欠番の塔

ドルドレオン

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◆ アーロン・ヴァーレイ

エレベーターは音もなく上昇していたが、なぜかフロア数が減っていった。

19、18、16、15、14…
まるでアーロンの人生の巻き戻しのように。

そして——「 」。

ボタンに表示されていたはずの「17」が、点滅をやめ、ただの空白になった。
次の瞬間、エレベーターは停止した。

扉が開く。
まるで、記憶の中のどこかをそのまま剥き出しにしたような空間。
蛍光灯は点いていないのに、部屋全体が白黒写真のように明るい。
壁一面に、数字の断片が貼りつけられていた。

【19の前の存在】

【16の後の予兆】

【禁じられた中間項】

【17】

その中心に、机。
上にはファイルが一冊。
開くと、こう書かれていた。

「17階に入った者は、自身の“観測可能性”を失う。
他者の記憶に残ることができず、時間の通路から弾かれる。
しかし——同時に、この世界の中で唯一、真の“中間”を見ることができる存在となる」

アーロンの頭が重くなった。思考が、他人のもののように感じられる。
自分が“何を探していたか”を、もう少しで忘れかけている。
だが、それでも彼は進んだ。
17階の奥へ。

◆ 捜査官ナディア・ケイン(K.S.S.)

同時刻。
区画Dの上空、無人偵察ドローン“セクション31-リーフ”が旋回していた。
管制室でモニターを睨むのは、K.S.S.エージェント・ナディア・ケイン。

「塔が見えたか?」

「否。建造物の映像データは16フレーム目で欠損。
セクション31のAIは“視覚ノイズ”と判定。マッピング不能」

ナディアは静かにため息をつき、金属製の小型ケースを開けた。
中には一本の針のような装置。
「観測針・No.17」とラベルが貼られている。

「つまり、塔は観測されることで折りたたまれてる。じゃあ、観測不能な私が入れば、構造が展開するはず…」

部下が言う。「それはプロトコル違反です」

「プロトコル17番が欠番になった今、私は規則の“あいだ”を動ける」

ナディアは立ち上がり、外へ出た。
区画Dの境界に近づくにつれ、空気が変わった。

——静かすぎる。
かつての爆心地のような、音の沈黙。
そして、彼女の目には見えた。

塔。

17階建てではない。
むしろ、17という“概念”の形をしていた。
外観が変わる。見る角度によって、9階にも、13階にも、34階にも見える。
でも、常に“17”を想起させる何かが身体感覚として**ある。

ナディアは腰のホルスターから“観測針”を抜き、掌に刺す。
神経系に17番周波のノイズが流れ込み、彼女の「視覚」が変質する。
塔がはっきりと立ち現れた。

「ヴァーレイはこの塔に入った。
17の記憶に触れた者は、削除しなければならない」

彼女は、エレベーターへと歩き始めた。

◆ 十七階・内部

アーロンは奥の部屋で、壁一面に設置された古いパンチカード装置を見つけた。
1枚、紙が残っていた。

印字されているのは、

“ARON VALAY – 17TH INSTANCE // LOOP 4 – OBSERVER TYPE C-NULL”

彼は震えた。
“アーロン・ヴァーレイ”はすでに4回繰り返されていた記録。
この塔は「観測されなかった履歴」を回収し、蓄積する場所だったのだ。
彼はすでに“存在していた”が、毎回17階でリセットされていた。

そのとき、扉が開いた。

ナディアが現れた。
銃は構えていなかった。
ただ、彼を見つめたまま言った。

「きみはもう、数字じゃない」

アーロンは答える。

「それでも、ぼくはまだ、ここにいる」
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