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37 絢音、陥落 ―― 欲情に溺れ
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そして ―― 言われた通り、きっかり2時間後。
絢音は帝国ホテルを訪れ、フロントで教えられた三上が宿泊中の
客室へ向かった。
部屋に通され、ドアを閉めて。
しばらく絢音の顔をじっと見つめていた三上が、なんだか知らないが満足そうに笑った。
それから頭を撫でられて、ただそれだけで、絢音の心臓は早くなった。
「で、どうした?」
「どうしたって……会いたかったから」
「うん。だから、なんで?」
「会いたいのに、理由がいるん?」
絢音が問い返すと、三上は困った様に笑った。
期待していた答えではないが、機嫌は悪くない、そんな表情だ。
「さて、この時間に会いたいと言われて、俺はどうしたらいいのかな?」
絢音は少しだけ、目の前の男が憎らしくなった。
どうせこの男の事だ、絢音が会いたいと言った理由はお見通しだろう。
分かった上で絢音が”抱いて”と、口にするのを待っているのだ。
こうなったら、絢音が口にするまで三上は何時間でも待つ。
そういう人間だということは、分かっている。
「三上さん……」
「うん?」
玄関先で、する話でもない。
でも、このままでは先に進めないし、この距離で三上と向き合っている今、絢音にはこれ以上先延ばしにする余裕はない。
「セッ*ス、したいんです」
「ずいぶん、直接的だな」
「他にうまい表現が浮かばないので」
絢音が小さく呟くと、三上は笑ったまま、目を動かした。
それから絢音の手をとり、中へと促す。
「おいで」
三上はリビングを抜け、そのまま絢音を寝室まで連れて行くとそこで手を離した。
立ち尽くす絢音はそのままに、ベッドに腰かけた三上は、考えるように首をかしげた。
「俺をその気にさせてごらん」
誰が、誰を?
言われて答えられない絢音に、三上は再度要求した。
「絢音が、ヤりたいって言い出したわけだし……ね?」
絢音はにっこりとほほ笑む三上を前に、軽くフリーズしていた。
確かに、会いたいと言い出したのは自分の方だし、三上の要求はおかしな事ではない。
セッ*スは両方向であるべきだ。それは正しい。
ただ、意表を突かれたのだ。
「お子様にはテーマが高度すぎたか」
動けない絢音に、三上が苦笑する。
高度すぎるかどうか知らないが、その気にさせろと言われて途方にくれているのは事実だ。
考えてみればいつも絢音は受け身で、仕掛けるのは相手の方だった。
確かに、抱かれる側だからといって、すべて受け身である必要はない。
その気にさせろと三上が言うからには、絢音の方から仕掛けるのも、アリだという事なのだろう。
けど、自分が仕掛けて、この男がその気になんてなるんだろうか。
頭の片隅に不安が生じるが、それ以上に三上が欲しいという飢餓感の方が切実だった。
絢音はゆっくりと座ったままの三上に近づく。
いつもと違って上から見下ろす絢音を、三上はやはり微笑んだまま見上げていた。
絢音は、震える手で、三上の頬にふれた。
手のひらから三上の体温が伝わった瞬間、心臓を鷲掴みにされたような衝撃を感じて理性が飛ぶのが分かった。
好きだと思った。
そして、欲しいと思った。
のしかかる様に体を寄せて、唇を奪う。
倒れるかと思った三上は、絢音の予想に反してびくともしない。
絢音は三上の頭を両手で抱え込み、キスを続けた。
かきだくようにまわした手で、三上の首筋を撫で、髪の手触りを感じる。
帰宅してシャワーを浴びたのだろう三上の髪は、少し湿っていて、シャンプーの香りがした。
差し込んだ絢音の舌を、三上が誘うように絡め取る。
その気にさせる前に自分が溺れそうな気がして、絢音は必死にそれを追いかける。
静かな室内に、自分たちが交わす口づけの音だけが響く。
それをぼんやりと聞きながら、絢音は飢えたように三上の舌を追いかけ続けた。
唇をゆっくりと離し間近に覗き込んだ三上の瞳が、ネコ科の猛獣のように細められていた。
それを見て、絢音は自分がやっている事が間違っていないのだと安心する。
シャツに手を伸ばして、ボタンをひとつひとつ外していく。
手に触れる、洗いざらしの麻生地の感触さえ心地よかった。
肌蹴た三上の胸に手を這わせて、首筋に顔を埋めると、不意に噛みつきたい様な衝動に駆られて、絢音は三上の鎖骨をゆるく噛んだ。
「コラ……」
笑いながら、三上がその行為を咎める。
絢音は赤くなった噛みあとを舐め、三上を窺った。
三上は楽しそうに絢音を眺めているが、その瞳の奥には、情欲の気配が見える。
三上の素肌に這わせた手を下へ下へと移動させて、一瞬躊躇ったあと、思い切って脚の間に触れた。
そしてソレをそうっと握り込むと、ゆるく反応している事が分かって、絢音は何となく嬉しくなった。
「―― 服を脱いで」
笑いながら言われて、絢音は虚を突かれたように動きを止めた。
「……え?」
「そのまま、ここで服を脱いで?」
三上は、ベッドを椅子代わりに座ったままだ。
絢音が立っているのは、その脚の間、体温が分かるほどの距離。
絢音は三上を見つめたまま、羽織っていた……を脱いだ。
それから、下に着ていたカットソーを脱ぎ捨てて、スカートのホックを外す。
その瞬間、見つめ合ったままの三上がゆらりと立ち上がり絢音の腕をつかむ。
そしてつぎの瞬間、軽く脚を払われた。
あっ! と思った時には体のバランスが崩れて、絢音の体はベッドに倒れ込んでいた。
