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第2話 上手い具合に居場所作り成功
しおりを挟むあれから俺は持ち前の理解力の高さと、空気を読む能力を駆使して、巧みな印象操作を行い、今では皆が違和感もなく受け入れてくれる。いわば、NEWテオドールの地位を確立した。
これは以前のテオドールが口数少ない超絶根暗系男子だったことも功を奏した。
さすがにテオドールの両親には俺が別人だということを伝えた。彼らも始めは驚いていたが、テオドールの社交性の無さには本当に困っていたようで、俺のことを案外すぐに受け入れてくれた。
ということでじわりじわりと、俺という個性をテオドールに混ぜて社交を行った現在……
「テオドール殿!! おはようございます」
「おはよう、ギル」
ご学友の王太子殿下に呼ばれた俺は、城に到着したらすぐに文官のギルに声をかけられた。
ちなみにギルに話かけられる前にも廊下で会っ女官の2人組や、知り合いの騎士にも声をかけられて軽く立ち話をしている。
そして、今、声をかけてくれたギルはとても怖い顔だが、文官の中でもかなりの出世頭で、王妃殿下のお茶会などを任されているほど地位が高い。
皆からは恐れられているらしいが、俺は堅苦しいので普通に話かけていたら、あの怖い顔からは想像できないほど気さくで、いいヤツだということが発覚した。
今では俺の姿を見かけると必ず声をかけてくれて、立ち話をするほどの仲になった。
「あ、そうそう。カラバン地方のお茶、手に入りそうですよ。王妃殿下に聞いてみてはいかがですか?」
たかが立ち話をする仲だと侮ってはいけない。
他の貴族は貴族としか話さないという器の小さなヤツもいるが、そんな小さな世界にいては八方塞がりになってしまう。現に今もギルの働きかけで、俺は重要な社交アイテムをゲットできそうなのだ。
「本当か? 助かった!! 先方の好物だっていうのに中々手に入らなかったんだよな~~さすが王妃様だぜ。正式に王妃様に打診してみるわ」
「はい」
「手を回してくれたんだろ? ありがとな、ギルも困ったら言ってな」
「はは、もう十分に助けて頂いていますよ。テオドール殿のおかげで殿下も王妃殿下のお知り合いのお茶会に頻繁に出席して下さっていますので助かります」
王太子殿下は……悪いヤツではない。
ただ彼は……同情するほど、時間がないので考えることをすぐに放棄する傾向がある。
王族というのはある意味ブラックを通り越してエスプレッソ企業だ。
学ぶことも多いし、会う人間も多い、さらに視察などやることも多い。
『え? そんな決断も王子様がするの??』というような重箱の隅をつつくような案件の決定まで王族がしなければならないらしい。
そんな彼の日常を如実に表す言葉を紹介しよう。
彼曰く――学院にいる間が一番自由だ……だそうだ。
信じられるか?
学校ってのは休みの方が絶対に自由だろう!? 大丈夫か、王族!? しっかり遊べよ、王族!!
そこであまりにも不憫に思った俺は助言した。
――大人になっても出来ることは、後回しにして一緒に青春しましょうや、と……
ポカンとしていた王太子殿下だったが、笑いながら『そんなこと初めて言われた、だが……そうだな』と言って彼の興味のある公務を優先するようになった。まぁ、それでも公務という範囲内で楽しむいい子ちゃんなのは変わらないのだが……
彼も同世代の人の多く集まるお茶会などには興味があったようで、同じ社交なら少しでも楽しそうな方を優先するという決断をした。
するとどうだろう。
国王や大臣が『出席しろ』という偉そうなおじさんばかりの集まりより、王妃殿下が王妃様ネットワークによってえらばれた同年代と親睦を深めるために出席してはどう? という集まりの方を優先するようになったのだ。
俺は王子殿下並びに、王妃殿下。さらにさらに、王妃殿下に頭の上がらない国王の信頼まで得られて、結果――俺、最強、ということになっている。今、ここだ。
「あ、いた!! 探したぞ、テオドール!!」
ギルと話をしていると、噂の王太子殿下が歩いて来た。ちなみに彼との約束まではまだ時間がある。
「こんにちは、ルーカス」
そして俺は、王太子殿下を敬称なしで呼ぶように言われたのだ。
凄すぎる。
あ、ちなみに以前のテオドール君は、王子殿下とはほとんど話をしなかったらしい。
『へぇ~』とか軽く思うかもしれないが、公爵家の長男で、王太子殿下と話をしないって、結構大変なことだ。ある意味、以前のテオドールの根暗は国宝級だ。
「なんだ、遅いと思ったらギルと話をしていたのか」
ギルは「ええ。それでは、王子殿下、テオドール殿失礼いたします」と言って去って行った。
「テオは、真っすぐに目的地に着くということはできないのか?」
ルーカスがふざけたように言った。
以前は堅苦しい話ばかりしていたら、冗談まで言うようになったのである意味感慨深い。
俺と王子の友情物語も語りたいところが、その辺りを語るとアルファベットの2番目の文字と、12番目の文字の物語と勘違いされそうなので、割愛することにする。
「すみませんって、そんなに淋しかったですか?」
「ああ。テオがいないと淋しい」
うん、今のは冗談ではなく割と本気かもしれない。
「あ、すみません。本気で照れるので、その返し止めて下さい」
「ははは、そうか。それなら止めるつもりはない。もっと照れろ」
王子様、仲良くなると中々腹黒な部分も見せてくれる。普段は完璧な超人なのに……
俺たちがふざけ合いながら廊下を歩いていると、前から青いドレスを来た令嬢が不機嫌そうに歩いて来たかと思うと、怖い顔で言った。
「ルーカス様!! お時間になってもいらっしゃらないのでお探ししました!!」
出た。
この子は、フルス侯爵令嬢のアレクシア。
――ルーカスの婚約者、つまり未来の王妃様になる予定の子だ。
ルーカスは引きつった顔で答えた。
「悪かった。二人よりもテオも一緒に話をした方が有益だと思ったのだ」
俺は今日なぜ、王宮に呼ばれたのかを瞬時に悟った。
(さては、ルーカス。アレクシアと二人になるのを避けたな……)
「明日の茶会の打合せをするとお伺いいたしましたが、なぜテオドール様もご一緒されるのですか?」
ギロリと音がしそうなほどきっつい瞳で睨まれた。
美人の睨みかなり怖い。
「これは、アレクシア嬢。こんにちは。殿下とお約束でしたか、それは失礼いたした。それでは私は失礼します」
とにかく不機嫌な女性は怖すぎるので逃げるに限る。
俺、この子と関係ないし。
俺が後ろを向こうとした瞬間ルーカスに腕を掴まれた。
ルーカスはアレクシアに見えないように必死で俺に『行くな』と口を動かし、目でも訴えていた。
正直面倒はごめんだが、腕をしっかりと掴まれているので逃げられない。
俺があきらめて身体の力を抜くと、ルーカスがほっとした顔をして、アレクシアの方を見た。
かなり顔が強張っている。
「テオにも同席してもらう」
アレクシアは不機嫌さを隠しもせずに「かしこまりました」と言ったが、それ全然かしこまってないよね~~~?
結局俺は、居たたまれない空気の中で過ごしたのだった。
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