グレート・プロデュース  〜密かに国をコントロールする最強のエージェントは、恋に落ちた王女を大帝王に即位させることができるのか?〜

青波良夜

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第三章

No.026

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<ニュールミナス市/クリスタルプロムナード>

 日が高くなった頃、俺はメリーナとロゼットと一緒に、<クリスタルプロムナード>にきていた。
 ここは、メインの大通りに高級商店が並び、落ち着いた大人の街として知られている場所だ。

 ただ、今日は普段と違い、大通りは興奮した群衆であふれていた。

「想像以上の人混みだな……」

 俺は思わず呟いた。
 肩と肩がぶつかり合うほどの密集度に、少し息苦しさを感じる。

「ここにいる人たちはみんな、フィラデル陛下を見にきてるのよね?」

 俺の左隣を歩くメリーナが尋ねてきた。
 それに対して俺は、軽くうなずいて答える。

「大帝王がこんな場所に姿を現すことは、めったにないからな」
「なんだかお祭りみたいでワクワクするわね」

 そう言って、メリーナは目を輝かせる。
 俺は、彼女の麦わら帽子をさらに深く被らせ、一応注意しておく。

「あまり目立つなよ」

 今日のメリーナは、華やかな黄色のワンピースに身を包んでいた。
 服装に文句をつける気はないが、彼女はただでさえ目立つ外見をしているのだ。
 すらりと伸びた長い手足に、細身の長身。腰に届きそうなほど長い金髪は、風にさらさらと揺れている。

 群衆に紛れるには、麦わら帽子だけでは足りなかったかもしれない。

「ねえ、ライ! また露店のジェラートを食べましょうよ」

 メリーナが楽しそうに俺の腕を引く。
 まあ、今日くらいは好きにさせてやろう。

 ここのところ、栄光値ポイント稼ぎばかりしていて、メリーナには休む暇を全く与えてなかった。
 なので今日は、メリーナに休息をとってもらうことにしたのだ。

 リクエストを聞くと、メリーナはお祭りみたいなところに行きたいと言う。
 そこで、<フィラデル・グランダメリス=シルバークラウン即位40周年記念パレード>を見にきたというわけだ。

 正直なところ、もっと人の少ないところを選べばよかったと思っている。
 ただ、それよりも問題なのは――。

「確認しておくけど、これはデートではないからね」

 俺の右隣にいる人物である。
 彼女は今日も赤く長い髪に、ゆるふわのウェーブをかけ、メイクはバッチリ。そして露出度の高い、派手な赤い服に身を包んでいた。

「わかってるわ、ロゼットさん」

 メリーナは、ロゼットの睨みつけを軽くいなし、屈託のない笑顔を見せる。
 たぶんロゼットは、この笑顔が苦手なんだと思う。

「……それならいいのよ。ね、ライライ?」
「俺に話を振るな。というか、なんでお前までついてきてんだ?」
「ふふっ、わざわざ言わないとダメかしら?」

 眉間にシワを寄せたまま、無理やり笑顔を作るロゼット。
 どこぞの不良だって、もう少しマシな笑顔を作れるだろうに。


 ◆◆◆


 俺たちはジェラートを食べながら、相変わらずの人混みの中を歩いていく。
 そんな中、メリーナが俺に尋ねてくる。

「まだパレードは始まらないのかしら?」
「予定通りなら、そろそろだ。でも、ちょっと人が多すぎる。中止になるかもな」
「なんで人が多いと中止になっちゃうの?」
「命を狙われる危険があるからだよ」
「えっ……フィラデル陛下って命を狙われてるの? 誰に?」

 メリーナは信じられないといった顔をする。
 純粋で世間知らずな彼女には、想像もできないことなのだろう。

 そんなメリーナの疑問には、俺よりも先にロゼットが反応した。

「誰に、ってわけじゃないわ。大帝王様ともなれば、年がら年中、命を狙われ続けるものよ。世界で最も重要な人物なんだから」

 ロゼットの言う通りだ。歴史的にも、世界情勢的にも、この国の政治や社会にとっても、<グランダメリス>の名を冠する人間ほど、影響力のある人間は他にいない。
 だからこそ、様々な理由で、あらゆる者から命を狙われる。

