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【1】ヤサシククルウ
1-6 呪い…だとすれば
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呪いとは、分かりやすく言えば負の魔法だ。
どちらも呪文を唱え、マナを消費して発動するが、勝手は随分違う。
魔法は使い方次第で、人を救いもすれば、殺しもする。
しかし呪いは人を救わない。用途は"苦しめる"、"殺す"、"苦しめて殺す"の三択のみだ。
魔法は魔道士達が“魔法紙”を開発した事で、敷居がグッと下がった。“魔法紙”を手に持ち、使用する対象を決め、紙に書かれた呪文を唱える…。簡単な魔法なら、僅かなマナを消費するだけで誰でも使えるのだ。
ちなみにマナ(いわゆるMP)は一種の生命エネルギーで、大なり小なり誰もが保持している。使いすぎればぶっ倒れるが、一晩ぐっすり眠れば回復する。また、大量のマナを内包する“魔法石”のようなタンクアイテムを保持していれば、代用も可能だ。
一方で、呪いの敷居の高さは昔から変わらない。まず、その危険性から、呪文自体が世に出回らぬよう隠匿されており、裏世界でも入手は非常に困難だ。使い勝手も非常に悪い。負の感情を込めながら詠唱しなければ、そもそも発動しないし、負の感情が足りなければ、発動しても大した効果は出ない。逆に負を込めすぎてしまうと、発動時に詠唱者の命まで奪ってしまう。
魔法が発動する際には、詠唱者のマナが消費される。仮に永続的に続く魔法をかけられたとしても、詠唱者が死ねば効果は消える。
だが、呪いが発動する際、消費されるのは対象者のマナだ。だから詠唱者が死んでも終わらない。対象者が生き続ける限り、呪いは永続的に続くのだ。
呪いを解呪する方法も無いわけではないが、手段は限られている。
一番の理想は、呪いをかけた本人に解いてもらう事だ。説得に自信があるなら試す価値はある。ただし、それだけの恨みを買っているわけだから、簡単でない事は肝に銘じよう。術者の態度に腹が立ったとしても、間違っても殺してはいけない。状況が更に悪くなるだけである。
説得が困難なら、"ノロイブレイカー"と呼ばれる解呪の専門家に頼る方法もある。だが困ったことに、絶対数が少ない上、己の正義に殉ずる面倒くさいヤツばかりだ。悪党相手には、法外な解呪料をふっかけたり、反省を強要してきたり、場合によっては見殺しにする可能性もある。
故に悪党は一番楽な方法を選ぶ。"押しつけ屋"を頼るのだ。奴らは解呪ではなく、身代わりに呪いを移す専門家だ。建前上は人形を身代わりにしているが、実際には生きた人間に呪いを押しつけている。身代わり人間を簡単に用意できる裏社会とは非常に縁が深く、人から恨みを買いやすい富豪や犯罪組織などと良好な関係を築いている。正にクズの所業だ。殺し屋のザックに言えた義理ではないが。
はたして一連の騒動は、カンタァの呪いだろうか?
断定は出来ないが、これは違う。ザックはそう思った。
呪いとは負の魔法である。すなわち、呪いをかけるには、魔法使いとしての才能が必要なのだ。
しかしマンモスに過去を問いただしてみても、「カンタァは魔法が苦手」という情報しか得られなかった。
魔法の才は、むしろマンモスにあるようだ。ただし、彼の温厚な性格では圧倒的に負が足りず、とてもじゃないが呪いには向かない。
カンタァの呪いでないとすれば……
ザックはもう一つの可能性を考える。すなわち、呪いのアイテムだ。
例えば、持ち主を破滅させる呪われた宝石。
例えば、人を斬らずにはいられない魔性の剣。
例えば、ページをめくるだけで正気を奪う魔道の書。
人手を転々と渡り続け、多くは所持するだけで発動し、自分の意志では手放せなくなってしまう。そして持ち主が生きる限り、周囲の人々を不幸に巻き込み続ける。持ち主が死ねば一度は終わるが、新たな持ち主を得ると呪いは再び発動する。
今の状況、似ているように思える。
誰かが呪いのアイテムを所持し、呪いが発動している?
だとしたら、誰がアイテムを所持している? どんな形をしたアイテムだ?
………いや、………そうだ、………きっとそうに違いない。
はっきりした証拠は無い。だがザックは直感で確信した。呪いのアイテムを所持しているのは"商品"自身だ。
だが、そんなものを所持しているなら、事前に分かりそうなものだが……
いや……待てよ……?
