グレート・プロデュース  〜密かに国をコントロールする最強のエージェントは、恋に落ちた王女を大帝王に即位させることができるのか?〜

青波良夜

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第三章

No.024

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 地面に倒れ込む小太りの議員を、メリーナが拘束しようとする。
 しかし、隣でへたり込んでいた水色ローブの男が声をあげる。

「お待ちください、サンダーブロンド様! 私は帝国魔法取締局ていこくまほうとりしまりきょくの権限によって、ここにいるのです。どうかこの場は私にお任せください」

 スネイルはいつの間にか、ショックから回復していた。しぶとい奴だ。しかもこの一件で、まだ手柄をあげようとしている。

 ただ、ご自慢の権力も、メリーナには通じそうにない。

「よくわからないけど、その帝国魔法取締局ってところに言えばいいの?」
「言うって……何を言うのでしょうか?」
「あなたがライの仕事を妨害してるって」
「馬鹿な! 私は誰の妨害もしておりません。職務を全うしていただけです」
「じゃあ、ここで起きたことをそのまま伝えるわ。それで判断してもらえばいいのかしら?」
「いえ、それもどうかと……。継王家つぐおうけの方が、わざわざ帝国魔法取締局に意見されては、色々と問題がありますし……」

 スネイルは歯切れが悪かった。明らかに、メリーナが帝国魔法取締局マトリに出向くのを嫌がっている。
 まあ、それも当然だろう。奴が笠に着る権力は、そもそも十三継王家によって保証されているものなのだ。
 十三継王家の王女様の気分を害したなんて知られたら、奴の帝国魔法取締局マトリ内での立場も危うくなる。

 もちろんメリーナには、そんなつもりは一切ないだろうが。

「じゃあ、もうライの邪魔はしないでね。あと、さっきライに暴言を吐いたことを謝罪して」

 メリーナが屈託のない笑顔でスネイルに語りかける。
 すると奴の顔からは、一気に血の気が引いた。

「わ、私が……謝罪……?」

 スネイルは信じられないといった表情を浮かべる。
 だが、それでもすぐに覚悟を決めた顔になり、メリーナに向けて頭を下げた。

「申し訳ございませんでした」
「わたしに言ってほしいわけじゃないわ。ちゃんとライの顔を見て謝って」

 メリーナもなかなか残酷なことを言う。今時、珍しいくらいの選民思想を持った男にとって、これほどの屈辱はないだろう。

 正直なところ、俺は謝ってもらわなくてもいいんだけどな。
 とはいえ、スネイルに助け舟を出す気もさらさらない。
 メリーナが満足するというなら、好きにしてくれ。

「さっ、どうぞ」

 メリーナが笑顔でスネイルを促す。その笑顔の奥から、わずかに怒りを感じるのは気のせいだろうか。

「……しょ、承知しました」

 スネイルはどうにか声を絞り出していた。そして、絶望に染まった顔で俺の方を見る。
 目が合った。と思ったが、どうもスネイルの虚ろな目には、俺の姿は映っていなそうな雰囲気だ。
 たまにある、『視界に入っているのに見えていない』というあの現象を、意図的に起こしているみたいだ。

 まあ、俺の姿を認識しながらの謝罪は、奴の精神がもたないんだろうな。

 そしてしばしの沈黙の後、ようやくスネイルの口が動き始めるが。

「か……か……」

 か?
 おおよそ謝罪の単語とは思えない頭文字が聞こえてきた。
 
 それからまた少しの沈黙を置き、スネイルがつぶやく。

「勘違いさせた」

 ……それって謝罪なのか?
 スネイルの声は、消え入りそうなほど小さかったし、俺は聞き間違いかと思ったよ。

 でも本人は、すでに俺から顔をそらしていた。
 ということは、これで謝罪が済んだということなのだろう。

「ライ、これでいいかな?」

 メリーナは少し納得しかねるといった顔で尋ねてくる。
 それに対して俺は軽く返答する。

「まあ、いいんじゃないか」

 元々、俺は謝罪なんかどうでも良かったしな。
 それに奴の姿を見たら、充分にダメージを受けているのがわかるし。
 
「ハァハァ……ハァハァ……くっ――」

 スネイルは大量の汗を流し、溺れていたのかと思うほど呼吸が荒くなっていた。
 あれだけの言葉を俺に言うだけでも、死地を彷徨さまよったみたいな態度をしやがって……。やっぱりナチュラルに嫌な奴だ。

 ともかく、後は議員のカリーニ・ロックを連れて変えれば、今回の仕事は終わりだ。
 さすがにもう、スネイルも止める気力は残っていないだろう。

 俺は小太り議員の腕を取り、立たせようとした。
 しかしその瞬間、嫌な予感がして後ろへ飛ぶ――。

「【道草する刃クロスブレード】」

 突然、ロックが俺に向けて魔法を使った。

「ぐっ――」
 
 ギリギリで避けたつもりだったが、わずかに遅れた。無数の風の刃が、俺の服と肌に細かな傷を刻む。

「ライ!」

 メリーナが悲痛な声を上げるが、俺は大丈夫だと笑ってみせる。
 実際、大した魔法じゃなかったのだ。
 ただ、実際に魔法が発動するまで、ほとんど気配を感じなかった。
 こんなこと、ただの小太り議員にできる芸当じゃない。

「ロック、どういうつもりだ!?」

 スネイルが泡食った様子で声をあげた。どうやら奴にも予想外の行動だったらしい。
 それもそうか。目の前に魔法取締官がいるのに、魔法を使うバカはいない。

 ロックは立ち上がり、俺の方を見る。だが、奴は白目をむいていた。

『ぐ……ぎゃ……じ、じーぴ……あー……』

 ロックが口を開くが、明らかに本人とは別の、濁った声が聞こえてくる。
 これは――。

「操られてるのか?」

 俺はロックに問いかけてみる。
 だが、まともな答えは返ってこなかった。

『じーぴー……えー……コロ……コロス……』

 この感じは覚えがある。あの貴族誘拐事件の時と同じだ。
 俺はふと、脳裏をよぎった名前をつぶやく。

「ディープジニー……か?」

 操られているロックの顔に一瞬、不敵な笑みが浮かんだように見えた。
 それから奴は、両手を高らかに掲げ、いきなり大声で叫んだ。

『見せかけの栄光など、すべて破壊してやる!!』

 ヤバい――!

 直感が身体を動かす。
 俺はメリーナと、ついでにスネイルもまとめて覆うように魔法を使った。

銀幕の守り人ガレナプロテクション

 銀色の分厚い膜が俺を中心として広がり、周りを覆う。
 それとほぼ同時に、身体を乗っ取られたロックが、魔法を発動させた。

「【爆散火山発破エンドカルデラバーン】」

 分厚い大地を破り、巨大な火球が地上へ飛び出してくる。

 一瞬後、大爆発。

 ドオオォッドオオォッドオオォッドオオォッ――。

 すさまじい光が辺りを照らし、灼熱が降り注ぐ。
 空を叩くような轟音が連続して響き、俺の作った銀色の膜を激しく揺らす。

 思った以上の威力だ。耐えられるか……。

「ライ――」

 メリーナが何かを言いかけるが、それも降り注ぐマグマの轟音にかき消される。

 そして――。
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