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第7話 優秀な生徒
しおりを挟む次の日。午前の授業が終わる鐘が鳴り響いた。
「終わったな……テオ、食事に行くぞ」
「ああ。今日はどうする?」
この学校は大きな食堂や購買のような場所があるので、俺たちはいつも食堂で食べていた。
「今日は天気がいいし、中庭に行くか」
中庭はとても美しく整備されており、男子棟と女子棟の間の大きな庭なので人気の場所だ。
(これは早く行った方がいいけど……)
「いいですね~~、じゃあ、俺、ランチボックス買って来るので、場所取り頼む」
「ああ。ではいつも場所にいる」
「わかった、じゃあ行ってくる」
俺はルーカスに中庭でも人気のない場所で食事をしていた。
きっとそこだろう。まぁそこにいなくても、中庭にいてくれれば見つけられるので俺は素早くランチボックスを購入した。
そして、ルーカスが場所を取っているであろう場所に行こうとするとアレクシアの姿が見えた。
(あ、アレクシア?)
俺は木の影で立ち止まった。
ちょうどアレクシアがルーカスに声をかけていた。
「こんにちは、ルーカス様」
――!!
俺は感動で震えそうになっていた。
(あの……アレクシアが、ルーカスにあいさつを!!)
ルーカスの表情は見えないが、少し硬い声で言った。
「……あ、ああ。今日も健やかそうでないよりだ」
「……ルーカス様も……お元気そうで何よりですわ……今、お時間よろしいでしょうか?」
「もちろんだ。何だい?」
「来週末に王立劇場で"おうし座の超人"という演劇が上映されるのですが、ご一緒にいかがですか? 父が招待を受けたのですが、生憎とお忙しいらしく、ルーカス様は演劇がお好きでしょう?」
ルーカスは慌てながら答えた。
「私の好みを知っていたのか? あ、いや。そうではないな。すまないアレクシア。来週末は、共同研究のメンバーとまさにその演目を見に行くのだ。彼らと行くためにすでに一般席を予約している。悪いが、一緒にはいけない」
ルーカスの声が硬い。叱られるかもしれないと思っているのだろう。
どうする?
アレクシア!!
俺がじっと固唾を呑んで見守っていると、アレクシアがゆっくりと口を開いた。
「一般席……ルーカス様の研究テーマは『演劇』でしたものね。わかりました。では私は他の方に聞いてみます」
(すげぇ~~怒らなかった!! この状況でルーカスを怒らなかったぁ~~!!)
俺が感動で打ち震えていると、ルーカスが唖然とした後に口を開いた。
「………………あ、ああ。悪いな。ところで、アレクシアは私の研究テーマが『演劇』だと知っていたのか?」
アレクシアは少し間を開けて答えた。おそらくLesson2を実践しているのであろうことが伝わって来て……
(ああ、もう、俺、泣きそう)
「はい。テオドールにお伺いしましたので」
「え? テオに? なぜテオが?」
ルーカスはかなり驚いていた。
(あ、そういえば……ルーカスにアレクシアと同じだって言ってなかった気がする……)
俺はうっかりして伝えるのを忘れていたことを思い出すと、先ほどまで穏やかだったアレクシアの声に緊張が走った。
「……聞いていない? そうですか……テオドールにとって、私と同じだということはルーカス様に報告するほどのことでもない些細なことですのね……」
(あれ……何か……怒りの矛先が……俺になっていない??)
アレクシアは少し低い声で言った。
「お時間をいただきましてありがとうございます。ルーカス様、またお会いいたしましょう。失礼いたします」
アレクシアの声が聞こえた後にルーカスの慌てた声が聞こえた。
「あ、ああ。アレクシア、またな!!」
「ええ」
そしてアレクシアの姿が完全に見えなくなって、俺はゆっくりとルーカスの前に姿を現した。
ルーカスの隣に座ると、ルーカスが呆然としながら言った。
「テオ、私は先ほど、アレクシアと――会話をした!!」
「すみません、実は聞いていました……」
ルーカスは俺を見ると、目を大きく開けながら言った。
「そうか、では知っているかもしれないが、一応聞いてくれ、一度も小言を言われなかった」
「ええ、そうですね。しっかり会話ができていましたね!!」
(ルーカス、もう心取り戻せたんじゃね? 凄い!! もうこんなにも絶大な効果が!!)
