神様、ありがとう! 2度目の人生は破滅経験者として

たぬきち25番

文字の大きさ
27 / 46
第2章 女神様の前髪に触れ……た?

第27話 獅子の子落とし

しおりを挟む


 熱が下がり、体調も回復していつも通りの生活に戻った頃。
 領地から父が戻って来た。
 そして、ネーベル公爵から提示された条件を見て声を上げた。

「このような好条件で本当にいいのか!?」

 先にオリヴァーとも書類の中身を確認したが、こちらにとってかなりいい条件が提示されていた。
 高位貴族に保護してもらえるとたくさんのメリットがある。

 1つ目は価格の安定。
 2つ目は宣伝効果。
 3つ目は利権の確定。

 まず価格の安定というのは、伯爵家のような中位貴族の場合、自分たちより高位な貴族に価格を下げるようにと言われた場合断れないこともある。そのままなし崩しに価格が下がることもよくある。
 だが、今回はこの国の貴族の頂点に君臨する筆頭公爵家のネーベル公爵の保護を受けているので、この国の如何なる貴族も自分だけに価格を下げるように、我が伯爵家に強要することはできないのだ。

 そして宣伝効果だが、誰が保護しているのかで品質の保障になる。
 つまりネーベル公爵が保護するほど価値のある物という認定を受けたのだ。
 さらに今回は王家の資本も入る。
 つまりは王家と公爵家が認めた物ということで絶大な宣伝効果があるだろう。

 最後に利権だが、これが守られるのはかなり有難い。
 つまり数年はこれと同じ物を販売する場合、伯爵家に販売許可と売り上げの一部を納めなければならない。価格も我が伯爵の決めた価格から変えて販売することは出来ないので、数年の利益は確定されたことになるのだ。
 
 これほどまでに好条件な高位貴族の保護だが、保護する代わりに売上の一部を献上しなけらばならない。
 通常は売上の5割の献上が普通だ。つまり半分だ。
 貴族によっては8割も支払わなくてはならないらしい。

 ところだが!!

 ネーベル公爵家の提示して来たのは収益の3割譲渡。
 さらに王家とネーベル公爵家に優先して仕入れさせること。
 そして収益での出資金の返金のみ。利息は付かない!!

 今回、花を増やすために土地を新たに購入して、温室を建設する予定だがその資金を王家と公爵家が出資してくれたのだ。
 また土地を購入する場合、利権関係で貴族間で揉めることもあるのだが、宰相として常に貴族間の問題を解決しているクラン家が間に入ってくれるので土地購入の際の貴族間の問題も回避される。

 出資金を売上から返していくのはごくごく当たり前だ。しかも長期の返済が認められているので、領の経営を圧迫することはないだろう。
 つまりネーベル公爵家から提示された条件は、資金・土地・権利全てにおいて優遇された、破格の条件なのだ。

「信じられん……あの花にこれほどの価値があるのか?」

 父上は目を丸くしたまま書類をじっと見ていた。

 それには確かに同意見だ。
 土地を購入して温室を建設して本当に大丈夫なのかという疑問もあるが、最悪温室は寒さに弱い薬草を育てることもできるので、完全には無駄にならないだろうとは思う。
 父は上を向いて目を閉じた後。ゆっくりとこちらを見て決意ある目をした。

「……この件は全権をレオナルドに任せる」

「え?」

 俺は父上の言葉が信じられなくて大きく目を見開いた。そして、書類の最後に指を置きながら言った。

「ここを見てみろ」

「はい」

 こんな品物に関する交渉事の書類は初めて見たので見方がよくわからなかったが、リアム様の名前が書かれていた。

「リアム様のお名前が書かれています……」

「そう言うことだ。つまりネーベル公爵は今回の件を次期公爵のリアム様に全権を任せたのだ。それながら、我がノルン伯爵家も次期伯爵であるレオナルドに全権を任せよう。手助けはする……こんな機会は滅多にない。ネーベル公爵の胸を借りるつもりで……やってみろ、レオナルド」

 獅子の子落とし――ネーベル公爵家は今回の事業をリアム様の成長の糧にするつもりなのだろう。実際に自分で全てをやって今後に活かす。もしかしたら今回の書類もリアム様が作成されたものかもしれない。
 もしかしたら、俺もネーベル公爵から試されている可能性もある。

「……」

 あまりのことに俺は素直に頷けなかった。

 俺が事業を? いや、まだ未熟だ――ではいつ、未熟じゃなくなる?
 もし失敗したら――この事業が失敗したとしても我が家が傾くわけではない。街道交渉よりもずっと難易度は低い。
 今はまだ早い――ではいつならいい? 未来などあっという間にやってくる……

 逃げ腰の俺と、前回を知る俺がせめぎ合う。

(……ここで逃げるのか? こんな機会を捨てて……また毒杯をあおるのか?)

 以前の生で逃げてばかりいたせいで、全てを失ってしまったことを思い出して俺はぐっと拳を握った。

「わかりました。お引き受け致します」

 そうして俺の忙しい日々が始まった。



+++


 それから俺はリアム様や、アレク殿下やノア様の助言も貰い、無事に調印を済ませて本格的に事業が動き出した。

 花の鮮度の問題もあり、王都内の土地を購入して温室を建設することになった。
 しかもその土地はノア様のご親戚の方が王都を離れると言うので安く譲って頂いた。
 さらに温室の建設についても、アレク殿下が良心的な職人を紹介して下さった。
 しかも、その職人に材料を納入するのは、リアム様の保護されている商会だったので、相場より恐ろしいほど安く温室が出来たのだった。

「……私は、今回のことで幸運を使い果たしてしまったかもしれません」

 あまりにもスムーズに行き過ぎて怖くなった俺は思わず学園でアレク殿下たちの前で呟くと、アレク殿下が「ははは」と笑いながら片目をつぶった。

「それはよかったな。使い果たしたのなら、そこの空きが出来たということだ。より大きい幸運が入るかもしれないぞ?」

 するとノア様も楽しそうに笑った。

「そうそう。そもそもレオが掴んだ幸運でしょ? 幸運なんて溜め込まないでさ、どんどん使ってどんどん掴めばいいんだよ。その方が新鮮でしょ?」

「……幸運の鮮度……考えたこともなかった」

 俺が呟くとリアム様が楽しそうに言った。

「じゃあ……更なる幸運のために動こうか、レオ。花はもう温室に移動したんだよね?」

「はい。我が伯爵家で栽培していた分、全て搬入が終了しました」

 俺は答えると、リアム様がさらに言葉を続けた。

「では、庭師の方は?」

「はい。先日、私とノア様と弟とムトと4人で面接した庭師5名をすでに雇い入れました」

「へぇ~~ノアが面接したのか?」

 アレク殿下が驚いた顔をした。

「うん。レオが忙しいっていうからさ……1人で政治の授業とか受けてられないでしょ? だから、レオを手伝ってあげたんだ~~」

 俺は面接風景を思い出して顔を青くした。
 宰相家に生まれ、これまで多くの人を見て来たノア様の質問は非常に的確で厳しく、さらに的を得ていて隣で聞いていた俺もムトも、面接に来た庭師たちもタジタジだったが、そのおかげで大変優秀な庭師を雇うことができた。
 実は俺とムトは最後まで決めかねていたが、ノア様とアルの選んだ庭師は同じだったので即決だった。

「ノア様のおかげで、優秀過ぎる庭師を雇うことになりました」

「ノアが面接官……レオと、レオの家の庭師が凍り付いている場面が目に浮かぶな」

 アレク殿下がどこか可笑しそうに笑いをこらえながら言った。

「そうですね……ノアは普段はとぼけているのに、仕事になると……悪魔のようですからね」

 リアム様が同情しながら言った。
 ともあれ、優秀な方々の手も借りて、俺たちは着々と『蜜の花』の事業を進めていったのだった。



しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

【完結済】悪役令嬢の妹様

ファンタジー
 星守 真珠深(ほしもり ますみ)は社畜お局様街道をひた走る日本人女性。  そんな彼女が現在嵌っているのが『マジカルナイト・ミラクルドリーム』というベタな乙女ゲームに悪役令嬢として登場するアイシア・フォン・ラステリノーア公爵令嬢。  ぶっちゃけて言うと、ヒロイン、攻略対象共にどちらかと言えば嫌悪感しかない。しかし、何とかアイシアの断罪回避ルートはないものかと、探しに探してとうとう全ルート開き終えたのだが、全ては無駄な努力に終わってしまった。  やり場のない気持ちを抱え、気分転換にコンビニに行こうとしたら、気づけば悪楽令嬢アイシアの妹として転生していた。  ―――アイシアお姉様は私が守る!  最推し悪役令嬢、アイシアお姉様の断罪回避転生ライフを今ここに開始する! ※長編版をご希望下さり、本当にありがとうございます<(_ _)>  既に書き終えた物な為、激しく拙いですが特に手直し他はしていません。 ∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽ ※小説家になろう様にも掲載させていただいています。 ※作者創作の世界観です。史実等とは合致しない部分、異なる部分が多数あります。 ※この物語はフィクションです。実在の人物・団体等とは一切関係がありません。 ※実際に用いられる事のない表現や造語が出てきますが、御容赦ください。 ※リアル都合等により不定期、且つまったり進行となっております。 ※上記同理由で、予告等なしに更新停滞する事もあります。 ※まだまだ至らなかったり稚拙だったりしますが、生暖かくお許しいただければ幸いです。 ※御都合主義がそこかしに顔出しします。設定が掌ドリルにならないように気を付けていますが、もし大ボケしてたらお許しください。 ※誤字脱字等々、標準てんこ盛り搭載となっている作者です。気づけば適宜修正等していきます…御迷惑おかけしますが、お許しください。

【完結】ワーカホリック聖女様は働き過ぎで強制的に休暇を取らされたので、キャンピングカーで静養旅に出る。旅先で素敵な出合いもある、、、かも?

