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第五章
No.055
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「ソウデン、何があったんだ?」
「昨日のことですよ。マナくんが、僕に極秘任務を頼んできたんです。なんでも団長が、『禁足地に行って、ウミボウズが生息していたと思われる地域を調査してきてほしい』と言ってたとか」
「なるほど、それが出張か」
「でも現地に着いたところで、ふと気になったんです。マナくんは、団長が『こんなことは、ソウデンにしか頼めない』って言ってたって言うんです。それはおかしくないか、と」
確かに俺は、そんなことは頼んでない。
とはいえ話を聞く限り、疑問に感じる部分もないように思えるが。
「何がおかしいんだ? いかにも俺が頼みそうな内容に思えるけどな」
「いえ。団長が僕に命じるには、難易度が低すぎます。意地の悪いドSの団長なら、もっと厳しく、僕が瀕死になるくらいの激しい任務を命じるはずなんです。それこそ、禁足地に行かせるなら、ついでに古代の魔獣を20匹くらいは討伐してくるよう命じるはずだと。いえ、むしろ僕はソレを望んでるんすよ? でも、だから気づいたんです。これは団長の命令じゃないと! マナくんが僕を騙したのだと!」
ソウデンはめちゃくちゃ早口で、訳のわからないことを話していた。
こいつは俺をなんだと思ってるんだ? 本気で聞いて損したよ。
ただ、アイマナが俺の名前を勝手に使ったことについては、注意しておかないと。
「アイマナ、なんで俺の名を語ってソウデンを動かしたんだ? 一応、こいつにも休みは与えてたんだぞ」
「だって……太古の魔獣の情報はセンパイも知りたがると思ったんです。それに、ソウデンさんはあんまり疲れてないから、休みもいらないと言ってましたし……。あと、簡単に騙せて任務も失敗しないと思ったので……」
褒めてるんだか貶めてるんだかよくわからないが、アイマナがソウデンに対して謎の信頼感を持ってることはわかった。
「太古の魔獣の情報は欲しいが、ソウデンを休みなしで働かせるほどじゃない。そんなに急がなくても――」
「なんでセンパイはわかってくれないんですか!」
ふいにアイマナが声のボリュームをあげた。
表情もムッとしているというか、すねてるみたいだ。
しかし、その理由が俺にはまるでわからない。
「……なんの話だ?」
「要するにマナは、センパイと二人きりになりたかったんです!」
普段は白銀色のアイマナの顔が、真っ赤になっていた。
けど、そんな逆ギレみたいに言われても……。
一方、騙された被害者であるはずのソウデンはというと、まるで気にしていないようだ。
感情的になっているアイマナに対しても、涼しげな微笑みを浮かべながら話しかけていた。
「マナくん。悪いが、君には遠慮してもらいたいな。僕も久しぶりに団長と手合わせしたいんだ」
「はあ? それこそソウデンさんが遠慮してくださいよ。センパイとは、マナが先に約束したんですから」
「では、君は好きにすればいい。僕も好きにする。君が団長とどこかに出かけると言うのなら、隙を見つけて稽古をつけてもらうことにするよ」
そう言いながら、ソウデンは腰に帯びた剣に手をかけた。
すると、アイマナが俺の身体を思い切り揺らしてくる。
「ほらぁ! だからイヤだったんですよ! せっかくの休みなのに、ソウデンさんはヘンタイだから、センパイのそばを離れないんです! マナの邪魔をするんですよ!」
アイマナはソウデンが苦手だった。
まあウチのチームのメンバーの中でも、特にソウデンは、性格が捻じ曲がりまくってるからな……。
「マナくん。君は一つ勘違いしている。僕が団長のそばを離れないのは、君に嫌がらせをしたいからじゃない。それが宿命だからなんだよ」
ソウデンがにっこり笑いながら言う。
その言葉を聞き、アイマナは泣きそうになっていた。
「イヤです! もうマナ、耐えられません! この人、おかしいですよ!」
アイマナが罵詈雑言を浴びせても、当のソウデン本人はどこ吹く風。まるで堪えていない。おそらく、こういうところがアイマナは苦手なのだろう。
「まあ、それはともかくとして……」
「なにがともなくなんですか! センパイ、どうにかしてくださいよ! マナと二人きりで過ごすって言ってくださいよ!」
