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最終話 推しの人生を、最後まで
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ブランシュ侯爵家の庭園は、夕暮れに包まれていた。
当主としての務めを終えたセリーヌは、ゆっくりと歩を進める。
白髪は増えたが、背筋は伸び、眼差しは今も変わらず凛としている。
「……静かね」
「はい。良い一日でした」
一歩後ろに立つアリシアが答える。
それは、若い頃から変わらない位置だった。
セリーヌが婿を取り、ブランシュ侯爵家を継いだのは、ずっと昔のことだ。
男児のいなかったブランシュ侯爵家は親戚筋からの養子も検討していた。
ちょうどその頃、セリーヌへの縁談の申し込みがあった。
普段から数件縁談の話はあったが、相手を聞き、アリシアがすべて却下していた。
しかし、そのときの相手はちょっと違っていた。
セリーヌを心から愛し、婿入りでも構わないと言ったのだ。
いつかの社交パーティーでアリシアが合格圏内と思ったあの青年だった。
あの青年なら大丈夫、とアリシアはセリーヌの背中を押した。
そしてセリーヌは、家を守るための選択としてその青年と夫婦になり、ブランシュ侯爵家の当主となった。
夫婦仲は良く、後継ぎにも恵まれたが、夫は病で早くに亡くなり、忙しい毎日だった。
それを支え続けたのが、アリシアだった。
アリシアにも縁談は何度も持ち上がった。
だが、そのたびにアリシアは笑って断った。
「私は今、忙しいんです」
「何に?」
「推し活に」
冗談のようで、けれど本心だった。
セリーヌが前に立ち、決断し、背負うなら。
自分はその背を支える。
それが、アリシアの“推し活”だった。
「……あなた、人生を無駄にしたとは思わない?」
ある夜、セリーヌはそう尋ねたことがある。
アリシアは少し驚いた顔をしてから、すぐに首を振った。
「いいえ」
即答だった。
「私は、推しのために生きました」
その言葉には、迷いも悲壮感もなかった。
「推しが悩んで、踏ん張って、前に進む姿を一番近くで見て、支えて、守って、成功を一緒に喜べる」
穏やかな笑み。
「……これ以上、楽しい人生ってあります?」
セリーヌは、何も言えなくなった。
それが奉仕ではなく、献身でもなく、“喜び”だと、分かってしまったからだ。
年月は流れ、二人は老いた。
けれど、変わらない日常があった。
朝の挨拶。
書類の確認。
庭園の散歩。
そして、いつも隣にいるという事実。
「……あなたがいてくれたから、私は最後まで当主でいられたわ」
夕暮れの庭で、セリーヌが静かに言う。
「推しが立派だったからです」
アリシアは、少しだけ照れたように笑った。
「私は、ただ推しを全力で応援しただけですよ」
人生の終わりが近づいても、アリシアは言い切れる。
誰かに決められた道ではない。
諦めた未来でもない。
推しのために考え、推しの人生を支えきった。
それが、自分の選んだ生き方だった。
その人生は、誰よりも満ち足りていた。
なぜなら彼女は、推し活として、推しのために生ききったのだから。
なお、最期までアリシアは「推しは不滅です!」と言い張り、セリーヌに「……あなた、本当に変わらないわね」と呆れられていたという。
当主としての務めを終えたセリーヌは、ゆっくりと歩を進める。
白髪は増えたが、背筋は伸び、眼差しは今も変わらず凛としている。
「……静かね」
「はい。良い一日でした」
一歩後ろに立つアリシアが答える。
それは、若い頃から変わらない位置だった。
セリーヌが婿を取り、ブランシュ侯爵家を継いだのは、ずっと昔のことだ。
男児のいなかったブランシュ侯爵家は親戚筋からの養子も検討していた。
ちょうどその頃、セリーヌへの縁談の申し込みがあった。
普段から数件縁談の話はあったが、相手を聞き、アリシアがすべて却下していた。
しかし、そのときの相手はちょっと違っていた。
セリーヌを心から愛し、婿入りでも構わないと言ったのだ。
いつかの社交パーティーでアリシアが合格圏内と思ったあの青年だった。
あの青年なら大丈夫、とアリシアはセリーヌの背中を押した。
そしてセリーヌは、家を守るための選択としてその青年と夫婦になり、ブランシュ侯爵家の当主となった。
夫婦仲は良く、後継ぎにも恵まれたが、夫は病で早くに亡くなり、忙しい毎日だった。
それを支え続けたのが、アリシアだった。
アリシアにも縁談は何度も持ち上がった。
だが、そのたびにアリシアは笑って断った。
「私は今、忙しいんです」
「何に?」
「推し活に」
冗談のようで、けれど本心だった。
セリーヌが前に立ち、決断し、背負うなら。
自分はその背を支える。
それが、アリシアの“推し活”だった。
「……あなた、人生を無駄にしたとは思わない?」
ある夜、セリーヌはそう尋ねたことがある。
アリシアは少し驚いた顔をしてから、すぐに首を振った。
「いいえ」
即答だった。
「私は、推しのために生きました」
その言葉には、迷いも悲壮感もなかった。
「推しが悩んで、踏ん張って、前に進む姿を一番近くで見て、支えて、守って、成功を一緒に喜べる」
穏やかな笑み。
「……これ以上、楽しい人生ってあります?」
セリーヌは、何も言えなくなった。
それが奉仕ではなく、献身でもなく、“喜び”だと、分かってしまったからだ。
年月は流れ、二人は老いた。
けれど、変わらない日常があった。
朝の挨拶。
書類の確認。
庭園の散歩。
そして、いつも隣にいるという事実。
「……あなたがいてくれたから、私は最後まで当主でいられたわ」
夕暮れの庭で、セリーヌが静かに言う。
「推しが立派だったからです」
アリシアは、少しだけ照れたように笑った。
「私は、ただ推しを全力で応援しただけですよ」
人生の終わりが近づいても、アリシアは言い切れる。
誰かに決められた道ではない。
諦めた未来でもない。
推しのために考え、推しの人生を支えきった。
それが、自分の選んだ生き方だった。
その人生は、誰よりも満ち足りていた。
なぜなら彼女は、推し活として、推しのために生ききったのだから。
なお、最期までアリシアは「推しは不滅です!」と言い張り、セリーヌに「……あなた、本当に変わらないわね」と呆れられていたという。
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