そして、目の前に、にっこり笑う三上の綺麗な顔があった。
絢音は帝国ホテルを訪れ、フロントで教えられた三上が宿泊中の
客室へ向かった。
部屋に通され、ドアを閉めて。
しばらく絢音の顔をじっと見つめていた三上が、なんだか知らないが満足そうに笑った。
それから頭を撫でられて、ただそれだけで、絢音の心臓は早くなった。
「で、どうした?」
「どうしたって……会いたかったから」
「うん。だから、なんで?」
「会いたいのに、理由がいるん?」
絢音が問い返すと、三上は困った様に笑った。
期待していた答えではないが、機嫌は悪くない、そんな表情だ。
「さて、この時間に会いたいと言われて、俺はどうしたらいいのかな?」
絢音は少しだけ、目の前の男が憎らしくなった。
どうせこの男の事だ、絢音が会いたいと言った理由はお見通しだろう。
分かった上で絢音が”抱いて”と、口にするのを待っているのだ。
こうなったら、絢音が口にするまで三上は何時間でも待つ。
そういう人間だということは、分かっている。
「三上さん……」
「うん?」
玄関先で、する話でもない。
でも、このままでは先に進めないし、この距離で三上と向き合っている今、絢音にはこれ以上先延ばしにする余裕はない。
「セッ*ス、したいんです」
「ずいぶん、直接的だな」
「他にうまい表現が浮かばないので」
絢音が小さく呟くと、三上は笑ったまま、目を動かした。
それから絢音の手をとり、中へと促す。
「おいで」
三上はリビングを抜け、そのまま絢音を寝室まで連れて行くとそこで手を離した。
立ち尽くす絢音はそのままに、ベッドに腰かけた三上は、考えるように首をかしげた。
「俺をその気にさせてごらん」
誰が、誰を?
言われて答えられない絢音に、三上は再度要求した。
「絢音が、ヤりたいって言い出したわけだし……ね?」
絢音はにっこりとほほ笑む三上を前に、軽くフリーズしていた。
確かに、会いたいと言い出したのは自分の方だし、三上の要求はおかしな事ではない。
セッ*スは両方向であるべきだ。それは正しい。
ただ、意表を突かれたのだ。
「お子様にはテーマが高度すぎたか」
動けない絢音に、三上が苦笑する。
高度すぎるかどうか知らないが、その気にさせろと言われて途方にくれているのは事実だ。
考えてみればいつも絢音は受け身で、仕掛けるのは相手の方だった。
確かに、抱かれる側だからといって、すべて受け身である必要はない。
その気にさせろと三上が言うからには、絢音の方から仕掛けるのも、アリだという事なのだろう。
けど、自分が仕掛けて、この男がその気になんてなるんだろうか。
頭の片隅に不安が生じるが、それ以上に三上が欲しいという飢餓感の方が切実だった。
絢音はゆっくりと座ったままの三上に近づく。
いつもと違って上から見下ろす絢音を、三上はやはり微笑んだまま見上げていた。
絢音は、震える手で、三上の頬にふれた。
手のひらから三上の体温が伝わった瞬間、心臓を鷲掴みにされたような衝撃を感じて理性が飛ぶのが分かった。
好きだと思った。
そして、欲しいと思った。
のしかかる様に体を寄せて、唇を奪う。
倒れるかと思った三上は、絢音の予想に反してびくともしない。
絢音は三上の頭を両手で抱え込み、キスを続けた。
かきだくようにまわした手で、三上の首筋を撫で、髪の手触りを感じる。
帰宅してシャワーを浴びたのだろう三上の髪は、少し湿っていて、シャンプーの香りがした。
差し込んだ絢音の舌を、三上が誘うように絡め取る。
その気にさせる前に自分が溺れそうな気がして、絢音は必死にそれを追いかける。
静かな室内に、自分たちが交わす口づけの音だけが響く。
それをぼんやりと聞きながら、絢音は飢えたように三上の舌を追いかけ続けた。
唇をゆっくりと離し間近に覗き込んだ三上の瞳が、ネコ科の猛獣のように細められていた。
それを見て、絢音は自分がやっている事が間違っていないのだと安心する。
シャツに手を伸ばして、ボタンをひとつひとつ外していく。
手に触れる、洗いざらしの麻生地の感触さえ心地よかった。
肌蹴た三上の胸に手を這わせて、首筋に顔を埋めると、不意に噛みつきたい様な衝動に駆られて、絢音は三上の鎖骨をゆるく噛んだ。
「コラ……」
笑いながら、三上がその行為を咎める。
絢音は赤くなった噛みあとを舐め、三上を窺った。
三上は楽しそうに絢音を眺めているが、その瞳の奥には、情欲の気配が見える。
三上の素肌に這わせた手を下へ下へと移動させて、一瞬躊躇ったあと、思い切って脚の間に触れた。
そしてソレをそうっと握り込むと、ゆるく反応している事が分かって、絢音は何となく嬉しくなった。
「―― 服を脱いで」
笑いながら言われて、絢音は虚を突かれたように動きを止めた。
「……え?」
「そのまま、ここで服を脱いで?」
三上は、ベッドを椅子代わりに座ったままだ。
絢音が立っているのは、その脚の間、体温が分かるほどの距離。
絢音は三上を見つめたまま、羽織っていた……を脱いだ。
それから、下に着ていたカットソーを脱ぎ捨てて、スカートのホックを外す。
その瞬間、見つめ合ったままの三上がゆらりと立ち上がり絢音の腕をつかむ。
そしてつぎの瞬間、軽く脚を払われた。
あっ! と思った時には体のバランスが崩れて、絢音の体はベッドに倒れ込んでいた。
そして、目の前に、にっこり笑う三上の綺麗な顔があった。
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