16 / 17
第16話 次期王太子妃の生涯最後の自由な一日
「おはよう、アレクシア」
俺は町人の姿で、アレクシアを迎えに行った。
「おはよう、テオドール!! 待っていたわ!! 今日はよろしくね」
アレクシアも町娘の姿で待っていてくれた。
高級な服を身に着けているわけでもないのにどこか高貴な雰囲気が漂ってくるのはアレクシアの佇まいが高貴だからなのだろう。
「どうかしら?」
不安そうな顔で俺を見上げる彼女は抱きしめたいと思えるほど……可愛い。
「可愛い」
「え? あの、ありがとう……でも、その……町で生活する方に見えるかしら?」
「あ、ああ。そういうことか!! ……大丈夫見えなくもないから」
「見えなくもない……」
「大丈夫だって、俺もいるし! 俺は確実に町人に見える、屋敷の執事長のお墨付き」
「ふふふ、そうね。いつもと見た目は違うわ」
アレクシアが肩を落としたが、こんなに髪がつやつやで、肌が透き通るように綺麗で手が白くて肌荒れ一つない町娘は恐らくいないのでないだろうか?
今日は町でも安全なエリアで、少し離れた場所から護衛がついていてくれている。
演劇も夜ではなく、昼の部を見る予定だ。
「さて、じゃあ行こうか。まずは市場調査だったな」
「ええ」
俺たちは簡易的な馬車に乗って町まで向かった
「私、屋根のない馬車に乗ったは初めてよ。風が心地いいわ」
侯爵家の令嬢なのだ。普段は屋根付きの馬車ばかり乗っているというのも立場上仕方ない。
「おっと」
帽子が飛びそうになって、俺は近づいてアレクシアの頭を押さえた。
「え? 何?」
アレクシアが、真っ赤な顔で俺を見上げた。
「あ、突然悪い。帽子が飛びそうだったか……」
「帽子……」
するとアレクシアが俺にさらに近づき、頭を倒してさらに近づいた。
「ちょ、アレクシア!?」
アレクシアは「この方が帽子を押さえやすいでしょう?」と言った。
「あはは、帽子を取ったりはしないんだ」
アレクシアは真っ赤な顔で言った。
「あ、そうよね、私が持てばいいのよね……」
そう言って帽子を取ろうとしたアレクシアの帽子を俺は変らず押さえた。
そんな俺を見てアレクシアが困ったように言った。
「テオドール、帽子が取れないわ」
「いいよ。俺が押さえているから。このまま行くぞ、肌赤くなるかもしれないし……」
アレクシアは嬉しそうな顔で素直に「そ、そう、ありがとう」と言ったので俺は照れが勝ってしまって「別に」と素っ気なく答えてしまった。でもそれでもなんだか嬉しくて、アレクシアの頭を抱き寄せるように身を寄せ合って町に向かった。
◇
「わぁ……凄い人ね!!」
「そうだな」
馬車で近くまで下ろしてもらって市の近くまで行くと凄い人だった。
「アレクシア、迷子になるなよ?」
俺が割と本気で心配すると、アレクシアが俺の手を取った。
(……は?)
