71 / 82
最終章 アルフレッドルートを攻略
4 変化した距離
しおりを挟むアルフレッド殿下とランベール殿下と別れて、私は小さく息を吐いた。
「はぁ……」
ランベール殿下はいつもと変わらなかったが、アルフレッド殿下は明らかに変わった。
(もう、前のようにはなれないんだろうな……)
「ジェイド!!」
教室の前で声をかけられて、すぐに肩に手を乗せられた。
「クラウス……おはよう」
いつも通りに接してくれるクラウスの態度が嬉しくて、私が笑うとクラウスが私の肩に手を乗せたまま言った。
「元気ないな……まぁ、あんなことがあったんだ……元気ないのもわかる」
そう言われて、私はクラウスもあの令嬢との一連の騒動を見ていたことを思い出した。
「あ、うん」
そうだ。
私には使命がある。
犯人を見つける必要があるのだ。いつまでも落ち込んでいる場合ではない。
すると、クラウスが私の耳元で小声で言った。
「ジェイド、俺も犯人探し手伝うから」
私は思わず至近距離で、クラウスを見つめた。
「え? いいの?」
クラウスは「もちろんだ」と言ってくれた。
私は小声でクラウスに言った。
「ありがとう、助かる。実は今日の放課後から調査しようと思ってた。どうやら、会話を聞かれているみたいだから、慎重に調査する必要があるけど……」
するとクラウスが「そうなのか……わかった」と言った。
その後、授業が始まりそうになったので、昼休みに詳しい話をすることになった。
◇
授業が終わり、私とクラウスは小声で話をするのに都合がいいので、肩を抱かれて歩いていた。
「昼どうする?」
「ん~~今日は人のいない場所で作戦を立てながら食べない?」
「俺はいいけど……殿下たちはいいのか?」
「うん。別に食べるって言った。きっと先に召し上がっていると思う」
「そうか、ジェイドと昼って滅多にないから嬉しいな」
アルフレッド殿下の態度が変わったことで、少し落ち込んでいたので、無邪気に喜んでくれるクラウスの明るい笑顔に、心が軽くなった。
「ところで、例の短剣本物だったのか?」
クラウスが私の耳に口を近づけながら言った。その時だ。
「ジェイド!! 何をやっている!?」
私は、後ろから手を引かれた。
「え?」
振り向くと、アルフレッド殿下が怖い顔で私を睨み付けるように手を握っていた。
クラウスは驚いて、頭を下げた。
「これは、アルフレッド殿下。もしかして通行の邪魔をしてしまいましたか? 申し訳ございませんでした」
クラウスだけに頭を下げさせるわけにはいかなので、私も頭を下げた。
「アルフレッド殿下、通行の邪魔をして申し訳ございません」
すると、アルフレッド殿下がさらに眉を寄せながら言った。
「ジェイド、ちょっと来い!!」
「え?」
私はクラウスを見て「ごめん」と言うと、クラウスは「気にするな」と言ってくれた。
そして私はアルフレッド殿下に手を引かれて、1号館から特別棟まで来て鍵を借りて、生徒会室に入った。
生徒会に入った途端に、ドアを背にアルフレッド殿下がドンと両手でドアを塞ぎ、閉じ込められた。
いわゆる壁ドンだが、かなり怖い。
「ジェイド、いや……ブランカ……何を考えている?」
「何とは?」
アルフレッド殿下は怒りを滲ませながら言った。
「公衆の面前で、男性に肩を抱かれ、顔を近づけられて……危機感がまるでない!!」
心の中に様々な色の絵具をこぼしたことにようにぐちゃぐちゃとした感情が渦まいた。
不安?
戸惑い?
罪悪感?
