グレート・プロデュース  〜密かに国をコントロールする最強のエージェントは、恋に落ちた王女を大帝王に即位させることができるのか?〜

青波良夜

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第二章

No.010

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 残念ながら、気を抜くのはまだ早いのだ。
 しかし俺の隣にいる金髪の少女は、すっかりエピローグモードで話しかけてくる。

「それじゃ、わたしたちの恋の話をしましょうか」
「……しない」
「どうして!? もしかして……恥ずかしいの?」

 メリーナは自分で言っておいて顔を真っ赤にしている。
 いったい何を考えているんだか……。

「まだ終わってないからだよ」
「えっ、でも敵は倒したでしょ?」
「さっき言ってたろ。奴の仲間がこの地区を封鎖してる。このビルから出られても、簡単には帰れないんだよ」
「大丈夫よ! わたし、まだまだ元気だし!」

 メリーナが立ち上がり、剣を素振りし始めた。

「俺が元気じゃないんだけど……」

 思わずため息が出てしまう。と同時に、俺の耳の奥に張り付いているイヤーピースから声が聞こえてくる。

『ライちゃん、ピンチなのよ?』
「ああ、生きて帰れるかの瀬戸際かもな」

 つい冗談が口から出てしまった。ちょっとだけ投げやりになってたのもあるし、話し相手がプリだってことを一瞬だけ忘れていたのだ。

 まあ、言い訳をしたところで、過去には戻れないわけで――。

『プリ、今度はライちゃんを助けるわね! スイッチオンなのよ!』

 そこで俺はプリと話していることに気づいた。

「待て待て、いま何したんだ、プリ?」
『ピンチのときに押す赤いでっかいスイッチ押したわね!』
「えっ……ウソだろ? 言ったよね? それは押しちゃダメって」
『ライちゃんがピンチのときは押すわね! さっきは押せなかったけど、いまは押したのよ!』

 プリが高らかに宣言していた。
 そしてイヤーピースからは、プリの声とは別の機械的な音声が聞こえてくる。

『緊急抹消プログラム起動。カウントダウン開始。60秒前――』

 なんか始まっちゃってるんですけど……。

「プリ……」
『なにわね! あっ、ほめてくれるの~?』
「スシはナシだ」
『どうしてわね! プリ、がんばったのよ! がんばったでしょう!』

 頭を抱える以外に何もできねぇ……。

『50秒前――』

 ダメだ。現実逃避しようにも耳の奥で非情な現実が刻まれていく。

「ライ、どうしたの? すごい青ざめてるわよ……」

 メリーナが心配そうに尋ねてくる。
 どうする? 話しておくか黙っておくか……。
 いや、隠しておく意味はないな。

「ミサイルが飛んでくるんだ、ここに」
「えぇっ!? なんで?」

 その疑問はもっともだ。なんでミサイルなんて仕込んでるんだよ?
 しかもその起動ボタンを、お子様の手に触れるところに配置しておくなんて……。

『ミサイルってなにわね!』

 耳の奥からプリの声が聞こえてくる。やらかした本人は、何が起きてるのか理解していない様子だ。

『40秒前――』

 感情のない機械音声が時を刻み続けていく。
 この声はメリーナに聞こえてないが、とりあえず説明はしておいてやろう。

「俺も初めて経験するんだが、GPAのエージェントが任務に失敗して、そこにある証拠を即座にすべて消すしかない場合、ミサイルを撃ち込むって仕組みを備えてあるらしいんだ……」
「えっと……まったく話が見えないわ……」

 メリーナが困惑している。その反応は正しい。

「とにかく、あと30秒ほどでミサイルがこのビルを吹っ飛ばす……」
「大変じゃない! どうするのよ?」

 そうだ。気落ちしてる場合じゃない。どうするのか考えろ、俺。

「――って、考えるまでもない。脱出するぞ!」
「脱出するって……階段から?」
「73階分を降りる時間はない。デカイ荷物もあるしな」

 俺は、足元に倒れている人物をちらりと見る。

「そっか、クレルモン氏がいるんだっけ。彼は気絶してるし、ライが担いでいかないといけないわね……」
「当たり前のように俺に押し付けるなよ」
「ライならできるって信じてるわ。わたしが恋する人だもの」
「その言葉、都合よく使ってないか?」

