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第八章
No.107
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宮殿内の廊下は、庭よりも明かりが少なく、薄暗かった。人の姿も見当たらない。
辺りは、不気味なほどに静まり返っている。どこからか人の気配は感じるが、戦闘が起きてるような雰囲気はない。
……………………。
慎重に廊下を進み、グランドホールのドアにたどり着く。
俺は、気づかれないよう静かにドアを開ける。
グランドホールは、廊下と同じくらい薄暗かった。
中には多くの人がいる。王族はほとんどここに集まっていたらしい。そして彼らは皆、同じ方向を見つめている。
グランドホールの奥。そこに、巨大な幻影が浮かび上がっている。
映し出されているのは、一人の男だった。
白いシャツをラフに着こなし、浮世離れした雰囲気を感じさせる男だ。長めの黒髪を揺らし、癪に触る微笑みを浮かべている。
「サリンジャー……」
俺は思わずその名をつぶやいた。
すると幻影のサリンジャーは、まるで俺を待っていたかのように、静かに語り出した。
『十三継王家の諸君。今宵は、私のために集まってくれて感謝する』
サリンジャーの低く抑えた声が、まるで波音のように、グランドホール内に反響する。
そして人々の間には、波紋が広がるように、ざわめきが起こった。
あからさまに疑問の声を上げたり、落ち着くよう呼びかけたり、あるいは質問のようなことを口にする者もいた。
しかし、幻影のサリンジャーは何も答えない。アレは、ただ映像を流してるのと変わらないのだ。
『君たちの中には、「この男は何者なのか?」という疑問を抱いてる者もいるだろう。まず、そのことに答えておく。私はGPAの長官。名前はサリンジャーと言う。あるいは、『泥だらけの太陽』を率いる<ディープジニー>とでも呼んでもらおうか』
サリンジャーは唐突に、大げさな身振りでその事実を明かした。
おかげで、グランドホール内の波紋はさらに広がり、会場内は騒然となる。
しかしサリンジャーは、なぜこんなところで告白したのか。
俺が疑問に思っていたら――。
「くだらん! なんだ、この茶番は! 誰か、今すぐコレを消せ!」
突然、フィラデルが大声で怒鳴り始めた。シワだらけの顔をさらに歪ませ、手にしていた儀仗を振り回すほどの慌てようだ。
どうやらフィラデルは、サリンジャーの正体を知っていたらしい。
ただ、あの狼狽っぷりは、それだけが原因じゃない。
「まさか……裏で繋がってたのか?」
俺は、目の前に居並ぶ継王たちの顔を見回してみた。すると、何人かの顔色が優れない。全員がフィラデルの支持者だ。
恐らく、フィラデルと『泥だらけの太陽』の関係を知っていたのは……。
第二継王の<フォンタ・アクアリウスブルー>。
第四継王の<キャンドー・レッドリング>。
第十二継王の<ロスカ・グレイギア>。
この三人だ。いずれも、強固なフィラデル支持者として知られている。
しかし本当にそうだとしたら、許しがたい話だ。
もし、フィラデルがテロ組織と繋がりを持っていたとしたら……。
それを知っていて、隠している継王たちがいたとしたら……。
俺は様々な思考を巡らせる。
その間にも、サリンジャーの話は進んでいった。
『私は少々ガッカリしているんだ。せっかくの記念式典に招待されなくてね。私は招待状をもらってもおかしくないと言うのに。これでは、サンダーブロンド継王の即位式と同じじゃないか』
サリンジャーは、メリーナの継王即位式に言及していた。あの日、サンダーブロンド家の王宮を襲ったのは、サリンジャーが率いる『泥だらけの太陽』だったが。
もしかして、サンダーブロンド家の王宮を襲ったのも、フィラデルの指示だったのか?