こんなことで早くなる心臓が本気で……困る。
「迷子にならない自信がないわ……」
可愛く上目遣いで見つめられて、アレクシアの手をきつく握りしめた。
「わかった……見てるよ、ちゃんと」
そして笑ったアレクシアが楽しそうに言った。
「行きましょう!! テオドール!!」
「ああ、行こう」
そして二人で市を見て回った。
アレクシアは見るもの全てが新鮮だったようで、ずっとはしゃいでいた。
「あれは何? 大きなお肉……」
「ああ、あれはナイフで薄く切ってパンにはさむんだ。食べる?」
「気になるけど、さっきの色とりどりのフルーツの入った食べ物も気になるわ」
「ああ、カットフルーツ」
「それに、細いパスタのような茶色の麺も気になるわ」
「焼きそば?? あれ、なんだ?? 俺もわからないかも……」
「それに、棒に刺さったお肉も気になるわ」
「ああ、串焼き。あれは俺も気になる。じゃあ、全部見て回って気になるをいくつか買って二人で分けて食べるか」
アレクシアは驚いた後に嬉しそうに笑った。
「ええ。二人で分けて食べるわ!!」
そして、二人で市を全部見終わりそうな時だった。
「テオドール。これ宝石??」
「ああ、これはガラス細工だな」
「これがガラス?? 綺麗ね……」
アレクシアが立ち止まったので、俺はアレクシアに尋ねた。
「ほしいのある?」
「え?」
「今日の記念に何かプレゼントするよ。と言っても、そんなに高価なものでもないけど……」
アレクシアは嬉しそうに笑った。
「じゃあ、これがいいわ!!」
アレクシアが即断即決で選んだのは、俺たち『ハード・スナイパー』のコンビシンボルの『ひまわり』のような花のブローチだった。
みんなに笑いの花を咲かせたい。笑いの種を打ち込むという意味で名前を付けた。
これだけたくさんの種類がある中で、アレクシアがこれを選んで俺は思わず泣きそうになった。
「それが……いいの?」
泣きそうになりながら答えると、アレクシアが笑顔で言った。
「これがいいわ! だってこの花、テオドールのようなんですもの!!」
俺は気が付けば叫んでいた。
「すみませ~~ん。これあるだけ下さい!!」
「え!? あるだけ??」
アレクシアが驚いていたが、俺は気にせずに言った。
「あるだけ? ありがとうございます!」
店主はそこに並んでいた5つのヒマワリのブローチを差し出した。
「こんなにたくさんありがとう、テオドール。ふふふ、可愛いわ……」
「アレクシアにそれ、持っててほしいと思って」
アレクシアはセンスよく服に5つのブローチを付けた。
「どうかな?」
そんなアレクシアを見て俺は愛おしくて愛おしくてたまらなかった。
抱きしめたいと何度も思ったが、ルーカスの顔がちらついて……できなかった。
俺は手の平を握りしめながら言った。
「似合うよ……最高に……」
アレクシアも「ありがとう」と言って笑った。
――こんな笑顔が見たかった……
俺はずっと誰かを笑わせたいと思っていた。
異世界に来て、俺はようやく見たかった笑顔が見れた気がした。
「よし、じゃあ、屋台のもの食べて、おうし座の超人、見に行こう!!」
「ええ」
俺たちは手を繋いで今来た道を戻った。
アレクシアは終始楽しそうで、俺はそんな彼女を見ているが……つらいと思いながらも目を……逸らせなかった。
◇
「ここが一般席なのね……初めてだわ。舞台に近いわ!!」
「そうだな」
そして俺たちは昼食を済ませて劇場に入った。
昼間の公演だからか夜よりは空いていたし、ボックス席もほとんど空いていた。
知り合いに会うことはまずないだろう。
「楽しみね」
アレクシアが嬉しそうに言った。
「そうだな、どんな話なのかな? そもそも超人ってなんだよ!」
「超人は、人を超えた存在よ」
「あ、辞書情報ありがとう、でもそういんじゃなくてさ……」
演劇が始まる前も俺とアレクシアは話ながら始まるのを待った。
「ふふふ、楽しいわ」
アレクシアが呟くように言った。
「うん、俺も」
俺も小さく呟いた。
そして辺りが暗くなり――舞台の幕が上がった。
あなたにおすすめの小説
【完結】悪役令嬢はおねぇ執事の溺愛に気付かない
As-me.com
恋愛
完結しました。
自分が乙女ゲームの悪役令嬢に転生したと気付いたセリィナは悪役令嬢の悲惨なエンディングを思い出し、絶望して人間不信に陥った。
そんな中で、家族すらも信じられなくなっていたセリィナが唯一信じられるのは専属執事のライルだけだった。
ゲームには存在しないはずのライルは“おねぇ”だけど優しくて強くて……いつしかセリィナの特別な人になるのだった。
そしてセリィナは、いつしかライルに振り向いて欲しいと想いを募らせるようになるのだが……。
周りから見れば一目瞭然でも、セリィナだけが気付かないのである。
※こちらは「悪役令嬢とおねぇ執事」のリメイク版になります。基本の話はほとんど同じですが、所々変える予定です。
こちらが完結したら前の作品は消すかもしれませんのでご注意下さい。
ゆっくり亀更新です。
幼馴染みが描いた悪役令嬢ものの世界に「メイド」として転生したので、6年後の断罪イベントをどうにか回避したい
ゆずまめ鯉
恋愛
通勤途中、猫好きではないのに轢かれそうな黒猫をうっかり助けてしまい、死んでしまった主人公──水縞あいり(26)
鳥の囀りで目を覚ますとそこは天国……ではなく知らない天井だった。
狭い個室にはメイド服がかかっている。
とりあえず着替えて備えつけの鏡を見ると、そこには十代前半くらいの子どもの姿があった。
「この顔……どこか見覚えが……」
幼馴染みで漫画家、ミツルギサイチ(御剣才知)が描く、人気漫画「悪役令嬢が断罪されるまで」の登場人物だということに気がつく。
名前はミレア・ホルダー(本名はミレア・ウィン・ティルベリー)
没落貴族の令嬢で、現在、仕えているフランドル侯爵によって領地と洋館を奪われ、復讐のために、フランドル侯爵の長女イザベラが悪役令嬢になるのを止めず、むしろ後押しして見事断罪されてしまうキャラだった。
原作は未完だが、相談を受けていたのでどういう結末を迎えるのか知っている。
「二期アニメもまだ見てないし、どうせ転生するなら村人Aとかヒロインの母親がよかった……!!」
幼馴染みの描く世界に転生してしまった水縞あいり=ミレアが、フランドル侯爵家で断罪回避するべく、イザベラをどうにかお淑やかな女性になるように導いている途中。
病弱で原作だと生死不明になる、イザベラの腹違いの兄エミールに、協力してもらっているうちに求愛されていることに気づいてしまい──。
エミール・ディ・フランドル(20)×ミレア・ウィン・ティルベリー(18)
全30話の予定で現在、執筆中です。2月下旬に完結予定です。
タイトルや内容が変更になる場合もあります。ご了承ください。
ぽっちゃり令嬢の異世界カフェ巡り~太っているからと婚約破棄されましたが番のモフモフ獣人がいるので貴方のことはどうでもいいです~
翡翠蓮
ファンタジー
幼い頃から王太子殿下の婚約者であることが決められ、厳しい教育を施されていたアイリス。王太子のアルヴィーンに初めて会ったとき、この世界が自分の読んでいた恋愛小説の中で、自分は主人公をいじめる悪役令嬢だということに気づく。自分が追放されないようにアルヴィーンと愛を育もうとするが、殿下のことを好きになれず、さらに自宅の料理長が作る料理が大量で、残さず食べろと両親に言われているうちにぶくぶくと太ってしまう。その上、両親はアルヴィーン以外の情報をアイリスに入れてほしくないがために、アイリスが学園以外の外を歩くことを禁止していた。そして十八歳の冬、小説と同じ時期に婚約破棄される。婚約破棄の理由は、アルヴィーンの『運命の番』である兎獣人、ミリアと出会ったから、そして……豚のように太っているから。「豚のような女と婚約するつもりはない」そう言われ学園を追い出され家も追い出されたが、アイリスは内心大喜びだった。これで……一人で外に出ることができて、異世界のカフェを巡ることができる!?しかも、泣きながらやっていた王太子妃教育もない!?カフェ巡りを繰り返しているうちに、『運命の番』である狼獣人の騎士団副団長に出会って……
【完結】成り上がり令嬢暴走日記!
笹乃笹世
恋愛
異世界転生キタコレー!
と、テンションアゲアゲのリアーヌだったが、なんとその世界は乙女ゲームの舞台となった世界だった⁉︎
えっあの『ギフト』⁉︎
えっ物語のスタートは来年⁉︎
……ってことはつまり、攻略対象たちと同じ学園ライフを送れる……⁉︎
これも全て、ある日突然、貴族になってくれた両親のおかげねっ!
