解散直後のお笑い芸人が異世界転生、悪役令嬢を真正悪女にプロデュース

たぬきち25番

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第16話 次期王太子妃の生涯最後の自由な一日




「おはよう、アレクシア」

 俺は町人の姿で、アレクシアを迎えに行った。

「おはよう、テオドール!! 待っていたわ!! 今日はよろしくね」

 アレクシアも町娘の姿で待っていてくれた。
 高級な服を身に着けているわけでもないのにどこか高貴な雰囲気が漂ってくるのはアレクシアの佇まいが高貴だからなのだろう。

「どうかしら?」

 不安そうな顔で俺を見上げる彼女は抱きしめたいと思えるほど……可愛い。

「可愛い」

「え? あの、ありがとう……でも、その……町で生活する方に見えるかしら?」

「あ、ああ。そういうことか!! ……大丈夫見えなくもないから」

「見えなくもない……」

「大丈夫だって、俺もいるし! 俺は確実に町人に見える、屋敷の執事長のお墨付き」

「ふふふ、そうね。いつもと見た目は違うわ」

 アレクシアが肩を落としたが、こんなに髪がつやつやで、肌が透き通るように綺麗で手が白くて肌荒れ一つない町娘は恐らくいないのでないだろうか?
 今日は町でも安全なエリアで、少し離れた場所から護衛がついていてくれている。
 演劇も夜ではなく、昼の部を見る予定だ。

「さて、じゃあ行こうか。まずは市場調査だったな」

「ええ」

 俺たちは簡易的な馬車に乗って町まで向かった

「私、屋根のない馬車に乗ったは初めてよ。風が心地いいわ」

 侯爵家の令嬢なのだ。普段は屋根付きの馬車ばかり乗っているというのも立場上仕方ない。

「おっと」

 帽子が飛びそうになって、俺は近づいてアレクシアの頭を押さえた。

「え? 何?」

 アレクシアが、真っ赤な顔で俺を見上げた。

「あ、突然悪い。帽子が飛びそうだったか……」

「帽子……」

 するとアレクシアが俺にさらに近づき、頭を倒してさらに近づいた。

「ちょ、アレクシア!?」

 アレクシアは「この方が帽子を押さえやすいでしょう?」と言った。

「あはは、帽子を取ったりはしないんだ」

 アレクシアは真っ赤な顔で言った。

「あ、そうよね、私が持てばいいのよね……」

 そう言って帽子を取ろうとしたアレクシアの帽子を俺は変らず押さえた。
 そんな俺を見てアレクシアが困ったように言った。

「テオドール、帽子が取れないわ」

「いいよ。俺が押さえているから。このまま行くぞ、肌赤くなるかもしれないし……」

 アレクシアは嬉しそうな顔で素直に「そ、そう、ありがとう」と言ったので俺は照れが勝ってしまって「別に」と素っ気なく答えてしまった。でもそれでもなんだか嬉しくて、アレクシアの頭を抱き寄せるように身を寄せ合って町に向かった。





「わぁ……凄い人ね!!」

「そうだな」

 馬車で近くまで下ろしてもらって市の近くまで行くと凄い人だった。
 
「アレクシア、迷子になるなよ?」

 俺が割と本気で心配すると、アレクシアが俺の手を取った。

(……は?)

 こんなことで早くなる心臓が本気で……困る。

「迷子にならない自信がないわ……」

 可愛く上目遣いで見つめられて、アレクシアの手をきつく握りしめた。

「わかった……見てるよ、ちゃんと」
 
 そして笑ったアレクシアが楽しそうに言った。

「行きましょう!! テオドール!!」

「ああ、行こう」

 そして二人で市を見て回った。
 アレクシアは見るもの全てが新鮮だったようで、ずっとはしゃいでいた。

「あれは何? 大きなお肉……」

「ああ、あれはナイフで薄く切ってパンにはさむんだ。食べる?」

「気になるけど、さっきの色とりどりのフルーツの入った食べ物も気になるわ」

「ああ、カットフルーツ」

「それに、細いパスタのような茶色の麺も気になるわ」

「焼きそば?? あれ、なんだ?? 俺もわからないかも……」

「それに、棒に刺さったお肉も気になるわ」

「ああ、串焼き。あれは俺も気になる。じゃあ、全部見て回って気になるをいくつか買って二人で分けて食べるか」

 アレクシアは驚いた後に嬉しそうに笑った。

「ええ。二人で分けて食べるわ!!」

 そして、二人で市を全部見終わりそうな時だった。

「テオドール。これ宝石??」

「ああ、これはガラス細工だな」

「これがガラス?? 綺麗ね……」

 アレクシアが立ち止まったので、俺はアレクシアに尋ねた。

「ほしいのある?」

「え?」

「今日の記念に何かプレゼントするよ。と言っても、そんなに高価なものでもないけど……」

 アレクシアは嬉しそうに笑った。

「じゃあ、これがいいわ!!」

 アレクシアが即断即決で選んだのは、俺たち『ハード・スナイパー』のコンビシンボルの『ひまわり』のような花のブローチだった。
 みんなに笑いの花を咲かせたい。笑いの種を打ち込むという意味で名前を付けた。
 これだけたくさんの種類がある中で、アレクシアがこれを選んで俺は思わず泣きそうになった。
 
「それが……いいの?」

 泣きそうになりながら答えると、アレクシアが笑顔で言った。

「これがいいわ! だってこの花、テオドールのようなんですもの!!」

 俺は気が付けば叫んでいた。

「すみませ~~ん。これあるだけ下さい!!」

「え!? あるだけ??」

 アレクシアが驚いていたが、俺は気にせずに言った。

「あるだけ? ありがとうございます!」

 店主はそこに並んでいた5つのヒマワリのブローチを差し出した。

「こんなにたくさんありがとう、テオドール。ふふふ、可愛いわ……」

「アレクシアにそれ、持っててほしいと思って」

 アレクシアはセンスよく服に5つのブローチを付けた。

「どうかな?」

 そんなアレクシアを見て俺は愛おしくて愛おしくてたまらなかった。
 抱きしめたいと何度も思ったが、ルーカスの顔がちらついて……できなかった。
 俺は手の平を握りしめながら言った。

「似合うよ……最高に……」

 アレクシアも「ありがとう」と言って笑った。

――こんな笑顔が見たかった……

 俺はずっと誰かを笑わせたいと思っていた。
 異世界に来て、俺はようやく見たかった笑顔が見れた気がした。

「よし、じゃあ、屋台のもの食べて、おうし座の超人、見に行こう!!」

「ええ」

 俺たちは手を繋いで今来た道を戻った。
 アレクシアは終始楽しそうで、俺はそんな彼女を見ているが……つらいと思いながらも目を……逸らせなかった。





「ここが一般席なのね……初めてだわ。舞台に近いわ!!」

「そうだな」

 そして俺たちは昼食を済ませて劇場に入った。
 昼間の公演だからか夜よりは空いていたし、ボックス席もほとんど空いていた。
 知り合いに会うことはまずないだろう。

「楽しみね」

 アレクシアが嬉しそうに言った。

「そうだな、どんな話なのかな? そもそも超人ってなんだよ!」

「超人は、人を超えた存在よ」

「あ、辞書情報ありがとう、でもそういんじゃなくてさ……」

 演劇が始まる前も俺とアレクシアは話ながら始まるのを待った。

「ふふふ、楽しいわ」

 アレクシアが呟くように言った。

「うん、俺も」

 俺も小さく呟いた。
 そして辺りが暗くなり――舞台の幕が上がった。


 

 
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