そうだとしたら、フィラデルは明らかに一線を超えている。もう次の大帝王を投票で選ぶどころの話ではない。
「皆の者、このようなテロリストに耳を傾ける必要はない! しばらくこの部屋を出て、休憩でもしてくると良いだろう!」
フィラデルは必死な様子で、グランドホールの客たちに呼びかけていた。しかし、誰ひとり動こうとしない。
フィラデル派以外の継王たちの中にも、この事実に薄々勘づいていた者がいるようだ。
ここでサリンジャーが決定的な証言をすれば、彼らはメリーナを支持してくれるかもしれない。
そんなことも思ったが、残念ながらサリンジャーは、俺の期待通りには動かなかった。
『私は何度も裏切られ、さすがに愛想がつきたよ。もはや歩み寄ることはしない。私は必ず十三継王家を滅ぼすだろう』
サリンジャーが語る目的は、テロ組織『泥だらけの太陽』が掲げている思想から考えれば、何もおかしくはない。
それなのに、フィラデルはあからさまに動揺していた。
「此奴は、何を言っておる……」
サリンジャーの告白は、フィラデルにとっても想定外だったらしい。恐らくフィラデルは、サリンジャーを上手く利用しているつもりだったのだろう。
しかし最終的には牙を剥かれた。いや、最初からサリンジャーの方が、フィラデルを利用していたのだ。
『それでは皆様、破滅の日をお楽しみに。魔獣使いの生き残りより』
最後に意味深なことを言い残し、サリンジャーの幻影は消えた。
だが、その言葉の意味は、継王ならばすぐに気づいただろう。
サリンジャーは、失われた継王家の一つ、<アイボリビスト家>の子孫を称したのだと。
幻影が消えた途端に、グランドホール内が騒がしくなってくる。
客たちは継王も含め、そこかしこでサリンジャーに関する会話をしていた。
フィラデルに詰め寄る者たちもいる。おかげで、グランドホール内はかなり混沌としてきた。
その混乱に乗じて、俺はビオラを捕まえる。
彼女は俺の顔を見ると、目を丸くしていた。
「ライさん!? ここには来ないんじゃ――」
「メリーナはどこにいる?」
「メリーナ様? そういえば、見かけていませんね……」
「ウチの連中もいないみたいだが、どういうことだ?」
「すみません……私はピアノの演奏に集中していたので、気づきませんでした。異変に気づいたのは、停電が起きてからです」
「銃声は聞こえなかったのか?」
「聞こえました。でも、すぐにシルバークラウン家の護衛隊が説明に来たのです。侵入したテロリストを撃退したと」
「なんだって……?」
『泥だらけの太陽』は大規模な停電を起こし、十三継王家の人間がそろってる場所を襲撃した。それなのに、こんなあっさり撤退するのか?
まさか、サリンジャーの独白を聞かせるためだったなんて言わないよな?
「ライさん、大丈夫でしょうか? メリーナ様はどこに……」
「探してくる。もしビオラが帰宅する頃までに戻らなかったら、俺たちのことは放っておいてもらって構わない」
俺はビオラに別れを告げると、グランドホールを飛び出した。
辺りは、不気味なほどに静まり返っている。どこからか人の気配は感じるが、戦闘が起きてるような雰囲気はない。
……………………。
慎重に廊下を進み、グランドホールのドアにたどり着く。
俺は、気づかれないよう静かにドアを開ける。
グランドホールは、廊下と同じくらい薄暗かった。
中には多くの人がいる。王族はほとんどここに集まっていたらしい。そして彼らは皆、同じ方向を見つめている。
グランドホールの奥。そこに、巨大な幻影が浮かび上がっている。
映し出されているのは、一人の男だった。
白いシャツをラフに着こなし、浮世離れした雰囲気を感じさせる男だ。長めの黒髪を揺らし、癪に触る微笑みを浮かべている。
「サリンジャー……」
俺は思わずその名をつぶやいた。
すると幻影のサリンジャーは、まるで俺を待っていたかのように、静かに語り出した。
『十三継王家の諸君。今宵は、私のために集まってくれて感謝する』
サリンジャーの低く抑えた声が、まるで波音のように、グランドホール内に反響する。
そして人々の間には、波紋が広がるように、ざわめきが起こった。
あからさまに疑問の声を上げたり、落ち着くよう呼びかけたり、あるいは質問のようなことを口にする者もいた。
しかし、幻影のサリンジャーは何も答えない。アレは、ただ映像を流してるのと変わらないのだ。
『君たちの中には、「この男は何者なのか?」という疑問を抱いてる者もいるだろう。まず、そのことに答えておく。私はGPAの長官。名前はサリンジャーと言う。あるいは、『泥だらけの太陽』を率いる<ディープジニー>とでも呼んでもらおうか』
サリンジャーは唐突に、大げさな身振りでその事実を明かした。
おかげで、グランドホール内の波紋はさらに広がり、会場内は騒然となる。
しかしサリンジャーは、なぜこんなところで告白したのか。
俺が疑問に思っていたら――。
「くだらん! なんだ、この茶番は! 誰か、今すぐコレを消せ!」
突然、フィラデルが大声で怒鳴り始めた。シワだらけの顔をさらに歪ませ、手にしていた儀仗を振り回すほどの慌てようだ。
どうやらフィラデルは、サリンジャーの正体を知っていたらしい。
ただ、あの狼狽っぷりは、それだけが原因じゃない。
「まさか……裏で繋がってたのか?」
俺は、目の前に居並ぶ継王たちの顔を見回してみた。すると、何人かの顔色が優れない。全員がフィラデルの支持者だ。
恐らく、フィラデルと『泥だらけの太陽』の関係を知っていたのは……。
第二継王の<フォンタ・アクアリウスブルー>。
第四継王の<キャンドー・レッドリング>。
第十二継王の<ロスカ・グレイギア>。
この三人だ。いずれも、強固なフィラデル支持者として知られている。
しかし本当にそうだとしたら、許しがたい話だ。
もし、フィラデルがテロ組織と繋がりを持っていたとしたら……。
それを知っていて、隠している継王たちがいたとしたら……。
俺は様々な思考を巡らせる。
その間にも、サリンジャーの話は進んでいった。
『私は少々ガッカリしているんだ。せっかくの記念式典に招待されなくてね。私は招待状をもらってもおかしくないと言うのに。これでは、サンダーブロンド継王の即位式と同じじゃないか』
サリンジャーは、メリーナの継王即位式に言及していた。あの日、サンダーブロンド家の王宮を襲ったのは、サリンジャーが率いる『泥だらけの太陽』だったが。
もしかして、サンダーブロンド家の王宮を襲ったのも、フィラデルの指示だったのか?
そうだとしたら、フィラデルは明らかに一線を超えている。もう次の大帝王を投票で選ぶどころの話ではない。
「皆の者、このようなテロリストに耳を傾ける必要はない! しばらくこの部屋を出て、休憩でもしてくると良いだろう!」
フィラデルは必死な様子で、グランドホールの客たちに呼びかけていた。しかし、誰ひとり動こうとしない。
フィラデル派以外の継王たちの中にも、この事実に薄々勘づいていた者がいるようだ。
ここでサリンジャーが決定的な証言をすれば、彼らはメリーナを支持してくれるかもしれない。
そんなことも思ったが、残念ながらサリンジャーは、俺の期待通りには動かなかった。
『私は何度も裏切られ、さすがに愛想がつきたよ。もはや歩み寄ることはしない。私は必ず十三継王家を滅ぼすだろう』
サリンジャーが語る目的は、テロ組織『泥だらけの太陽』が掲げている思想から考えれば、何もおかしくはない。
それなのに、フィラデルはあからさまに動揺していた。
「此奴は、何を言っておる……」
サリンジャーの告白は、フィラデルにとっても想定外だったらしい。恐らくフィラデルは、サリンジャーを上手く利用しているつもりだったのだろう。
しかし最終的には牙を剥かれた。いや、最初からサリンジャーの方が、フィラデルを利用していたのだ。
『それでは皆様、破滅の日をお楽しみに。魔獣使いの生き残りより』
最後に意味深なことを言い残し、サリンジャーの幻影は消えた。
だが、その言葉の意味は、継王ならばすぐに気づいただろう。
サリンジャーは、失われた継王家の一つ、<アイボリビスト家>の子孫を称したのだと。
幻影が消えた途端に、グランドホール内が騒がしくなってくる。
客たちは継王も含め、そこかしこでサリンジャーに関する会話をしていた。
フィラデルに詰め寄る者たちもいる。おかげで、グランドホール内はかなり混沌としてきた。
その混乱に乗じて、俺はビオラを捕まえる。
彼女は俺の顔を見ると、目を丸くしていた。
「ライさん!? ここには来ないんじゃ――」
「メリーナはどこにいる?」
「メリーナ様? そういえば、見かけていませんね……」
「ウチの連中もいないみたいだが、どういうことだ?」
「すみません……私はピアノの演奏に集中していたので、気づきませんでした。異変に気づいたのは、停電が起きてからです」
「銃声は聞こえなかったのか?」
「聞こえました。でも、すぐにシルバークラウン家の護衛隊が説明に来たのです。侵入したテロリストを撃退したと」
「なんだって……?」
『泥だらけの太陽』は大規模な停電を起こし、十三継王家の人間がそろってる場所を襲撃した。それなのに、こんなあっさり撤退するのか?
まさか、サリンジャーの独白を聞かせるためだったなんて言わないよな?
「ライさん、大丈夫でしょうか? メリーナ様はどこに……」
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