ーー……でもあのゲームに『リアーヌ・ボスハウト』なんてキャラが出てた記憶ないから……きっとキャラデザも無いようなモブ令嬢なんだろうな……
これは、ある日突然、貴族の仲間入りを果たしてしまった元日本人が、大好きなゲームの世界で元日本人かつ庶民ムーブをぶちかまし、知らず知らずのうちに周りの人間も巻き込んで騒動を起こしていく物語であるーー
果たしてリアーヌはこの世界で幸せになれるのか?
周りの人間たちは無事でいられるのかーー⁉︎
転生令嬢の涙 〜泣き虫な悪役令嬢は強気なヒロインと張り合えないので代わりに王子様が罠を仕掛けます〜
矢口愛留
恋愛
【タイトル変えました】
公爵令嬢エミリア・ブラウンは、突然前世の記憶を思い出す。
この世界は前世で読んだ小説の世界で、泣き虫の日本人だった私はエミリアに転生していたのだ。
小説によるとエミリアは悪役令嬢で、婚約者である王太子ラインハルトをヒロインのプリシラに奪われて嫉妬し、悪行の限りを尽くした挙句に断罪される運命なのである。
だが、記憶が蘇ったことで、エミリアは悪役令嬢らしからぬ泣き虫っぷりを発揮し、周囲を翻弄する。
どうしてもヒロインを排斥できないエミリアに代わって、実はエミリアを溺愛していた王子と、その側近がヒロインに罠を仕掛けていく。
それに気づかず小説通りに王子を籠絡しようとするヒロインと、その涙で全てをかき乱してしまう悪役令嬢と、間に挟まれる王子様の学園生活、その意外な結末とは――?
*異世界ものということで、文化や文明度の設定が緩めですがご容赦下さい。
*「小説家になろう」様、「カクヨム」様にも掲載しています。
ご令嬢は一人だけ別ゲーだったようです
バイオベース
恋愛
魔法が有り、魔物がいる。
そんな世界で生きる公爵家のご令嬢エレノアには欠点が一つあった。
それは強さの証である『レベル』が上がらないという事。
そんなある日、エレノアは身に覚えの無い罪で王子との婚約を破棄される。
同じ学院に通う平民の娘が『聖女』であり、王子はそれと結ばれるというのだ。
エレノアは『聖女』を害した悪女として、貴族籍をはく奪されて開拓村へと追いやられたのだった。
しかし当の本人はどこ吹く風。
エレノアは前世の記憶を持つ転生者だった。
そして『ここがゲームの世界』だという記憶の他にも、特別な力を一つ持っている。
それは『こことは違うゲームの世界の力』。
前世で遊び倒した農業系シミュレーションゲームの不思議な力だった。
まず、後宮に入れませんっ! ~悪役令嬢として他の国に嫁がされましたが、何故か荷物から勇者の剣が出てきたので、魔王を倒しに行くことになりました
菱沼あゆ
ファンタジー
妹の婚約者を狙う悪女だと罵られ、国を追い出された王女フェリシア。
残忍で好色だと評判のトレラント王のもとに嫁ぐことになるが。
何故か、輿入れの荷物の中には、勇者の剣が入っていた。
後宮にも入れず、魔王を倒しに行くことになったフェリシアは――。
(小説家になろうでも掲載しています)
叶えられた前世の願い
レクフル
ファンタジー
「私が貴女を愛することはない」初めて会った日にリュシアンにそう告げられたシオン。生まれる前からの婚約者であるリュシアンは、前世で支え合うようにして共に生きた人だった。しかしシオンは悪女と名高く、しかもリュシアンが憎む相手の娘として生まれ変わってしまったのだ。想う人を守る為に強くなったリュシアン。想う人を守る為に自らが代わりとなる事を望んだシオン。前世の願いは叶ったのに、思うようにいかない二人の想いはーーー