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東京編

流されて ~ 焼き肉

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 私相手に見栄を張ってもしょうがないと思うけど?


 店内に入ると、マネージャーらしい黒服が
 ダサみに声を掛けた。


「各務様、いつもありがとうございます」

   
 こんな高級店で常連なわけ?

 教授か誰かと接待で一緒に来たのかな。
 うん、多分そうだ。
  
 個室に通されて、向き合って座る。


「何でも好きなのを選べ」

「んじゃ、遠慮なく ――」


 とは言ったものの、こいつの懐具合も気になる。

 ホントに良いのかぁ? お金あるのか?


「おぉ、じゃんじゃん 頼め」
 

 大人って色々大変だ……と思った時、
 扉が開いて店の人が入ってきた。


「各務様、本日はご来店ありがとうございます。
 とても良い肉が入っておりますが……」

「じゃあ、それを貰おう。後は適当に頼むよ」

「はい。畏まりました」


 ちょっと、ねぇっ!

 うちに選ばせてくれるんやなかったん?

 ナニ勝手に決めてんのよ!

 ダサみが私を見た。

  
「どうせ食うなら美味い肉の方がいいだろ?」

「え?」

「『うちに選ばせろ』と顔に書いてある」


 また、ダサみに笑われた。


 明らかに高そうな霜降りや赤身の肉がテーブルに
 並び、ダサみ自らが肉を焼き始めた。


「―― ほら、食え」

「い……いた、だきます」

「どうぞ」


 ひと口食べて、私は唸った! 


「うわっ、めっちゃおいし!」


 こんなお肉、食べた事ない! さすが高級店!
  

「だろ? 店長お勧めだからな」
 
 
 ダサみが笑いながら肉を焼いてくれる。

 さっきの人は店長だったんだ……でも、普通店長が
 挨拶しに来るのか? ただの常連客に??

 疑問を感じながら、肉を食っている私に、
 ダサみがグラスを掲げた。


「遅ればせながら、今回も学内模試主席おめでとう」

「あ ―― ありがと」


 ソフトドリンク同士のグラスがカチリと
 合わさって、乾杯。
  
  
「ってか、ただの非常勤講師のくせして、どうして
 そんな事まで知ってるの?」
 
「だから、それは世を忍ぶの姿だって言ったハズだが」

「……あんたってマジ、掴みどころないね」

「うん。よく、そう言われる」

「―― あー、そうだぁ……あんたについて、1つ2つ
 とっても興味深い噂聞いた事があるんやけど」
 
「??……」

「現学長の隠し子で、次期学長の最有力候補
 なんですって?」
 
「謎は謎のままの方が、探求する楽しみもある」

「つまり、ノーコメント?」

「あぁ、とりあえず今はそうしておこう」     


 上ヒレ・上カルビ・とうがらし(赤身の希少部位)
 ミスジ・シャトーブリアン等など ――、
 一見(いちげん)客じゃまず食べられないような
 メニューの数々をたらふく食べ。
  
 この店オリジナルのスペシャル冷麺と
 スウィーツ盛り合わせで締めた。
  
 う~ん、満腹 満腹……。
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