69 / 83
68 女の羨望
しおりを挟む今日は終日幹部会議
いつも賑やかな4階フロアはシ~ンと静まり返っている。
「麻衣ちゃん」
ちょうど笹本麻衣が前方に歩いていたので声をかけた。
「この前は付き合えんでごめんね」
「ううん。専務のお伴やったんやもん、仕事じゃ仕方ない。けど、次は一緒しようね? 絢音さんの為によりすぐったイケメン集めるさかい」
「うん。その時は宜しゅう」
部署へ戻ると、笠井さんに声をかけられた。
彼女は先週、派遣会社から来た派遣社員さんだが、何となく雰囲気が城東支社の細田女史に似ていて少し苦手だ。
「和泉さん ―― 昨日の帰りは何時だったの?」
「えっと、夕方の5時くらいだったと思います」
実は昨日も三上専務の外回りに付き合わされた。
「で、お昼とか、お食事はどうしたの?」
「専務にご馳走して頂きました」
「あ、そう……なら、いいんだけど……」
しばしの、沈黙……。
たとえどんな種類の会話でも、沈黙は苦手だ。
相手が、自分に対してどんな感情を持っているのか?
とか、沈黙の間に妙な勘ぐりをしてしまうから。
重い口を渋々開くように、笠井さんは言った。
「―― あのね、和泉さん。三上専務って、手当たり次第に女性スタッフへ手を出すって噂があって……あなたも気を付けた方がいいわよ」
「えっ?! あ、はい。わざわざ教えて下さってありがとうございました。気を付けます」
”あの三上さんが手当たり次第に??”
そんなの絶対あり得ない!
笠井さんから言われた忠告に、かなりの違和感を感じつつも、
何かが可怪しい……ただ、それくらいしか分からなかった。
そして、お昼 ――。
屋上で手作り弁当を食べてから3階フロアに帰ってくると、上の階の先輩女子社員に、会議室へ呼びつけられた。
「あなたが、和泉さん?」
「はい、そうです」
「昨日、三上専務と食事したんですって? あんまりイイ気にならないことね」
うわっ ―― ド直球! この人、何者?
「出先、でしたので……」
「あなたがお強請りしたんとちゃう? 近頃の若い子は節度も謙虚さも皆無なのね」
ムカッ。
「とにかく、三上専務には今後一切近付かないでっ」
あんたらにそこまで言われる筋合いはない。
コン コン ――
小さなノックの後、開いたドアからまなみさんが顔をだし。
「あぁ、和泉さん、こんな所にいたの? 随分探したわ。会議、休憩に入ったから皆さんのお茶淹れ手伝ってくれる?」
「はいっ。喜んで」
未だ私を睨むようにキツネ目で見ている女子先輩社員の方々へ、ペコリと会釈し、はるかさんについて会議室を出た。
*** *** ***
そのまま、まなみさんと一緒に向かった給湯室で。
「―― あぁ、だから言わんこっちゃない! 笠井さんの取り巻きは特に目ざといし、しつこいんだからっ」
この時になって ”お茶淹れ”は、私をあの場から出す為の口実だったと気が付いた。
「ありがとうございました、うち、あのままいたら、いらん事あの人らに言うてたかも知れません」
「三上専務って、今までは女子社員に見向きもしないで来たから、まして、ツーショットでの食事なんて今まであり得なかったからね~」
「あの ―― その、食事の話し、誰に聞きました?」
「誰に話した?」
「あっ……!」
私は思わず口元を手で押さえた。
「そ。彼女が取り巻きのボス。ずぅーっと、あなた達が帰ってくるのイライラ
しながら待ってたのよー」
「そう、だったんですかぁ……」
げに、恐ろしきは、女の嫉妬と歪んだ羨望心。
「これまでは、さっきみたいに呼び出して釘を刺すなんて、しなかったんやけどね~。あやちゃんはよほど脅威らしいわ」
「私が脅威ですか? そんな事あり得ませんよ絶対」
「ううん、そんな事ない。あなたは充分魅力的だし。多分、専務もあなたのそんなとこに惹かれてるんじゃないかな」
「もうっ、まなみさんってば……」
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
2
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる