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成長編
broken angel
しおりを挟む「―― じゃあ、お疲れ様でしたぁ、お先に失礼します」
「あぁ、絢ちゃん。お疲れ様です。お気をつけて」
この日も絢音はいつものように通用口の詰め所にいる、警備の本間に挨拶し嵯峨野書房城東支社を後にした。
現在の時刻、午後7時半 ――
真冬の夕暮れは早く、辺りはすっかり宵闇に包まれている。
”うぅ~~、さぶぅ~”と、肩をすぼめ、コートの襟を立てて、ふと、空を見上げれば ――
上空より何やら白っぽいふわふわした物が無数に舞い降りて来る。
「あー、雪……」
道理で底冷えする訳だ。
知らず知らずのうちに猫背になって、家路を急ぐ。
「―― ごめんねぇ、ちゃんと家で飼ってあげられればいいんだけど今住んでるとこ、ペット禁止だから」
ここは帰宅途中にある小さな児童公園。
2~3ヶ月程前からミケの仔猫が住みついていて、社食からもらっておいた残飯を与えている。
猫が無心に餌を食べる可愛い姿に癒されマンションへ向かう。
マンションの外観が見えてくると、それまで寒さの為せかせかしていた足取りも幾分緩やかになり。
寒さで縮こまっていた猫背もスクっと伸びてゆく。
そんな絢音が近付いて来た気配に気付いて、マンション出入り口脇の花壇に踞るよう腰掛けていた女性がゆっくり立ち上がった。
「茉莉江……」
茉莉江の表情からロケに出かける1週間前に会った時のような、たかビーな感じは一切見受けられず、反対に今日の彼女はどことなく自信なさ気で心なしか顔色も青ざめている様に見える。
そんないつもの様子と全く違う茉莉江を見て、何かを察した絢音は――
「寒かったでしょ。ここあなたも住人なんだから中へ入れば良かったのに。さ、早く入ろ」
今夜、もう1人のルームメイト・咲夜は彼氏の家へお泊りの日で帰って来ない。
「――適当に座ってて。今、コーヒー淹れるね」
片隅のコーヒーメーカーから2人分のコーヒーをマグに注いで、テーブルに置く。
相変わらず冴えない表情の茉莉江。
何かに酷く思い詰めている様に見えるが、茉莉江が何か言ってくれなければ絢音にはどうしてやる事も出来ない。
俯いている茉莉江が、ポツリポツリ、喋り始める ――。
「……わたし、あやにはいっぱい、いっぱい、すごくいやな事してきたのにどうして、そんなわたしに優しくしてくれるの?」
「ん~……どうしてって……そりゃ、まぁ――えっと、どうしてだろ。アハハハ、あたしにもわかんないや」
と、絢音が笑うと、つられた様に茉莉江も笑ったが、その笑いはやがて抑えた嗚咽に変わってゆく。
そして、嗚咽は号泣に変わり――。
絢音はそんな茉莉江の傍らに寄り添い、ただ黙ってその小刻みに震える背中を優しく撫でてやる。
ひとしきり泣いたあと、茉莉江はポケットから取り出したハンカチで思い切り鼻をかんで。
「ほんとにごめんね」
「も~うっ。水臭い事言いっこなし。仮にもうちらは義姉妹同士なんだよ」
晩ごはんは簡単に買い置きのカップ麺で済ませた。
その後、入浴を済ませ、床に就いたら、余程疲れていたのか?
茉莉江はあっという間に眠ってしまった。
ま、今日はとりあえずこれでひと安心だけど、茉莉江に一体何があったのだろうか……。
滅多な事で他人(ひと)に自分の弱みを見せたりしない彼女が、人前で大泣きした事実に絢音は戸惑って、今後、茉莉江にどう接したら良いか?
思い悩む絢音だった。
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