『20秒前――』

 って、馬鹿な言い合いしてる場合じゃない。どっちみち方法は1つしかないんだ。

 俺は、クレルモン氏が椅子に縛られていた時に使われていた縄を拾った。
 そして彼の身体と、俺自身を強く縛り付ける。

「それじゃ、かえって動きづらいんじゃない?」

 メリーナが不思議そうに尋ねてくるが、一から十まで説明してる時間はない。

「動きづらいかよりも、俺と離れないことが大事なんだよ」

 俺はクレルモン氏の腰に腕を回し、もう片方の手でメリーナの手を引く。

「えっ!? な、なななに? なんで手を繋ぐの?」

 メリーナは顔を真っ赤にし、慌てふためいていた。
 ただ、ここで変に勘違いされると危険なので、これだけは言っておこう。

「いいか、これは脱出のためだ。俺はクレルモン氏に注意を払ってるから、メリーナは自分の責任で俺にしがみついててくれよ?」
「あっ……いま、わたしの名前呼んだ? それに、しがみつくって……抱き合うのよね? その……ライも積極的になってきたってこと……?」

 おいおい、こんな時に勘弁してくれよ。
 仮に確認するにしても、そこじゃない――って、もうツッコんでる暇も残ってない!

『10秒前……9……8……』

「行くぞ!」

 左腕に意識のない男を抱え、右手でメリーナの手を引き、俺は走り出す。

「ええっ!? 待って待って待って! そっちは――」

 そう、ガラスが全部吹き飛び、開けっぱなしになってる窓だ。

『5……4……3――』

 そこまで聞いたところで、俺は……もとい俺たちは、73階の窓から夜空へ向けて飛び出した。

「いやあああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ――」

 メリーナの絶叫が夜空に響く。

『1……ゼロ!』

 カウントダウンの終わりを聞いたと同時に、グンッ、と身体が下に引っ張られる。

「落ちるうううううぅぅぅぅぅ――いやあああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ――」

 メリーナはこれ以上ないほどの力で俺にしがみついてくる。
 言いつけを守ってくれてありがたい。

 けど……ちょっと強すぎだ。首が締まって……このままじゃ、こっちまで意識を失いそう……。

「くっ……この……」

 俺は必死に、腰のあたりにある紐を引いた。

 ――パシュンッ!

 小気味良い摩擦音とともに、ふわりと身体が持ち上がる感覚を味わう。

「ハァ……念のため仕込んでおいてよかった……」
「えっ……なに? どうなったの? あっ……パラシュート……?」

 俺のスーツの下から、上に紐が伸び、頭上で大きく広がっているソレにメリーナが気づいた。
 ただ、あまりの急展開に思考が追いつかないのか、彼女の口は半開きになっている。

 と、彼女の腕の力が抜けかけた。

「おい! ちゃんと掴まってろ」

 俺はメリーナの身体を強く抱き、注意する。
 するとメリーナも再び力強く抱きついてくる。ただ、その表情は怯えきっていた。

「うぅ……こ、これ……落ちないわよね……」
「特注品だし、三人くらいなら余裕でもつ……と思う」
「そ、そうなの? わ、わわわたしの恋する人が言うなら……でも万が一ってことも……いえ、だいじょうぶだいじょうぶだいじょうぶ……」

 メリーナはぶつぶつと自分に言い聞かせるようにつぶやいていた。身体も小刻みに震えている。
 まあ下は真っ暗闇だし、恐いというのもわからないでもない。

 しかし想定よりも前に進まないな。ビルから全然離れないぞ。下にゆっくり落ちてるだけだ。

「ね、ねぇ……ミサイルはどうしたのかしら? まだ飛んでこないの?」
「ちょうど来たところだ」

 見上げた夜空に火を噴く物体が映る。流れ星にも似たソレは、どんどんこっちに近づいてきて……いや待て、これは……。

「わ、わたしたちも巻き込まれちゃうんじゃ――」
「このままだとその可能性が高いな」
「いやああああああぁぁぁぁぁぁぁ! ぶつかるうううううぅぅぅぅぅ! 落ちるわああああぁぁぁぁぁ!」

 意外と感情表現が豊かな子なんだな、メリーナって。

 ゴオオオオオオッ――。

 ミサイルから噴き出す不気味な炎の音が近づいてくる。

 そしてビルへ直撃する。
 その寸前――。

時間圧縮の犠牲者リップヴァンウインクル

 俺は魔法を使った。
 すると、ミサイルから噴き出す炎は、空中でピタリと静止した。

「ふぅ……どうにか間に合ったな……」

 本当にギリギリだった。ビルの屋上付近、あとほんの少しで衝突しそうなところに、ミサイルが固まっている。

「うぅ……もう死んだわ……わたし、恋を知ったばかりなのに……」

 しかしメリーナは気づいていないのだった。
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