7年目の本気

NADIA 川上

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女心と秋の風

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「―― うーん、困ったなぁ」


 賑わう通りをきょろきょろ見回す和巴は
 眉をひそめ呟いた。

 利沙や千早らと並んで歩いていたのだが、
 ふと耳に入った泣き声に足を止めた。

 そして雑踏に逆らうようにして泣き声に向かう。

 そこには浴衣を着た小さな女の子が母親と
 はぐれたのか、声を上げて泣いていた。


「大丈夫?」


 しゃがみ込んだ和巴は少女に声をかけ、
 励ますように手を握る。

 母親も探しているに違いない。

 どうしようか考えあぐねていると、
 たこ焼き屋台の主人から
 祭りの警備本部へ行ってみたらどうか? と
 勧められ和巴は早速そこに向かった。

 そこで
 女の子は無事母親と再会したが、
 今度は和巴がはぐれてしまったのだ。

 どんな人混みの中でも大柄な皓を見つける事は
 できると思っていたが、
 さすがにこの賑わいの中ではそう簡単に
 見つけられそうにない。


「もしかして、私が迷子になった……?」


 スマホは圏外。
 自分自身に呆れて、乾いた笑いしか出てこない。


「じっとしていても仕方ない」


 皆んなも探してくれているに違いない。

 互いが動いていたら会えないのではないか。

 そう思った和巴はこの神社の入り口で
 待つ事にした。

 人並みを眺めながら待つこと数分。

 ドーンと大きな音がして花火が上がった。

 祭りに来ている殆どが花火目当てなのだろう。
 足を止めて夜空を見上げる。

 すぐに二発目、三発目と夜空に花が咲き、
 皆で見る事ができたらもっと楽しかっただろうと
 思いながら和巴もその美しさに目を見張った。

 花火は四発、五発と次々上がる。

 花開く時は綺麗だと思うが消えてなくなると
 切なくなる。
 ましてや和巴は現在迷子状態だ。


「一緒に見たかったなぁ」


 心細く呟くと、


「そう思うなら勝手にうろちょろ歩き回るな」


 すぐ真横で声がして、
 和巴は飛び上がるほど驚いた。

 夜空を見上げていたから気づかなかったのだ。


「うさみさん ―― どうして……??」

「あぁ、オレだ。大丈夫、見つかった」


 宇佐見は自分のスマホで誰かに連絡した後、
 和巴に向き直った。


「あ、あの、ワケは何だか分かりませんが、
 お手数おかけしました……」


 社会人にもなって迷子になろうとは思っても
 いなかった。
 しゅんと項垂れた和巴の髪を宇佐見がくしゃりと
 撫でる。


「で、楽しめた?」

「はい、とっても」


 今年は卒業準備で忙しく、
 こうして日本の季節の行事を楽しむ機会と
 余裕もなかった和巴は、
 本当に嬉しそうな笑顔を見せた。

 ドーン、ドーンと続けて音がして、
 和巴と宇佐見の頭上で、
 晴天の夜空に大輪の華が咲いた。

 夜空に広がる鮮やかな華を見上げる。

 今まで見た中で一番綺麗だと和巴は思った。


 花火は第一会場・第二会場同時の
 大フィナーレで無事終焉。

 宇佐見と和巴は肩を並べて帰路につく。

 もうすぐ新しい年が明ける……。

 期せずして秋祭りを楽しめた和巴は
 幸せだった。


*****  *****  *****



 この後は成り行きで宇佐見のマンションへ
 雪崩れ込み、
  
 深夜の一室で妙齢の男女が、
 一升瓶からそのまま冷酒をコップに注ぎ酌み交わし
 大盛り上がり。


「―― あぁ、もうこんな時間。楽しいけど
 そろそろお暇しなきゃ」


 和巴はココへ来る前立ち寄った食堂でも
 結構な量飲んでたから
 もう放っておいても瞼がくっついちゃうくらい
 眠たくって。

 ゆらゆら舟を漕ぎ始めて……
 不意に温かな感じに包まれたと思ったら、
 そこは宇佐見の腕の中で……



「……気持ち、いい……」

「ホント?」

「ん、んん……ね、もっと、ぎゅーして……」


 なんて、図々しいリクエストをしながら、
 宇佐見にギュッと抱きしめられたまま、
 夢の谷底へ落ちていった。
  

 ***  ***  ***
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