ファミリーは"商品"を預かっただけだ。"商品"の身体検査は、預かる前に別組織によって行われている。"商品"が金目の物や危険な物を持っていれば、身体検査の段階で全部没収しているはずだ。
と言うことは……
身体検査をした別組織が意図的に見過ごしたか、その後に何者かが"商品"にアイテムを持たせた可能性がある。
なんであれ、ファミリーが誰かにハメられた可能性が濃厚で……
「ああ、なんてこったい…」
ザックは青ざめる。
“商品”は今、ジェイクが連れ出している。呪いが今、ジェイクと共にあるのだ。
それはつまり、ザックの尊敬する兄貴に、危機が迫っている事を意味していた。
どちらも呪文を唱え、マナを消費して発動するが、勝手は随分違う。
魔法は使い方次第で、人を救いもすれば、殺しもする。
しかし呪いは人を救わない。用途は"苦しめる"、"殺す"、"苦しめて殺す"の三択のみだ。
魔法は魔道士達が“魔法紙”を開発した事で、敷居がグッと下がった。“魔法紙”を手に持ち、使用する対象を決め、紙に書かれた呪文を唱える…。簡単な魔法なら、僅かなマナを消費するだけで誰でも使えるのだ。
ちなみにマナ(いわゆるMP)は一種の生命エネルギーで、大なり小なり誰もが保持している。使いすぎればぶっ倒れるが、一晩ぐっすり眠れば回復する。また、大量のマナを内包する“魔法石”のようなタンクアイテムを保持していれば、代用も可能だ。
一方で、呪いの敷居の高さは昔から変わらない。まず、その危険性から、呪文自体が世に出回らぬよう隠匿されており、裏世界でも入手は非常に困難だ。使い勝手も非常に悪い。負の感情を込めながら詠唱しなければ、そもそも発動しないし、負の感情が足りなければ、発動しても大した効果は出ない。逆に負を込めすぎてしまうと、発動時に詠唱者の命まで奪ってしまう。
魔法が発動する際には、詠唱者のマナが消費される。仮に永続的に続く魔法をかけられたとしても、詠唱者が死ねば効果は消える。
だが、呪いが発動する際、消費されるのは対象者のマナだ。だから詠唱者が死んでも終わらない。対象者が生き続ける限り、呪いは永続的に続くのだ。
呪いを解呪する方法も無いわけではないが、手段は限られている。
一番の理想は、呪いをかけた本人に解いてもらう事だ。説得に自信があるなら試す価値はある。ただし、それだけの恨みを買っているわけだから、簡単でない事は肝に銘じよう。術者の態度に腹が立ったとしても、間違っても殺してはいけない。状況が更に悪くなるだけである。
説得が困難なら、"ノロイブレイカー"と呼ばれる解呪の専門家に頼る方法もある。だが困ったことに、絶対数が少ない上、己の正義に殉ずる面倒くさいヤツばかりだ。悪党相手には、法外な解呪料をふっかけたり、反省を強要してきたり、場合によっては見殺しにする可能性もある。
故に悪党は一番楽な方法を選ぶ。"押しつけ屋"を頼るのだ。奴らは解呪ではなく、身代わりに呪いを移す専門家だ。建前上は人形を身代わりにしているが、実際には生きた人間に呪いを押しつけている。身代わり人間を簡単に用意できる裏社会とは非常に縁が深く、人から恨みを買いやすい富豪や犯罪組織などと良好な関係を築いている。正にクズの所業だ。殺し屋のザックに言えた義理ではないが。
はたして一連の騒動は、カンタァの呪いだろうか?
断定は出来ないが、これは違う。ザックはそう思った。
呪いとは負の魔法である。すなわち、呪いをかけるには、魔法使いとしての才能が必要なのだ。
しかしマンモスに過去を問いただしてみても、「カンタァは魔法が苦手」という情報しか得られなかった。
魔法の才は、むしろマンモスにあるようだ。ただし、彼の温厚な性格では圧倒的に負が足りず、とてもじゃないが呪いには向かない。
カンタァの呪いでないとすれば……
ザックはもう一つの可能性を考える。すなわち、呪いのアイテムだ。
例えば、持ち主を破滅させる呪われた宝石。
例えば、人を斬らずにはいられない魔性の剣。
例えば、ページをめくるだけで正気を奪う魔道の書。
人手を転々と渡り続け、多くは所持するだけで発動し、自分の意志では手放せなくなってしまう。そして持ち主が生きる限り、周囲の人々を不幸に巻き込み続ける。持ち主が死ねば一度は終わるが、新たな持ち主を得ると呪いは再び発動する。
今の状況、似ているように思える。
誰かが呪いのアイテムを所持し、呪いが発動している?
だとしたら、誰がアイテムを所持している? どんな形をしたアイテムだ?
………いや、………そうだ、………きっとそうに違いない。
はっきりした証拠は無い。だがザックは直感で確信した。呪いのアイテムを所持しているのは"商品"自身だ。
だが、そんなものを所持しているなら、事前に分かりそうなものだが……
いや……待てよ……?
ファミリーは"商品"を預かっただけだ。"商品"の身体検査は、預かる前に別組織によって行われている。"商品"が金目の物や危険な物を持っていれば、身体検査の段階で全部没収しているはずだ。
と言うことは……
身体検査をした別組織が意図的に見過ごしたか、その後に何者かが"商品"にアイテムを持たせた可能性がある。
なんであれ、ファミリーが誰かにハメられた可能性が濃厚で……
「ああ、なんてこったい…」
ザックは青ざめる。
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それはつまり、ザックの尊敬する兄貴に、危機が迫っている事を意味していた。
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