有能女官の赴任先は辺境伯領

たぬきち25番

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【王都エンディング】

辺境伯領での仕事

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「それではギルベルト様、お願いがあります!!」

 私はギルベルト様を見ながら真剣な顔で言った。

「はい、なんでしょう?」

 ギルベルト様もまっすぐに私を見てくれた。

「どうか、私が納得するまでここに置いて下さい!!」

「え?!」

 ギルベルト様が驚いた顔で私を見ていた。

「砦の倉庫にあった魔物の記録を全て書類にして報告します。そして、その特性を生かした人たちを王都から派遣してもらいます」

 一度砦の倉庫に行ったが、皆日常の業務が忙しく記録だけして放置してあるようだったが、よく見ると魔物の行動を長期的に見ることの出来るかなり有益な研究資料だ。
 この資料を魔物別にをまとめるだけで、かなりのことがわかるだろう。
 もしかしたら、魔物研究にも役立つ研究資料になるだろうが、王都の人間は誰もこの記録の存在を知らない。
 記録は生かしてこそ皆の努力も報われるのではないだろうか?

「え!? あれを全部!? あ、あの量を……全部確認するだけで1年はかかってしまいます」

 青ざめるギルベルト様の顔を私はじっと見ながら言った。

「はい。覚悟しています。でも情報が整理されれば確実に多くの命が救えます!!」

 魔物はこの国の人間がすべてに関係する問題だ。
 皆でこの問題に取り組めばいい。きっと私たちに見えなかったことも他の誰かが気づいてくれるかもしれない。
 その材料となる資料を作ればいい。

「確かに……」

 ギルベルト様も私の言葉に同意していた。

「さらに、過去の記録を確認することで、城壁がどうして壊れたのか原因を知り、もう二度と魔物の壊されない方法を提案してもらえるように魔法学院の研究室に打診します」

 城壁がいつ頃から壊れたのか記録を確認した時、どうして城壁が壊れてしまったのか、その辺りは嘆願書を作る時に特に必要ない箇所だったので、調査が不十分だったので過去の記録から調べることにする。しかもここにある記録でわかるだろう。

「ええ!? そんなことまで!?」

「はい」

 記録を確認してまとめるというのは文官になった時に初めに学ぶことだ。
 私でも実行可能だ。

「そんなのいつ王都に戻れるかわかりませんよ?」

 心配そうに私を見るギルベルト様を見ながら答えた。

「覚悟しています。女官になる時、誰かを助けることできる仕事がしたいと思いました。辺境伯領を住みやすい場所にしたいと思います。ここは王国の守りの要。それがきっとみんなを助けることに繋がると思います」

「わかりました。それでは……お願いします」

「はい」

 それに本音を言えば……

(私はもう少しここで、ギルベルト様の手助けをしたい……)

 誰かを助けたいと思いは、いつの間にか目の前のギルベルト様たちをご家族を助けたいという想いに変わっていた。

「なんだか……キスをしたお詫びのはずが……ますますライラさんをここに縛り付ける結果になってしまいましたね……」

 ギルベルト様が申し訳なさそうに言った。
 『気にしないで下さい』と言ってもきっと優しい彼は気にするのだろう。
 でも、なぜだろう、自分の中にこのことをお詫びだと言って終わらせてほしくないと思う感情がある。
 この感情が何なのかわからない。

 むしろ――これで終わらせてほしくない、ずっとギルベルト様の心に居座ってほしい。

「ギルベルト様、これからもこの辺境伯領を住みやすい場所にするように努めますので、どうぞよろしくお願いします」

 私が頭を下げると、ギルベルト様が私の前に膝を付いた。
 そして私の手を取った。

「本当にありがとうございます。あなたのその想いに敬意を表します」

 そして手の甲にキスをした。
 騎士からの最上級の親愛を受けて私もスカートの裾を持って貴族令嬢の礼を取った。

「こちらこそよろしくお願いします」

 そして私たちは笑い合った。
 
(ギルベルト様の嬉しそうな顔をずっと見ていたいな……)

 私はいつの間にかそんな想いを抱いていたのだった。




 
 それから半年は怒涛のように過ぎ去った。
 提出する書類は全て完璧に提出し、これから提出するべき書類もぬかりなく準備が出来ている。煩雑だった書棚は誰が見ても一目でわかるように分類し、整理してある。
 私とギルベルト様が辺境伯領にある記録をまとめ作業をしているとゲオルグが王都に発つ日が訪れた。

「ゲオルグ兄さん、気を付けてね」

「ありがとうクルス」

「お兄様、元気でね。手紙書いてね」

「ああ、リーゼも元気で」

 ゲオルグはクルスやリーゼを抱きしめた後に、ギルベルト様の前に立った。

「ゲオルグ、いっておいで」

「いってきます」

 ゲオルグが王都の学院に3年間通うことになる。ここに来たときよりも背が伸びて成長したゲオルグを見ていると、ゲオルグが私の前に来て切なそうな顔で言った。

「ライラ、いつ王都に戻るんだ?」

 ゲオルグと王都で遊ぶと約束したが、私はまだ帰れそうもない。

「今はまだわからないわ……でもゲオルグが帰って来た時に、安全に暮らせるようにギルベルト様と一緒に頑張るわ!! 約束守れなくてごめんなさい」

 ゲオルグが「ギルベルトさんと一緒に……か……」と言ってつらそうな顔をした後に切なそうに微笑んだ。その顔を見ると胸が締め付けられそうな痛みを覚えた。

「約束のことは……忘れてくれ。そんなことより、辺境伯領が変わった姿を楽しみにしてる……」

「ええ」

 そしてゲオルグは私の手を取ると、頬に触れるだけのキスをした。

「じゃあな……ライラ。……今まで本当に……ありがとう」

 そしてゲオルグは颯爽と旅立って行った。
 クルスとリーゼは、砦の門までついて行くと言って走って行った。
 私とギルベルト様は、ゲオルグの凛々しい後ろ姿に細めた。

(随分とたくましくなったな……)

「大きくなったな……」

 私が考えるの同時に、呟くギルベルト様に「そうですね」と言ってうなずいた。
 そしてじっと私を見ているギルベルト様と目が合った。なぜか少し怖い。

「あの……どうされました?」

 するとギルベルト様ははっとして口を押さえた。

「いえ……」

「何ですか? 気になります」

 いつもとは違う反応に顔を覗き込むと、ギルベルト様は困ったように言った。

「その……頬にキス……羨ましいなと……」

「え!?」

 ゲオルグにキスをされた時は親愛のキスだと思ったので特に深く考えなかったが、ギルベルト様に言われると顔に熱が集まる。

「変なことを言ってすみません、忘れて下さい。さぁ、続きをしましょうか」

「はい……忘れないですよ……」

 そして私は小さく呟くと再び仕事に戻った。
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