっていた。 同い年の幼馴染みランディーとは昔から犬猿の仲なのだが、ランディーの母に拝み倒されて見合いをすることに。 見合いの場でランディーは予想通りの失礼な発言を連発した挙げ句、 「結婚相手に夢なんて持ってないけど、いくら誰でも良いったってオマエは無いわww」 と言われてしまう。

婚約破棄?ああ、どうぞお構いなく。

パリパリかぷちーの
恋愛
公爵令嬢アミュレットは、その完璧な美貌とは裏腹に、何事にも感情を揺らさず「はぁ、左様ですか」で済ませてしまう『塩対応』の令嬢。 ある夜会で、婚約者であるエリアス王子から一方的に婚約破棄を突きつけられるも、彼女は全く動じず、むしろ「面倒な義務からの解放」と清々していた。

私の手からこぼれ落ちるもの

アズやっこ
恋愛
5歳の時、お父様が亡くなった。 優しくて私やお母様を愛してくれたお父様。私達は仲の良い家族だった。 でもそれは偽りだった。 お父様の書斎にあった手記を見た時、お父様の優しさも愛も、それはただの罪滅ぼしだった。 お父様が亡くなり侯爵家は叔父様に奪われた。侯爵家を追い出されたお母様は心を病んだ。 心を病んだお母様を助けたのは私ではなかった。 私の手からこぼれていくもの、そして最後は私もこぼれていく。 こぼれた私を救ってくれる人はいるのかしら… ❈ 作者独自の世界観です。 ❈ 作者独自の設定です。 ❈ ざまぁはありません。

処理中です...