様々な感情が渦巻く中、私はようやく今の感情にぴったりの感情を拾い上げることが出来た。
――悲しみ。
そう、私は悲しかった。
これまで築いてきた人間関係が、一瞬で崩壊したような気分になった。
確かに令嬢が、男性と人前で肩を組むのは問題だ。
でも、ほんの数日前まで私はアルフレッド殿下と、先ほどと同じような距離感だった。
それがただ女性というだけで……これまでの関係が全て……壊れてしまった。
私はその時、悟った。
(そうか……犯人を見つけたら、さよならじゃなかった。もうすでにこれまでの関係には戻れない。精神的にはすでに、さよならをした状態だったんだ……)
私は唇を噛むと絶対に泣かないと誓って頭を下げた。
「申し訳ございませんでした」
そう言ってただひたすら頭を下げ続けた。
すると、アルフレッド殿下が手を下げて、少し離れた。
「わかってくれればいい」
私はどうしても顔を上げることができなかった。
「顔を上げてくれ、ジェイド……昼はまだだろう? 一緒に行くか?」
私はこれ以上ここにいては泣いてしまいそうだったので、精一杯のいつもの表情で言った。
「申し訳ございません。先ほどの授業でわからないことがあったので、聞きに行く途中でした。アルフレッド殿下は先にお召し上がりください。ランベール殿下も待っていらっしゃいます」
「……え?」
私はアルフレッド殿下に頭を下げた。
「鍵は返しておきます」
「あ、ああ……」
私が生徒会室を出ると、アルフレッド殿下も生徒会室を出た。
ガチャガチャと鍵をかけると、私は「それでは急ぎますので、お先に失礼します」と言って、早足でアルフレッド殿下の側を離れたのだった。
アルフレッド殿下に「ジェイド」と呼ばれた気がしたが、私は振り向くことが出来なかった。
160
あなたにおすすめの小説
断罪前に“悪役"令嬢は、姿を消した。
パリパリかぷちーの
恋愛
高貴な公爵令嬢ティアラ。
将来の王妃候補とされてきたが、ある日、学園で「悪役令嬢」と呼ばれるようになり、理不尽な噂に追いつめられる。
平民出身のヒロインに嫉妬して、陥れようとしている。
根も葉もない悪評が広まる中、ティアラは学園から姿を消してしまう。
その突然の失踪に、大騒ぎ。
牢で死ぬはずだった公爵令嬢
鈴元 香奈
恋愛
婚約していた王子に裏切られ無実の罪で牢に入れられてしまった公爵令嬢リーゼは、牢番に助け出されて見知らぬ男に託された。
表紙女性イラストはしろ様(SKIMA)、背景はくらうど職人様(イラストAC)、馬上の人物はシルエットACさんよりお借りしています。
小説家になろうさんにも投稿しています。
冤罪で殺された聖女、生まれ変わって自由に生きる
みおな
恋愛
聖女。
女神から選ばれし、世界にたった一人の存在。
本来なら、誰からも尊ばれ大切に扱われる存在である聖女ルディアは、婚約者である王太子から冤罪をかけられ処刑されてしまう。
愛し子の死に、女神はルディアの時間を巻き戻す。
記憶を持ったまま聖女認定の前に戻ったルディアは、聖女にならず自由に生きる道を選択する。
一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました
しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、
「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。
――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。
試験会場を間違え、隣の建物で行われていた
特級厨師試験に合格してしまったのだ。
気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの
“超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。
一方、学院首席で一級魔法使いとなった
ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに――
「なんで料理で一番になってるのよ!?
あの女、魔法より料理の方が強くない!?」
すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、
天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。
そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、
少しずつ距離を縮めていく。
魔法で国を守る最強魔術師。
料理で国を救う特級厨師。
――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、
ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。
すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚!
笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。
不貞の子を身籠ったと夫に追い出されました。生まれた子供は『精霊のいとし子』のようです。
桧山 紗綺
恋愛
【完結】嫁いで5年。子供を身籠ったら追い出されました。不貞なんてしていないと言っても聞く耳をもちません。生まれた子は間違いなく夫の子です。夫の子……ですが。 私、離婚された方が良いのではないでしょうか。
戻ってきた実家で子供たちと幸せに暮らしていきます。
『精霊のいとし子』と呼ばれる存在を授かった主人公の、可愛い子供たちとの暮らしと新しい恋とか愛とかのお話です。
※※番外編も完結しました。番外編は色々な視点で書いてます。
時系列も結構バラバラに本編の間の話や本編後の色々な出来事を書きました。
一通り主人公の周りの視点で書けたかな、と。
番外編の方が本編よりも長いです。
気がついたら10万文字を超えていました。
随分と長くなりましたが、お付き合いくださってありがとうございました!
誰でもイイけど、お前は無いわw
猫枕
恋愛
ラウラ25歳。真面目に勉強や仕事に取り組んでいたら、いつの間にか嫁き遅れになっていた。
同い年の幼馴染みランディーとは昔から犬猿の仲なのだが、ランディーの母に拝み倒されて見合いをすることに。
見合いの場でランディーは予想通りの失礼な発言を連発した挙げ句、
「結婚相手に夢なんて持ってないけど、いくら誰でも良いったってオマエは無いわww」
と言われてしまう。
婚約破棄?ああ、どうぞお構いなく。
パリパリかぷちーの
恋愛
公爵令嬢アミュレットは、その完璧な美貌とは裏腹に、何事にも感情を揺らさず「はぁ、左様ですか」で済ませてしまう『塩対応』の令嬢。
ある夜会で、婚約者であるエリアス王子から一方的に婚約破棄を突きつけられるも、彼女は全く動じず、むしろ「面倒な義務からの解放」と清々していた。
私の手からこぼれ落ちるもの
アズやっこ
恋愛
5歳の時、お父様が亡くなった。
優しくて私やお母様を愛してくれたお父様。私達は仲の良い家族だった。
でもそれは偽りだった。
お父様の書斎にあった手記を見た時、お父様の優しさも愛も、それはただの罪滅ぼしだった。
お父様が亡くなり侯爵家は叔父様に奪われた。侯爵家を追い出されたお母様は心を病んだ。
心を病んだお母様を助けたのは私ではなかった。
私の手からこぼれていくもの、そして最後は私もこぼれていく。
こぼれた私を救ってくれる人はいるのかしら…
❈ 作者独自の世界観です。
❈ 作者独自の設定です。
❈ ざまぁはありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる