グレート・プロデュース  〜密かに国をコントロールする最強のエージェントは、恋に落ちた王女を大帝王に即位させることができるのか?〜

青波良夜

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第五章

No.061

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 タツミに連れて行かれたのは、最上階の高級レストランだった。
 広々とした室内に、俺たち以外に客はいない。
 今日は貸切にしているとのことだった。

 俺たちは大きな丸テーブルに、三人だけで座った。
 さすが首相の夕食ということもあり、運ばれてくる料理も豪華だった。
 
 ある程度、食事が進んだところで、タツミがふと思い出したように喋りだす。

「ところで、メリーナ様は、フィラデル大帝王とは親しいのですか?」

 タツミの唐突な問いかけに、メリーナは少しだけ戸惑った様子を見せる。

「今はあまり良い関係とは言えないかな……。元からそれほど親しかったわけでもないけど……」
「しかし、聞くところによると、メリーナ様のお父様、ブルトン・サンダーブロンド継王つぐおう様と、フィラデル大帝王は、若い頃は親友のような関係だったとか」
「そう聞いてるけど……。でも、二人が実際に親しくしているところは、わたしも見たことがないわ」

 タツミは、メリーナから何かしらの情報を引き出そうとしている。
 俺はそう感じ、奴に声をかけた。

「タツミ、聞きたいことがあるなら、俺に聞け」
「じゃあマイヒーロー。単刀直入に聞く。メリーナ様と、フィラデル大帝王は、協力関係にあるのか?」
「……どういう意味だ?」
「次の大帝王降臨会議で、フィラデル・シルバークラウンは、三期目の大帝王即位を目指しているだろ?」
「それとなんの関係があるんだ?」
「最近のメリーナ様の活躍ぶりには目を見張るものがある。次の大帝王に期待する声も高まっている。だが、ふと気になったんだ。もしかしたらメリーナ様は、裏でフィラデル様に協力してるんじゃないか、と」

 タツミはねっとりとした口調で話すと、最後はメリーナに視線を向ける。

「わたしは、そんなことはしてないわ」

 メリーナは少しムッとした感じで否定する。
 こうやって人をイラ立たせるのは、タツミの常套手段だ。

「タツミ、失礼だぞ。彼女は、次期十三継王の一人だ。将来的には大帝王になる可能性もあるんだからな」

 一応、俺は注意しておいた。けど、どうせ大した効果はない。
 この男は上辺の反省しかしないのだ。

「失礼をお詫びします。このところ、次期大帝王争いのいざこざが頻発していて、私も神経質になってるんですよ。特に、フィラデル大帝王には困っていまして……」

 タツミは初めから用意していたであろう言い訳を口にした。
 乗せられるも癪だが、俺は奴に尋ねる。

「大帝王の何に困ってるっていうんだ?」
「最近のあの方は、なりふり構わず栄光値ポイントを取りにきてるだろ? そのせいで、一般市民が死傷する事件まで起きてる」
「……事件?」
「この間の、フィラデル大帝王即位40周年記念パレードのことだ。忘れたのか?」

 もちろん覚えてる。俺はその場にいたんだからな。
 結局、あれはフィラデルの自作自演みたいなものだったが……。
 いや、ちょっと待てよ。

「タツミ……あの件は、テロのはずだ。それなら大帝王は悪くないんじゃないか?」

 俺が尋ねると、タツミはニヤリと笑う。

「オレが知らないとでも思ってるのか?」
「なんの話だ?」
「あの魔法テロ事件は、フィラデル大帝王の自作自演だった。そうだろ?」

 タツミが自信満々に問いかけてくる。カマをかけてるわけじゃない。明らかに確信している顔だ。

 だが、どうしてわかった? あの件は、俺とメリーナ、それにウチのチームの連中以外は真相を知らないはずだ。

「情報源はどこだ?」
「オレはこの国の首相だぜ?」
「政府がそれほどの情報網を持ってるなんて初耳だ」
「いつまでもオレを子供扱いしないでくれよ。あんたに頼らなくても、欲しい情報くらい手に入れられるさ」

 タツミの言っていることは信用できない。
 政府お抱えの諜報機関は存在するが、GPAや十三継王家つぐおうけ直属の組織に比べれば、遥かに劣っているのが現状だ。

「もし本当に、政府にそこまでの情報収集能力があれば、俺が知らないはずがない」
「信じてくれないなんて残念だよ、マイヒーロー。昔はあれだけ政府の権力強化を目指してたじゃないか」
「だからこそ、政府の限界も知ってる」

 残念ながら、この国の権力構造は歪んでいる。
 現在のグランダメリス大帝国には、<国民政府>と<十三継王家>という二つの権力が存在する。
 だが、<国民政府>が成立したのは最近のことで、グランダメリス大帝国の長い歴史の大部分を支配してきたのは、<十三継王家>なのだ。

「マイヒーローは十三継王家に肩入れしてばかりだな」

 タツミはしつこいくらいに俺を非難してくる。
 過去に助けてやったせいで、少し対立しただけでも、裏切られたと感じてしまうのだろう。
 こういうことになるから、俺は任務が終わった後は、関わった人間の記憶を消すことにしているんだ。

 俺はメリーナのことをちらりと見る。目が合う。
 すると彼女は、心配そうな顔で尋ねてくる。

「ライ……大丈夫なの?」

 恐らくタツミのことを言ってるのだろう。
 メリーナも不穏な気配を感じ取ったらしい。

 なので俺は奴の目を見すえ、はっきりと言ってやる。

「タツミ、お前が何を考えてるのか知らないが、俺の邪魔をするつもりなら容赦はしないぞ」
「マイヒーロー、どうしたんだ? いつの間に継王家の犬に成り下がった?」

 タツミが、芝居がかった物言いで挑発してくる。
 こいつがそういう奴なのはわかっているが、さすがに俺もムカついてきた。

「久しぶりに話せてよかったよ。最後まで付き合えなくて悪いが、俺たちは帰らせてもらう」

 俺は席を立った。そしてメリーナを連れて帰ろうとするが。

「そんなに慌てるなよ、マイヒーロー。まだ知りたいことがあるだろ?」

 タツミがドスの効いた声で言ってくる。その気配に、かつて暗殺部隊にいた頃の面影を感じ、俺は立ち止まった。

「なんのことだ?」
「なぜオレがフィラデルの情報に詳しいのか。いや、フィラデルだけじゃないぜ。あんたの動きもすべて筒抜けだ」
「くだらないハッタリは、俺には通じない」
「じゃあ聞くが、魔獣の子の一件、メリーナ様の活躍に含めなくていいのか?」

 タツミはそう言って、悪辣に微笑んだ。
 魔獣の子の件は、完全にGPA内で処理し、一切外部には漏らしていないはずだが……。

「なぜ知ってる?」
「友人が教えてくれたんだ」

 タツミがそう話したところで、レストランに一人の男が入ってくる。
 
 その男は髪も、服も、上から下まですべてが真っ赤。細い眉は吊り上がり、瞳はルビーのように赤い。両手のすべての指には、指輪が2、3個ずつハメられている。

「待ってたぜ。テメーのことをなァ!」
「レンジ・レッドリング……」
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