グレート・プロデュース  〜密かに国をコントロールする最強のエージェントは、恋に落ちた王女を大帝王に即位させることができるのか?〜

青波良夜

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第四章

No.046

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 空を走る車の上を移動していく魔獣の子アランだったが、そのまま逃げ続けるのにも限界があった。

 奴は地上に降りると、自分の足で街中を逃げ始める。
 だが、ジーノは巧みに魔導車ホバーカーを操り、魔獣の子を追っていく。

「無駄だぜ。いくら魔導ロボットマグリカントの身体能力が高くても、オレの魔導車ホバーカーからは逃げられないかんな!」

 ここぞとばかりに、ジーノが得意げに言う。
 俺はそれに対して注文をつけた。

「人がいないところに追い込めるか?」
「もちろんだぜ、ボス!」

 ◆◆◆

 ジーノの誘導により、アランは次第に街の外れへと逃げていく。
 そして最終的にアランがたどり着いたのは、街から少し離れたところにある浜辺だった。
 この辺りの浜辺は深い森に囲まれ、道も整備されていないので、人がくることはめったにない。

「よくやった。注文通りだ」

 俺はジーノにそう言ってから車の外に出る。
 アランは海を背にし、追い詰められた顔で睨みつけてくる。

「ハァハァ……なぜ邪魔をする……」
「邪魔って、なんのだ?」

 俺は聞き返す。しかし奴は何も答えず、呼吸を整えていた。

 まだ逃げるつもりか?
 だが、そんなことは不可能だ。俺だけならともかく、プリ、メリーナ、ジーノ、ロゼットが周りを取り囲んでいるのだ。

 問題があるとすれば、どの程度のダメージで、アランを行動不能にできるのかわからないことだ。
 完全に破壊してしまうこともできるが……。

 俺がそんなことを考えていると、耳の奥からアイマナが語りかけてくる。

『センパイ、マナに気をつかってるんですか?』
「……なんでそう思う?」
『だって、魔導ロボットマグリカントの一体くらい、センパイなら簡単に破壊できるじゃないですか。その場所なら、高威力の魔法だって使い放題ですからね。それなのに、なんで躊躇うんですか?』
「こいつはまだ何か隠してる気がする。できれば捕まえて、話が聞きたいんだ」
『わざわざ捕まえる必要なんてありませんよ。魔導ロボットマグリカントの場合、バラバラになっても記憶領域からデータを抽出することは可能ですからね』
「……いいのか?」
『前に言ったはずです。魔導ロボットマグリカント同士に、仲間意識なんてないんです』

 アイマナの声は、俺以外の4人にも聞こえていた。
 しかし、誰も何も言えなかった。
 メリーナたちは俺の方を見つめてくるだけだ。
 
 俺はアランに向き直り、静かに語りかける。

「大人しく捕まれ。そして、お前の目的をすべて話せ」
「……どうせオレは解体処分だろ?」
「そうとは限らない」
「誤魔化すなよ、人間。オレがお前らの仲間を何人殺したと思ってるんだ? それでも許してくれるって言うのか?」
「殺した理由はなんだ?」
「まず、オレの質問に答えろ!」

 アランが激昂して吠える。
 さっきまでとは違い、正気を失っている感じではない。
 頭から蒸気も出ていないようだし……。

『センパイ!』

 ふいにアイマナの声が聞こえてくる。
 その瞬間――。

銀幕の守り人ガレナプロテクション

 俺は魔法を使った。
 銀色の分厚い膜が俺を中心に広がり、メリーナ、プリ、ロゼット、ジーノ……そしてアランもまとめて覆う。

 それから間髪入れずに――。

火龍は剣を振らないエンテンオサフネ

 誰かの魔法が発動した。

 ズドンッ!

 火炎の巨大な剣が天から降り注ぎ、大地に突き刺さる。
 その剣はビルの10階分くらいの長さがあり、ドラゴンを丸焼きにしそうなほどの業火で形作られていた。

「きゃっ……うぅ……」

 メリーナが恐がって俺に抱きついてくる。
 そうなるのも無理はない。薄い銀色の幕の向こうが、完全に炎に包まれてしまったのだ。
 俺の魔法を使うタイミングが少しでも遅れていたら、プリ以外は骨まで焼かれていたところだ。