「それが大帝王の宿命ってことなのね」

 メリーナのつぶやきが、俺の胸に重くのしかかった。
 今の俺の任務は、彼女をそんな危険な地位に就かせることなのだ……。

「ライ、どうかしたの?」

 ふいにメリーナが俺の顔を覗き込んできた。
 一瞬ドキッとしたが、俺はすぐに笑ってみせる。

「なんでもない。気にしないでくれ」

 俺がそう答えると、メリーナはなぜか優しく微笑んだ。
 そして、持っていたジェラートを差し出してくる。

「わたしはライを信じてるからね」

 そう言った後も、メリーナはずっと俺にジェラート差し出していた。
 これは食べろってことなのか?

 ……しかたない。
 俺は覚悟を決め、メリーナのジェラートに口を近づける。
 しかし――。

「はむっ」

 横からロゼットに食べられた。
 そして彼女は、堂々と意味不明なことを言い出す。

「こういうことを防ぐために、あたしはここにいるのよ」
「恋のライバルだものね!」

 なぜか応じるメリーナであった。
 まあ、ロゼットの苦々しい顔を見ると、微妙に会話は噛み合ってなさそうだが。

 そんなやりとりをしている時だった。

「おーい!」
 
 突然人混みの中から声が聞こえた。
 声の方を見ると、一人の男が、両手を大きく振りながらこっちに近づいてくる。

 男は紫色の短髪に、紫色のシャツという派手な格好をしていた。
 その姿に、俺は見覚えがあった。

「ジーノか」
「へい、ボス。元気にしてた?」

 近くまでくると、奴は相変わらずの軽い調子で挨拶をかわす。
 反射的に手が出そうになるのをグッと抑え、俺は一応聞いてみることにした。

「お前、今までどこにいた?」

 抑えたつもりだったが、思っていた以上に怒りが漏れていたらしい。
 ジーノの笑顔が、一瞬で怯えた表情に変わる。

「ヒッ……そんなに怒らないでくれよ。しょうがなかったんだ。色々あって、今日の朝、帰国したばかりでさ……」
「この三ヶ月、連絡もなく何をしてたのか聞いてるんだ」
「えっと……話しても怒らない?」
「選択権があると思ってるのか?」
「わ、わかったよ! 話す! 話しますって! でも本当に大変だったんだ。国外で、浮遊魔導艦の情報を探っててさ」
「それは知ってる」
「まずはオレ、<ランバル共和国>に行ったんだよ。だけど、そこで荷物と金を盗まれちまってさ。しかたなく、現地の協力者から金を借りたんだ。でも、その程度じゃ全然足りないだろ? で、オレは閃いたんだ」

 ジーノの話は、だんだんと雲行きが怪しくなってくる。
 俺はこのパターンを何度も見てきたので、すぐに察した。

「ギャンブルか?」
「その通り! さすがボス!」

 そう言いながら、ジーノが指をパチンと弾く。その態度にイラッとしながらも、俺は話を進めた。

「すぐに帰ってこなかったってことは、当てたのか」
「ボスはなんでもお見通しだね。モチ、爆勝バクガチよ。いやぁ、すごい額だったんだぜ。でも今思えば、それがよくなかったんだよなー」
「何に使った?」
「まあ酒とか、女の子と遊んだり……あとはもう少しギャンブルしたり……それで気づいたら金がなくなっててさ……ハハハ……」

 ジーノが気まずそうに笑う。まだ恥という概念が残っていたらしい。
 俺は呆れて何も言えなかった。

 すると、代わりにボソッとつぶやく声が聞こえてきた。

「ゴミ野郎が……」
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