胸騒ぎの恋人

NADIA 川上

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第1章 邂逅編

新しい家族

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『……あ、ヤバ ―― もうこんな時間』


 今日の宿題と溜まった洗濯を済ませて、
 趣味のお菓子作りをしながら ――

 ふと壁の時計を見上げると

 お父さんに言われていた時間まであと1時間

 ここから駅までと電車の時間を計算すると ――、

 ……うわっ……
 もう準備しないと間に合わなくなる――っ?!

 飲んでいた紅茶のカップをシンクに投げ込んで
 急いで風呂場へ駆け込んだ。


 なんとか予定の電車に乗り込んで ――
 父さんと待ち合わせのホテルがある
 有楽町に着いたのは
 待ち合わせ時間の10分程前だった。
 ふぅ~~っ ―― ( ´Д`)=3 
 ギリギリセーフ……。



「――まぁ、今さら改まって紹介する仲でもないが、
 こちらが登紀子さん、そして息子さんの勇人くんだ
 ――で、この子が、私の自慢の息子・あずさです」

「あずさです、よろしく」


 僕がそう言って軽く頭を下げると、
 前の席に座った髪金の元ヤンみたいな奴が
 人の顔をチラッと見て小さく吹き出した。


「プッ――自慢のムスコ、ねぇ……」


 僕は思わずムッとした。


「そうだよ~、あずさはねぇ家事全般何でもこなせて、
 おまけに学校での評判もいいんだ。私のような
 至らない父親には出来すぎの息子さ」


 いつものように息子自慢を全開させる父・手嶌に、
 僕の顔はみるみる真っ赤になっていく。


「も、父さんってば止めてよ、恥ずかしいってばぁ」


 対する”はやと”と紹介された髪金野朗は
 父さんが上機嫌で話しを進め出しても、
 母親である登紀子さんの隣でブスッとつまらなそうに、
 テーブルの上に肩肘ついて、
 1度もこっちを見ようともせず。

 ずっと窓外へ視線を泳がせている。

 僕は思った―― これからこんな奴と一緒に暮らして
 同じ学校に通うのかぁ……あぁ、気が重い。
 


「――ほ~ら、勇人、
 あんたもきちんと挨拶なさいっ」


 登紀子さんから強い口調で言われ、
 仕方なくといった感じで。
 髪金・はやとは父さんと僕を上目遣いに見て、
 フッと小馬鹿にしたような笑みを浮かべつつ 
 「よろしゅう」と言った。


「もうっ、ごめんなさいねぇ。あずちゃん、
 ま、こんな無愛想な奴だけどこれからも末永く
 仲良くしてやってね」


 ”はっきり言って、自信ありませんが……” 


 髪金野朗の態度や服装がどうか? とかは、
 この際脇に置いておいて。

 うちら一行は当たり障りのない世間話をしながら、
 このホテルご自慢のスペシャルディナーを心ゆくまで
 堪能し。   


 ”それじゃ後は、
  若い人は若い人達同士でってコトで――”

 
 と、何だかお見合いの席での決まり文句みたいな
 言葉を残して父さんと登紀子さんはエレベーターホール
 の方へ仲睦まじく歩いて行った。

 おそらくこのホテルの客室をチャージしていて、
 これから2人でまったり……というワケだろう。 
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