「いや、どっちにしろ今日はムリだったし……」
「はっ? どういうことですか?」
マナが眉を顰めた時だった。
廊下の方から軽やかな足音が聞こえてくる。
そしてその足音の主が、息を切らせながらオフィスに入ってきた。
「ハァハァ……ライ! 待たせたわね!」
長い金髪を揺らしながら、メリーナは満面の笑みを浮かべる。
それにしても、彼女は相変わらず目立つ格好をしている。服装はいつものように黄色を基調としているが、今日は少しフォーマルなドレスに近い。
メリーナは、アイマナとソウデンに簡単に挨拶を済ませると、さっそく俺の腕を引く。
「それじゃ、行きましょうか」
俺は立ちあがろうとする。
しかし反対側から思い切り服を引っ張られ、動けない。
「あのな……」
俺は注意しようと思い、振り返る。
しかしアイマナの顔からは、全ての感情が抜け落ちていた。
「えっ……? センパイ、冗談ですよね? 休みなのに、メリーナさんとデートですか?」
「別にデートじゃない。それと、俺は休みでもないからな。休みを与えたのは、チームのメンバーだけで、俺はずっと仕事してるんだよ」
「じゃあマナも仕事します。無線つけていってくださいね」
「そんな大したことはしないから、アイマナは休んでてくれ」
俺がそう言いつけると、アイマナは表情を変えず、わざとらしく唇を尖らせた。
せめてもの抵抗らしい。
まあ、これで済むのだからアイマナはかわいいものだ。
気をつけないといけないのは、もう一人の方である。
「ソウデン、お前もついてくるなよ?」
「仕事だと言うなら、僕もご一緒した方がいいんじゃないですか?」
「暇ならアイマナが言ってた通り、禁足地の調査に行ってきてくれ。ウミボウズ以外にも、もしかしたら利用されてる魔獣がいるかもしれない」
「それは命令ですか?」
「ああ、命令だ」
「フッ……団長直々のご命令とあらば、断るわけにはいきませんね」
どうにかソウデンを遠ざけることには成功したようだ。
これで邪魔する奴はいない。
「ライ、もう大丈夫かしら?」
「ああ。待たせて悪かったな」
正直なところ、この後の予定は、俺だってあまり乗り気じゃないのだ……。
「それじゃ行きましょう。お父様に会いに」
メリーナの言葉を聞いて、鬼のような顔になったアイマナに見送られ、俺たちはオフィスを後にするのだった。
「昨日のことですよ。マナくんが、僕に極秘任務を頼んできたんです。なんでも団長が、『禁足地に行って、ウミボウズが生息していたと思われる地域を調査してきてほしい』と言ってたとか」
「なるほど、それが出張か」
「でも現地に着いたところで、ふと気になったんです。マナくんは、団長が『こんなことは、ソウデンにしか頼めない』って言ってたって言うんです。それはおかしくないか、と」
確かに俺は、そんなことは頼んでない。
とはいえ話を聞く限り、疑問に感じる部分もないように思えるが。
「何がおかしいんだ? いかにも俺が頼みそうな内容に思えるけどな」
「いえ。団長が僕に命じるには、難易度が低すぎます。意地の悪いドSの団長なら、もっと厳しく、僕が瀕死になるくらいの激しい任務を命じるはずなんです。それこそ、禁足地に行かせるなら、ついでに古代の魔獣を20匹くらいは討伐してくるよう命じるはずだと。いえ、むしろ僕はソレを望んでるんすよ? でも、だから気づいたんです。これは団長の命令じゃないと! マナくんが僕を騙したのだと!」
ソウデンはめちゃくちゃ早口で、訳のわからないことを話していた。
こいつは俺をなんだと思ってるんだ? 本気で聞いて損したよ。
ただ、アイマナが俺の名前を勝手に使ったことについては、注意しておかないと。
「アイマナ、なんで俺の名を語ってソウデンを動かしたんだ? 一応、こいつにも休みは与えてたんだぞ」
「だって……太古の魔獣の情報はセンパイも知りたがると思ったんです。それに、ソウデンさんはあんまり疲れてないから、休みもいらないと言ってましたし……。あと、簡単に騙せて任務も失敗しないと思ったので……」
褒めてるんだか貶めてるんだかよくわからないが、アイマナがソウデンに対して謎の信頼感を持ってることはわかった。
「太古の魔獣の情報は欲しいが、ソウデンを休みなしで働かせるほどじゃない。そんなに急がなくても――」
「なんでセンパイはわかってくれないんですか!」
