グレート・プロデュース  〜密かに国をコントロールする最強のエージェントは、恋に落ちた王女を大帝王に即位させることができるのか?〜

青波良夜

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第四章

No.052

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 ソウデンの魔法により、俺たちはあっという間に目的地の上空にたどり着いた。
 下には、緑に覆われた小高い山が見える。その北東方向に、巨大な都市群がある。
 
 山の中では、巨大な球形の怪物と、プリたちの戦いが繰り広げられていた。
 かなり苦戦しているようだが、プリのおかげでどうにかギリギリ足止めできているといった感じだ。

「降りますか、団長」

 ウミボウズの上空でいったん静止し、ソウデンが聞いてくる。

「いや、ちょっと待て」

 俺はそう答えた。
 すると、俺にしがみついていたメリーナが、泣きそうな声をあげる。

「どうして!? 早く降りよう。わたし、高いところ苦手なの……」
「でも地上より、ここからの方が太古の魔獣を仕留めやすい」
「本当に? じゃあ、お願いよ。早く終わらせて……」
「仕留めるのは俺じゃない。メリーナがやるんだ」
「えっ……ええぇっ!?」

 メリーナは俺にしがみつく手に、さらに力を込める。
 そして大げさに首を振って否定するのだった。

「ムリムリムリ! 絶対にムリよ! わたし、普通サイズの魔獣すらほとんど倒したことないのよ? しかも、こんな高所から? ムリに決まってるわ!」

 この意見には、ソウデンもうなずいていた。

「僕も団長がやるべきだと思います。というか、僕は団長の活躍が見たいです。でなければ、僕に命令してください。どのような厳しい条件を課せられても、必ず命令を遂行してみせますから」
「それじゃ意味がないんだよ」

 俺はそう答え、続けて無線の向こうに話しかける。

「アイマナ、この無線をロゼットたちに繋ぐことはできるか?」
『もちろん可能ですよ。はい、どうぞ』

 無線が繋がったらしい。
 俺は下にいる三人に語りかける。

「プリ、ロゼット、ジーノ、状況はどうだ?」

 すると下にいる三人が、辺りを見回しながら口々に反応する。

『ライちゃん!? ライちゃんの声がするわね!』
『ライライ、遅いわよ! 早く助けにきて』
『ボス……オレ、もう死にそうっす……』

 声を聞く限り、三人ともかなり疲弊しているようだ。
 これはさっさと決着を着けてやらないと……。

「これからウミボウズを仕留める。三人は俺の指示に従ってくれ」

 そう伝えると、プリがいち早く反応する。

『ライちゃん、どこにいるわね!』
「上だよ。上空にいる」

 俺の言葉に反応し、三人が空を見上げる。
 と、プリがさっそく俺たちを見つけたようだ。
 と思った次の瞬間――。

「ライちゃぁぁぁん!」

 プリが思い切りジャンプし、俺たちのすぐ横まで飛び上がってくる。
 そして、俺にしがみついてきた。

「あぶなっ! やめろ、プリ!」
「なんでわね! プリがんばったわね!」
「そんな話はしてない! バランスが崩れて危ないって言ってんだ!」

 魔法自体はソウデンが操ってるから、そう簡単に落下することはない。
 だが、プリが乗っかってきたせいで、俺の身体は激しく揺さぶられていた。

「きゃあああぁぁぁぁぁぁ――落ちるううぅぅぅぅぅ――」

 メリーナが叫びながら、俺にしがみついてくる。
 恐いのはわかるが、俺にしがみつくのは逆効果だ。

「メリーナも離れろ! それぞれ単独で浮遊してる状態なんだから、離れた方が安定するんだぞ」
「イヤイヤイヤイヤ! 恐い恐い恐い恐い!」

 メリーナからは、何がなんでも離さないといった意志を感じる。
 こりゃダメだ。説得は諦めよう。

「プリ、俺の頭じゃなくて、背中の方にこい」
「わかったわね」

 プリをおぶった状態になり、ようやく姿勢が安定する。
 それで俺は一息つけたが――。

『ちょっと、プリ! なにやってんのよ! あんたが抜けたら、こっちがもたないでしょ!』

 無線を通して、ロゼットの怒鳴り声が聞こえてくる。
 しかし、そんな理屈がプリに通じるはずがなかった。

「プリ疲れたわねぇ……。ライちゃんと帰るのよぉ~」

 そう言うと、プリは俺の背中で動かなくなってしまった。
 まるで遊び疲れた子供のようだ。

 まあ実際プリのおかげで、今まで耐えられていたのだろう。
 それだけ頑張ってくれたという証明でもある。
 少しくらいは休ませてやりたいものだ。

 ただしその分、残された下の二人が地獄を見ることになるが。

『ライライ、早くなんとかしてよ! って、ジーノ! なにサボってんだテメー。もっと死ぬ気で食い止めろ!』
『ヒィー勘弁してくれー。オレ、大した魔法使えないんだから』
『はあ? ふざけんなよ! だったらその身体で止めやがれ!』
『そんなことしたら一瞬で死ぬわ! ロゼットこそ、もっと魔法で止められねぇのかよ!』

 ロゼットとジーノの言い合いが無線を通して聞こえてくる。かなりの修羅場っぽいが、まあ元気そうだし、もう少し耐えられるだろう。
 と思った次の瞬間――。

 ゴオオオオォォォォォッ!

 空気を震わせる轟音と共に、目の前に炎の柱が立ち昇った。
 地上から、俺たちのいる上空まで届く、巨大な火炎の柱だ。

 どうやら、ロゼットがキレてしまったらしい。
 無線を通して、ジーノとロゼットの壮絶なやり取りが聞こえてくる。

『うおぉいぃ! 燃えてる! 周りの木、めっちゃ燃えてるよ!』
『テメーがやれって言ったんだろ、ジーノ! お前のせいだからな!』
『ヤベーぞ、この女! 山火事をオレのせいにしようとしてる! ボスー! 早く助けてくれー!』

 どうやら状況は悪化してしまったようだ。
 しかし残念ながら、この場にいるほぼ全員が、この事態を真剣に受け止めていない。

「団長、見てください。ウミボウズが炎に巻かれて行き場を失ってますよ。でも、炎の勢いも尋常じゃないですね。周りの木に、どんどん燃え移ってますよ。これじゃ僕らも、いよいよ下には降りられませんね」

 ソウデンはまるで他人事のように実況していた。
 一方、メリーナは俺にしがみついたまま、ずっと震えている。

「大丈夫大丈夫……絶対に落ちないから……ライがいれば大丈夫。ライはわたしの恋する人だから……大丈夫大丈夫……」

 メリーナは意味不明な呪文を繰り返していた。どうやら、それで自分を落ち着かせようとしているらしい。
 そして、俺の背中では――。

「ぷみゅ~、すーすー……プリ、次はアジをもらうのよ~……ぷみゅ~」

 プリがめちゃくちゃ寝言をつぶやいていた。

 俺の口からは、深いため息が出てしまう。
 そこへ、アイマナからの報告がくる。

『センパイ、どうやら限界のようです。ニュールミナス市に、山火事の通報が届き始めました。すぐに消防隊も派遣されますよ』
「悪いが、俺は諦める気はない」
『諦めないって、先輩が太古の魔獣を仕留める以外に何があるんですか?』

 俺の目的はただ一つ。この任務――メリーナを、グランダメリス大帝王に即位させるという任務を、達成することだけだ。
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