 しばらく待っていると、ようやく業火の勢いが弱まってくる。
 そして、その火が完全に消えてから、俺は魔法を解除した。

 魔法を解くと、蒸せるほどの熱気と、焦げた臭いが鼻をつく。
 肌が焼かれそうなほどの熱が、まだ辺りに漂っていた。

「うえぇ……ちょっと魔法を解くのが早かったんじゃないの、ボス」

 さっそくジーノが文句を言ってくるが、俺は無視しておいた。
 とはいえ、ウチの連中は慣れてるからいいが、メリーナのことは気がかりだ。

「大丈夫か?」
「うん……わたしは……コホッ……」

 メリーナは呼吸するのも辛そうだった。
 なので、ロゼットに任せることにした。

「ロゼット。メリーナのケアをしてやってくれ」
「ええ。でも今のって……」

 ロゼットの表情はいつになく深刻そうだった。
 その理由は明らかだ。彼女には、さっきの魔法に見覚えがあったのだ。

 もちろん、アランの魔法じゃない。

 その人物は不敵な笑みを浮かべ、海の方から歩いてくる。

「おいおい、ザケンナよ? 今ので死んでねェってか?」

 粗野な言葉づかいをする若い男だった。
 男は、真っ赤な短髪を逆立てている。細い眉毛は吊り上がり、瞳は炎のように赤い。そのサディスティックな笑みからは、荒々しいエネルギーを感じさせる。

 彼は素肌に一枚の分厚い上着を羽織っていた。長く垂れ下がる深紅の生地には、さらに濃い赤糸で、鬼と指輪の柄が織り上げられている。
 そして最も特徴的なのは、彼の両手のすべての指に、指輪が2、3個ずつハメられていることだ。

 俺はこの男を知っている。

「<レンジ・レッドリング>か……」

 俺が奴の名をつぶやくと、メリーナが驚きの声をあげる。

「レッドリング家って……十三継王家つぐおうけよね?」
「会ったことないのか?」
「噂では聞いたことがあるけど、わたしの家はあまり親しくないから……」
「レッドリング家は、十三継王家の中でも特に武闘派で知られてるからな」

 俺たちがそんな話をしていると、目の前にいる男の顔が、血管が浮き出るほどの怒りに満ちていく。

「テメーら、なに勝手に人の話をしてやがる?」

 奴はそう言ったかと思ったら、その場でパンチを繰り出すような動きをする。
 しかし俺たちとは距離があるし、手が届くわけがない。
 俺はそう思っていたのだが――。

 グオオォォン!

 轟音と共に、奴の手から放たれた炎の拳が飛んでくる。
 魔法か!?

 俺は瞬時に避ける体勢に入る。
 だが間に合わない!

「【炎炎の対消滅フレイムオフ】」

 しかし俺に触れる寸前、炎の拳は、横から現れた別の炎にかき消された。

 ロゼットが先を読んで魔法を使い、炎の拳を打ち消してくれたのだ。

「油断しないで、ライライ……こいつはまがりなりにも、<レッドリング家>の次期当主と目されてる男よ」

 そう言うロゼットは、いつの間にか杖を携え、大きめのトンガリ帽子を被っていた。
 戦闘体制は万全といったところか。

 一方、俺を攻撃してきた男の方は、喜びにあふれた笑顔を浮かべていた。

「へェ~おもしれェな。そこの赤髪の女ァ。テメー、ウチの貴族家のモンだろ?」
「違うわ」

 レンジの問いかけを、ロゼットは即座に否定した。
 すると赤髪の男は、一瞬だけ意外そうな表情をする。だが、すぐにまた挑発的な笑みを浮かべていた。

「まあいい。別にテメーらに興味はねェからな。それよりも……」

 レンジがアランの方を見る。
 それから続けて言うのだった。

「ソイツはもらってくぜ」

 まさか、アランとレッドリングに関わりがあるのか?
 だが、事情はどうあれ、魔獣の子を引き渡すわけにはいかない。

「悪いが、諦めてくれ」
「テメー、さっきから感じわりーなァ。ナニモンだ?」
「教える義務はない」

 俺がそう答えると、突如としてレンジは腹を抱えて笑い出す。

「ゲハハハハハハハハハハッ! オモシレー! オモシレーよ!」

 しかし次に顔を上げた時には、奴は鬼のような怒りの表情を浮かべていた。
 そして、俺に向けて言う。

「なら、死ね!」

 レンジが、指輪だらけの手をこっちに向けた。
 と同時に、勢いよく火炎が噴出した。
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