ケモノグルイ【改稿版】

風炉の丘

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【2】ナラクニマヨイテ

2-8 真に呪われしは

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 ザックは愕然とする。本当に呪われていたのは、ジェイクでもキュベリでもなく、自分自身だったのだ。
 しかもその呪いは、幼少の頃からかけられていたという。
「あ、兄貴…。オレはどうすりゃいいんだ」
「おい! ひとまず近づくな! 扉の前から動くんじゃない!」
「あ…う…す、済まねぇ」
 気がつけば数歩、ジェイクの元へと歩み寄っていた。ザックは慌てて後ずさり、扉に張り付く。
「ザックよ。お前は何を望んでいる? 任務の遂行か? ならば呪いを受け入れればいい」
「冗談じゃねぇ。兄貴を殺すような任務なんざ、はなっからお断りだぜ!」
「その呪いに抗うと言うなら、方法は一つ、あるにはある」
「へへっ、兄貴も人が悪いぜ。あるならとっとと教えてくれよ」
「お前が“本当の記憶”を取り戻す事だ」
「本当の……記憶?」
「ああそうだ。“本当の記憶”だよ」
 困惑するザックだったが、ジェイクは構わず話を続ける。。
「例えばだ。お前の一番古い記憶は何だ?」
「オレの……一番古い?」
 ザックは過去に思いを巡らせる。幼少の頃…… 幼い記憶……
「オレは……旅をしていた。兄貴をオレの二人旅さ。辛いけど楽しかった。兄貴となら世界中の何処へだって行ける気がしてたな」
「そうか。それがお前の……」
「ああ、大切な思い出さ」
 ジェイクは少しの間黙り、そして話しを続ける。
「無粋なことを言うようで恐縮だが、それ自体が偽りの記憶だ」
「なっ!? そ、そんな馬鹿な。アレが全部偽物だって言うのかっ!?」
「いいや。全てではないさ。確かに私とお前は一緒に旅をしていた。足の遅いお前は『待ってくれよ兄貴』と、泣きべそかきながら追い掛けてきてたものさ」
「じゃ、じゃあ、何が偽りだって言うんだい」
「二人旅では無かったのだよ。他にも仲間がいたんだ」
「な、仲間? オレ達以外に? そんな馬鹿な……いや、待てよ?」
 その時、ザックの記憶に変化が起きた。幼いザックが少年ジェイクの顔を見ようと見上げると、隣に誰かいるのだ。しかし顔には靄がかかり、体もボンヤリしていて正体が分からない。ただ、邪悪ではないことは分かる。とても穏やかで、暖かな存在だった。
「どうしたザック。何か思い出したか?」
「だめだ。思い出せねぇ。誰か、何か、天使みたいなのが兄貴の隣にいたようなんだが……」
「天使? フフ…… お前にはそう見えていたのか。なるほどな。確かにそうかもしれない。もしかしたら本当に天使だったのかもな」
「そりゃ一体、誰なんだ?」
「ここからは自分で思い出すんだよ」
「そりゃ無いぜ兄貴」
「私が話せるのは私の記憶だ。話したところで私の記憶の押しつけにしかならない。お前の呪いを解きたければ、お前自身が、お前の記憶を取り戻すしかないんだ」
「そう言われても……どうすれば……」
「ヒントなら、すでに見ているだろう?」
 ジェイクはそう言うと、ザックが持ってきた手提げカバンを掲げてみせた。
「オレと……オレと兄貴で巨大アリを退治したんじゃないのか?」
「無理だな。そもそも、幼いお前に刃物を持たせる訳がないだろう。危ないからな」
「じゃあ、この"ひみつきち"は? オレ達でアリの巣を乗っ取ったんじゃないのか?」
「たった二人で、人が住めるように改造したと? 無理に決まっているだろう。ここはもっと昔からあったのさ。恐らくは山賊か野盗の隠れ家だったんだろう。放棄されて無人だったから、居場所の無かった私達が勝手に住み着いたのさ」
「その後ボスに拾われて……ファミリーの一員になったんじゃ無いのかよ」
「それこそが完全な捏造だよ。あの男にそこまでの器は無い」

 ジェイクはザックの記憶の否定こそするが、真実は話さない。真実は自分で思い出さなければ、呪いは解けないのだ。
 ヒントは、ジェイクが"ひみつきち"のあちこちに置いていた、子供達の"お宝"。
 確かにザックは見覚えがあった。だが、何度考えても思い出せない。靄がかかって邪魔をする。
 どうすればいい? どうすれば思い出す?
 思い出すためのきっかけはジェイクが用意した。なのにザックは思い出せない。
 思い出すには時間がかかるのだろうか? だが、その時間はあまり無い。
 ファミリーの命運はこの際どうでもいいが、キュベリを待たせたままなのだ。待ちきれなくて暴走しないとも限らない。
 今すぐ思い出せないならどうする? どうすればジェイクを殺さずに、事態を収められる?

「そ、そうか!」
「思い出したかザック」
「済まねぇ兄貴。そっちじゃないんだ。丸く収める方法を思いついた」
「ほう? 興味深いな。どんな方法かね」
「兄貴は……ファミリーを裏切ってないっ!」
「ん?」
「兄貴はしょうひ……じゃなくて、あの子を守るために、一時的に預かっていただけだ。夜明けまでに一緒に戻れば、裏切り者にはならない。裏切り者でなければ、オレにかかった呪いも発動しない。違うか?」
「ほう。面白いな。お前にしては賢い時間稼ぎだぞ」
「そう言うことにしてくれ兄貴! オレに時間をくれ! 絶対に思い出してみせるからよ!」
「残念ながら、そうはいかないのさ。私は裏切り者になるしかないんだ。他の選択肢は無い」
「何故だよ兄貴!」
「なぜだ…か。もはや隠し立ても不要だな。ならば話そう。ファミリーの秘密を」
 そしてジェイクは静かに話し始めた。
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