ふいにアイマナが声のボリュームをあげた。
表情もムッとしているというか、すねてるみたいだ。
しかし、その理由が俺にはまるでわからない。
「……なんの話だ?」
「要するにマナは、センパイと二人きりになりたかったんです!」
普段は白銀色のアイマナの顔が、真っ赤になっていた。
けど、そんな逆ギレみたいに言われても……。
一方、騙された被害者であるはずのソウデンはというと、まるで気にしていないようだ。
感情的になっているアイマナに対しても、涼しげな微笑みを浮かべながら話しかけていた。
「マナくん。悪いが、君には遠慮してもらいたいな。僕も久しぶりに団長と手合わせしたいんだ」
「はあ? それこそソウデンさんが遠慮してくださいよ。センパイとは、マナが先に約束したんですから」
「では、君は好きにすればいい。僕も好きにする。君が団長とどこかに出かけると言うのなら、隙を見つけて稽古をつけてもらうことにするよ」
そう言いながら、ソウデンは腰に帯びた剣に手をかけた。
すると、アイマナが俺の身体を思い切り揺らしてくる。
「ほらぁ! だからイヤだったんですよ! せっかくの休みなのに、ソウデンさんはヘンタイだから、センパイのそばを離れないんです! マナの邪魔をするんですよ!」
アイマナはソウデンが苦手だった。
まあウチのチームのメンバーの中でも、特にソウデンは、性格が捻じ曲がりまくってるからな……。
「マナくん。君は一つ勘違いしている。僕が団長のそばを離れないのは、君に嫌がらせをしたいからじゃない。それが宿命だからなんだよ」
ソウデンがにっこり笑いながら言う。
その言葉を聞き、アイマナは泣きそうになっていた。
「イヤです! もうマナ、耐えられません! この人、おかしいですよ!」
アイマナが罵詈雑言を浴びせても、当のソウデン本人はどこ吹く風。まるで堪えていない。おそらく、こういうところがアイマナは苦手なのだろう。
「まあ、それはともかくとして……」
「なにがともなくなんですか! センパイ、どうにかしてくださいよ! マナと二人きりで過ごすって言ってくださいよ!」
「いや、どっちにしろ今日はムリだったし……」
「はっ? どういうことですか?」
マナが眉を顰めた時だった。
廊下の方から軽やかな足音が聞こえてくる。
そしてその足音の主が、息を切らせながらオフィスに入ってきた。
「ハァハァ……ライ! 待たせたわね!」
長い金髪を揺らしながら、メリーナは満面の笑みを浮かべる。
それにしても、彼女は相変わらず目立つ格好をしている。服装はいつものように黄色を基調としているが、今日は少しフォーマルなドレスに近い。
メリーナは、アイマナとソウデンに簡単に挨拶を済ませると、さっそく俺の腕を引く。
「それじゃ、行きましょうか」
俺は立ちあがろうとする。
しかし反対側から思い切り服を引っ張られ、動けない。
「あのな……」
俺は注意しようと思い、振り返る。
しかしアイマナの顔からは、全ての感情が抜け落ちていた。
「えっ……? センパイ、冗談ですよね? 休みなのに、メリーナさんとデートですか?」
「別にデートじゃない。それと、俺は休みでもないからな。休みを与えたのは、チームのメンバーだけで、俺はずっと仕事してるんだよ」
「じゃあマナも仕事します。無線つけていってくださいね」
「そんな大したことはしないから、アイマナは休んでてくれ」
俺がそう言いつけると、アイマナは表情を変えず、わざとらしく唇を尖らせた。
せめてもの抵抗らしい。
まあ、これで済むのだからアイマナはかわいいものだ。
気をつけないといけないのは、もう一人の方である。
「ソウデン、お前もついてくるなよ?」
「仕事だと言うなら、僕もご一緒した方がいいんじゃないですか?」
「暇ならアイマナが言ってた通り、禁足地の調査に行ってきてくれ。ウミボウズ以外にも、もしかしたら利用されてる魔獣がいるかもしれない」
「それは命令ですか?」
「ああ、命令だ」
「フッ……団長直々のご命令とあらば、断るわけにはいきませんね」
どうにかソウデンを遠ざけることには成功したようだ。
これで邪魔する奴はいない。
「ライ、もう大丈夫かしら?」
「ああ。待たせて悪かったな」
正直なところ、この後の予定は、俺だってあまり乗り気じゃないのだ……。
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