ケモノグルイ【改稿版】

風炉の丘

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ヘビアシ

9 姦シ蛇足(カシマしヘビアシ)

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「ザック様に、お願いが二つございます」
「なんだい? 言ってみなよ」
「1つ目は、改めてのお願いですが、“野薔薇ノ王国”の一員になっていただきたいのです」
「あ~、それね。まあ、考えてはみるよ」
「なにとぞご検討、よろしくお願いいたします」
 どのみち、指名手配のせいで国外に出られない。なし崩し的に一員になってしまうかもな。

「2つ目は、ゲェムに参加していただきたいのです。非公式ながら公安もサポートいたしますので」
「おじちゃんがわざわざ準備してくれたゲェムだ。そりゃもちろん参加するさ。だが、公安に何が出来るんだ? 責任は取らないが口は挟むって奴かい?」
「“ジェイク文書”が一部でも手に入るなら、喉から手を出してでも欲しいというのが公安の本音です。とはいえ、主導権を握るのは難しい。ですからザック様に恩を売って、おこぼれにあずかりたいのですよ」
「はははっ、ぶっちゃけるねぇ♪ 確かにまあ、裏帳簿だの犯罪の証拠だのは、オレに取っちゃどうでもいいもんだ。くれてやってもいい。だが、兄貴の日記だけは絶対誰にも渡さねぇ。兄貴のプライバシーを護りたいんでな。それを約束できるなら、公安と組んでもかまわないぜ」
「心得ました。天地神明に誓ってお約束いたします」

「ゲェムへのアプローチに関しましては、現場の判断と言う事でザック様に一任いたします。ゲェムによって“王国”が存続の危機に陥るような大事に至らない限り、口を挟む事はありませんので、ご安心を」
「つまり、オレの倫理観を信じて、丸投げするって事か。そりゃ、責任重大だ」
「必要な資金や物資は全て調達いたします。ワタクシが窓口となりますので、何でもおっしゃってくださいまし」
「ふーむ。じゃあ、オハジキさんが欲しいって言ったら、助けに来てくれるのかい?」
「ふふふ♪ お気持ちは嬉しいのですが♪ ワタクシも多忙ですので、実際にはほとんど関われません」
「仕事が恋人って奴かい。そりゃ、寂しいねえ」
「その代わり、ワタクシの部下を3人付けます。自由に使ってください」
「3人も? そりゃまた大盤振る舞いじゃないか。人手不足って話じゃなかったか?」
「いえ、公安に足りないのは人手ではなく、人材ですので」
「あー……なるほど」

「で、どんな奴らなの?」
「ワタクシが公安の中で所属しております特務チームは、その名を“ヘビノハナ”と申します。3人もチームに所属してはいるのですが、これが3人揃ってようやく半人前のポンコツでして……。後方支援の別働隊として雑用をやらせておりました。名前は“ヘビアシ”です」
「ヘビアシ? もしかして蛇足の事か? ……ああ、無用の長物ってことね」
「ですが、どうにも使い道が無いからと、上司に押しつけられまして。今はワタクシの部下と言う事に……」
「そりゃ大変だな。で、そんな部下を3人、今度はオレに押しつけると…。たらい回しにされてる3人も可哀想だが、オレも可哀想じゃないか?」
「いえいえ、ザック様でしたら大丈夫です。3人とは長所も短所も被りませんし、“王国”での生活は、慣れるまで苦労すると思いますから、きっとお役に立ちますよ」
「ゲェムだけじゃなく、生活サポートも兼ねてるって事か?」
「はい」
「じゃあ、しょうがねぇ…のかな」
「とりあえず会っていただけませんか? 判断はその後で構いませんので」
「まあ、かまわんが」
「よかった♪ では、早速ご紹介いたしますね♪」
「え? 今から?」
 ハジキは壁に向かって歩いて行くと、隠し扉を開け、扉の奧に声をかける。
「みんないらっしゃい。大丈夫。ザック様は優しいお方よ」
 そして現れたのは……
「って、おいおい、君らかよっ!」
 現れたのは、豊満系、スレンダー系、幼系と、タイプの違う乙女達。ザックが目覚めた時に会った、看護婦姿の3人だった。
「よ、よろしくお願いいたします!!」
 ぎこちなくカーテシーをする3人乙女は、とても愛らしかった。

「ちょっと来て! オハジキさん、ちょっと来てくれ!」
「はい? なんでしょう?」
 近寄ってきたハジキに、ザックはヒソヒソ声で問いかける。
「この子らがあんたの部下?」
「はい」
「この子らが公安?」
「はい」
「つまりこの子らが……」
「はい。“ヘビアシ”です」

 ええええええ……

 それがザックの素直な感想であった。
 どう見ても素人の女の子としか思えない。なるほど、これはたしかに深刻な人材不足だ。
「あんたらの人事に口を挟むようで悪いんだけどよ、クビにはできなかったのかい?」
「ワタクシも同感ですが、あの子達にはあの子達なりの、深くて重い事情がございまして。決して辞めようとはしないのです」
「あんなに可愛い顔して、結構ハードな人生を送ってるって事か? いや、むしろ可愛いからこそ酷い目に遭うのか」
「公安にいる子は大体そうです。故に、悪への怒りの憎しみに燃えている。もちろんワタクシも例外ではありません」
「なるほどなぁ。しかし、実力が伴わないんじゃな。自分の命ばかりか、同僚すら危険に晒しちまう」
「いえ、決して実力が無いわけではありません。どの子も能力の偏りが酷すぎていて、総合評価がマイナスになってしまうのです」
「つまり、3人一緒なら互いを補い合えるが、単独行動は不可能と……」
「どのように使っても一向に構いません。レディファーストで肉壁にしようと、性欲のはけ口にしようと、ザック様の自由です。あの子達を部下に使ってはいただけませんでしょうか」
「そりゃ、オハジキさんにそこまで頼まれりゃ、断れんわな。わかった、引き受けよう」

 意を決したザックは、直立不動の3人娘に歩み寄る。不安げに見上げる娘達の緊張をほぐそうと、ザックはなるべく優しげに話しかけた。
「お前さん達、“ヘビアシ”って呼ばれてるんだってな」
 コクリとうなずく娘達。
「3人揃って“ヘビアシ”なのか?」
 再びコクリとうなずく娘達。
「つまり3本足って事か。1本足りないな…」
 意図が分からず、困惑する娘達。
「しょうがねぇから、オレが加わってやるよ。今日から“ヘビアシ”は4本足だ。……って事でいいかな、オハジキさんよ」
「はい♪ ザック様がそうお望みでしたら、いっこうに構いませんよ♪」
 ハジキは優しく微笑む。
「あ、あの、どういうことなのでしょう?」
 状況が分からず、小さな娘が尋ねてきた。他の二人も緊張しながら見つめている。
 ザックは身をかがませ、小さな娘に視線を合わせると、こう言った。
「オレはお前さん達の上官じゃなくて、仲間になりたいんだよ。駄目か?」
 3人は顔を見合わせると、泣いているのか笑っているのか分からない、しわくちゃな顔になり、一斉にザックに抱き付いた。



 こうして、表の歴史には決して刻まれぬ、“ジェイク文書”を巡る戦いが始まる。
 世界の命運を賭したゲェムが、今始まる。
 挑むのは、心を取り戻した殺し屋と、無用のポンコツ3人娘。
 4人は出会い、足は揃った。
 足あるヘビはヘビじゃない。ただのトカゲか、ドラゴンだ。
 新生“ヘビアシ”よ! 大竜となれ!!


 ヘビアシ・完
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