俺が内心喜んでいるとルーカスが真剣な顔で言った。
「今日は機嫌がよかったのだろうな」
「……は?」
俺は思わずベンチからずり落ちそうになってしまった。
「あ、そっち?」
そしてうっかり呟くと、ルーカスが首を傾けた。
「どっちだ?」
「いや、なんでもない。とにかく食べようぜ」
「ああ。そうだな」
俺たちは食事を始めたが、内心しょんぼりとてしていた。
(まぁ、そうだよな。そんな簡単に印象変わらないか……)
◇
そして次の日の午後、共同研究の時間になって俺は自分の教室に向かった。
アレクシアは俺の顔を見ると、どこか不機嫌そうに「こんにちは」と言ったので、俺も「こんにちは」と言ってアレクシアの隣に座った。
「どうしてそんなに不機嫌そうなわけ?」
するとアレクシアが拗ねたように言った。
「あなたにとって、私と一緒に研究するということは、ルーカス様に報告するまでもないことですのね!!」
「あ~~それは忘れてただけだから。深い意味はない」
アレクシアはじっと俺を見た後に口を開いた。
「そうですか、わかりました。話は変わりますが、来週末お時間はありますか?」
俺の週末の予定はルーカス次第だ。そして来週はルーカスは共同研究メンバーと遊びに行くとのことなので約束は入っていない。
「来週はヒマだな……」
するとアレクシアが俺の顔を見ながら言った。
「よかった!! 来週末に一緒に観劇に行きましょう」
「は? 俺と??」
そう言えば、昨日アレクシアはルーカスに観劇に行くのを断られていたのを思い出した。
てっきり友達と行くのだろうと思っていたので、誘われたことに驚いてしまった。
「実は、今回の観劇は父の学生時代に友人が座長になり始めての公演ですのに、父と母は隣国に行く仕事が入りました。父の代わりにお祝の品を届けて、プレミアムボックス席を埋めるという重要な任務を仰せつかりました」
「何、それ……重要任務じゃん!! それ、俺が相手でいいわけ??」
「はい、むしろテオドールにか頼めませんわ。父の席はプレミアムボックス席。侯爵の父と母ならともかく、娘の私がそこに座るには、王族か、公爵家の方が一緒でなければ無理ですわ」
プレミアムボックス席。文字通り、高位貴族の鑑賞するための席だ。
この席が埋まるかどうかで劇団の質も問われるというほど劇団にとっては重要な席だ。
「どうして、もっとルーカスをしつこく誘わなかったんだよ!! ルーカスも同じ劇見るって言ってたじゃんか、どこで見ても同じじゃん!!」
俺よりも絶対にルーカスが座った方が劇団の評判になる。
「ルーカス様はいつも『いつか一般席に座って近くで演劇を見たい』とおっしゃっていましたの。学生の共同研究なら皆と共に見れるでしょう? せっかくの機会を奪うのも……こんな機会でもなければルーカス様が一般席に座れることはないのですから」
そうだ、ルーカスは王族。今後こんなことでもなければ生涯プレミアムボックス席にしか座れない。
しかもあの場所は舞台から一番遠く、スクリーンがあるわけでもないので役者の表情までは見えない。
(なるほどな……ルーカス。近くで演劇を見たかったのか……)
ルーカスが共同研究に『演劇』を選んだ理由が痛いほど理解できて何も言えなかった。
俺はアレクシアを見ながら言った。
「俺でよければ、ご一緒いたしますよ、お嬢様。"おうし座の超人"どんな話なのか興味あったし……」
正直ルーカスの代役は荷が重いが、アレクシアの両親のためにも俺の家の名前が役に立つながら活用しよう。
するとアレクシアが本当に嬉しそうに笑った。
「ふふふ、ありがとう。演劇に行くのが……楽しみだわ」
「え? あ、ああ。楽しみだな」
不覚にもアレクシアの笑顔に少しだけドキッとしたことは……内緒だ。
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