永倉伊織
ファンタジー
働き過ぎで創造神から静養をするように神託を受けた聖女メルクリースは、黒猫の神獣クロさんと一緒にキャンピングカーで静養の旅に出る。 だがしかし 仕事大好きワーカホリック聖女が大人しく静養出来るはずが無い! メルクリースを止める役割があるクロさんは、メルクリースの作る美味しいご飯に釣られてしまい、、、 そんなこんなでワーカホリック聖女メルクリースと愉快な仲間達とのドタバタ静養旅が 今始まる! 旅先で素敵な出会いもある、、、かも?

貧乏奨学生の子爵令嬢は、特許で稼ぐ夢を見る 〜レイシアは、今日も我が道つき進む!~

みちのあかり
ファンタジー
同じゼミに通う王子から、ありえないプロポーズを受ける貧乏奨学生のレイシア。 何でこんなことに? レイシアは今までの生き方を振り返り始めた。 第一部(領地でスローライフ) 5歳の誕生日。お父様とお母様にお祝いされ、教会で祝福を受ける。教会で孤児と一緒に勉強をはじめるレイシアは、その才能が開花し非常に優秀に育っていく。お母様が里帰り出産。生まれてくる弟のために、料理やメイド仕事を覚えようと必死に頑張るレイシア。 お母様も戻り、家族で幸せな生活を送るレイシア。 しかし、未曽有の災害が起こり、領地は借金を負うことに。 貧乏でも明るく生きるレイシアの、ハートフルコメディ。 第二部(学園無双) 貧乏なため、奨学生として貴族が通う学園に入学したレイシア。 貴族としての進学は奨学生では無理? 平民に落ちても生きていけるコースを選ぶ。 だが、様々な思惑により貴族のコースも受けなければいけないレイシア。お金持ちの貴族の女子には嫌われ相手にされない。 そんなことは気にもせず、お金儲け、特許取得を目指すレイシア。 ところが、いきなり王子からプロポーズを受け・・・ 学園無双の痛快コメディ カクヨムで240万PV頂いています。

断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます

山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。 でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。 それを証明すれば断罪回避できるはず。 幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。 チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。 処刑5秒前だから、今すぐに!

ダンジョンに捨てられた私 奇跡的に不老不死になれたので村を捨てます

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
私の名前はファム 前世は日本人、とても幸せな最期を迎えてこの世界に転生した 記憶を持っていた私はいいように使われて5歳を迎えた 村の代表だった私を拾ったおじさんはダンジョンが枯渇していることに気が付く ダンジョンには栄養、マナが必要。人もそのマナを持っていた そう、おじさんは私を栄養としてダンジョンに捨てた 私は捨てられたので村をすてる

婚約破棄のその場で転生前の記憶が戻り、悪役令嬢として反撃開始いたします

タマ マコト
ファンタジー
革命前夜の王国で、公爵令嬢レティシアは盛大な舞踏会の場で王太子アルマンから一方的に婚約を破棄され、社交界の嘲笑の的になる。その瞬間、彼女は“日本の歴史オタク女子大生”だった前世の記憶を思い出し、この国が数年後に血塗れの革命で滅びる未来を知ってしまう。 悪役令嬢として嫌われ、切り捨てられた自分の立場と、公爵家の権力・財力を「運命改変の武器」にすると決めたレティシアは、貧民街への支援や貴族の不正調査をひそかに始める。その過程で、冷静で改革派の第二王子シャルルと出会い、互いに利害と興味を抱きながら、“歴史に逆らう悪役令嬢”として静かな反撃をスタートさせていく。

悪役令嬢、休職致します

碧井 汐桜香
ファンタジー
そのキツい目つきと高飛車な言動から悪役令嬢として中傷されるサーシャ・ツンドール公爵令嬢。王太子殿下の婚約者候補として、他の婚約者候補の妨害をするように父に言われて、実行しているのも一因だろう。 しかし、ある日突然身体が動かなくなり、母のいる領地で療養することに。 作中、主人公が精神を病む描写があります。ご注意ください。 作品内に登場する医療行為や病気、治療などは創作です。作者は医療従事者ではありません。実際の症状や治療に関する判断は、必ず医師など専門家にご相談ください。

悪役令嬢の妹(=モブのはず)なのでメインキャラクターとは関わりたくありません! 〜快適な読書時間を満喫するため、モブに徹しようと思います〜

詩月結蒼
ファンタジー
白髪碧眼の美少女公爵令嬢に転生した主人公が「私って、主要人物なの!?」となり、読書のため脇役を目指し奮闘するお話です。 読書時間を満喫したいという思いから、あれやこれやと頑張りますが、主要人物である以上、面倒ごとに巻き込まれるのはお決まりのこと。 腹黒(?)王子にウザ絡みされたり、ほかの公爵令嬢にお茶会を持ちかけられたり。あるときは裏社会へ潜入して暗殺者を従者にし、またあるときは主要人物と婚約し……ん? あれ? 脇役目指してるのに、いつのまにか逆方向に走ってる!? ✳︎略称はあくモブです ✳︎毎週火曜日と金曜日午前0時更新です。 ✳︎ファンタジー部門にて6位になりました。ありがとうございます(2025年10月7日) ✳︎カクヨムでも公開しております →https://kakuyomu.jp/works/16818093073927573146

処理中です...