グレート・プロデュース  〜密かに国をコントロールする最強のエージェントは、恋に落ちた王女を大帝王に即位させることができるのか?〜

青波良夜

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第八章

No.109

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 俺とメリーナは、夜空を高速飛行しながら、ロゼットを探していた。
 といっても、下は真っ暗闇。ほとんど何も見えない状況だ。ロゼットどころか、ソウデンたちがどこにいるのかもわからない。

 俺はいったん上空で止まり、メリーナに声をかけた。

「大丈夫か? 寒くない?」

 さっきからメリーナは、俺にしがみついたまま震えている。
 それでもロゼットを見つけようと、頑張って下に目を凝らしていた。

「うん……寒いのは平気だけど……」
「無理に下を見なくてもいいんだぞ。どうせ何も見えないんだから」
「それなら……どうやって探すつもりなの?」
「魔力の臭いを嗅ぐ」
「魔力の臭い……あっ、そういえば最初に会った時、ライは『魔力が見える』って言ってたわね」
「よく覚えてるな、そんなこと。まあ、のものも同じ意味だ」
「ロゼットさんの魔力の臭いを嗅ぎ分けることができるの? 犬みたいに」
「そこまで精度は高くない。個人の違いを嗅ぎ分けることはできないよ。ただ、魔法が使われてたら、その痕跡くらいは察知することができる」

 だから一番いいのは、ロゼットが魔法をぶっ放してくれることなんだが……。

 俺は遠くの方まで目を凝らし、魔力の臭いを探ってみた。
 だが、戦闘に使うほどの強い魔法の気配は感じられない。
 この周辺では、せいぜい灯りをともす程度の魔法くらいしか使われていないようだ。

 しばらくして、俺は小さくため息をついた。
 それに気づいたメリーナが、不安そうに尋ねてくる。

「……ロゼットさんのこと、見つけられそう?」
「ダメだな。魔法による戦闘は起きてない」
「ロゼットさん、もう抵抗することもできない状態なんじゃ……」

 メリーナが深刻そうにつぶやく。それを聞き、俺の脳裏には、ビオラの弟、ドラムのことが蘇った。
 恐らくメリーナも思い出していたのだろう。身体に魔法陣を描かれ、自爆させられたあの男のことを。

「このままサリンジャーに引き渡されたら、本格的にロゼットの身が危ういな」
「そんなことは絶対にさせない……!」

 メリーナは強い決意を口にしていた。
 俺も思いは同じだ。ただ、手がかりがないまま闇雲に探しても、見つけられる気がしない。

「……ロゼットに期待するのは酷だな。メリーナは、襲撃者がどっちの方角に逃げたか見てないか?」
「ごめんなさい。ソウデンさんとプリちゃんはすぐに追いかけて行ったんだけど、わたしは宮殿内に留まったから……」
「ジーノもいたんだよな?」
「うん。ジーノさんはまず、わたしを屋上テラスに隠してくれて、それから二人を追ったの」
「ということは、今は三人が下で探してるのか……」

 眼下には、いまだに真っ暗なままの街が広がっている。
 今夜はフィラデルの式典による規制のせいで、夜の街に繰り出す人もほとんどいなかったはずだ。
 だからだろうか、街は不気味なほど静まり返っている。
 それにもかかわらず、ソウデンたちの気配すら感じることができない。

 ニュールミナス市は、3000万人以上が住む広大な街なのだ。すでにこの近くにはいない可能性だって考えられる。

「ソウデンたちと合流するのも厳しそうだな」
「……みんなに無線で連絡は取れないのかしら?」

 ふとメリーナが、そんなことを言う。おかげで俺も思い出した。

「――誰か聞こえてないか? プリ! ソウデン! ジーノ!」

 俺は無線を使って何度か呼びかけてみた。しかし誰からも返事はなかった。

 シルバークラウン家の王宮に張られた魔導ジャミングのせいで、イヤーピースの無線機能そのものが無効化されてしまったのだろう。

「……これはアイマナに修理してもらわないと無理そうだな」
「そういえば、マナちゃんは? 彼女ならロゼットさんを探し出せるんじゃない? ほら、色々な魔導機械を使えるわけだし」
「停電中だからそれも難しいだろうな。いま使えるとしたら、純粋な魔法だけだ」
「ライは、ロゼットさんを見つけ出せるような魔法は使えないの?」
「残念ながら、そんな都合のいいものはない」
「じゃあ他にできそうなことは?」
「…………」

 メリーナの問いかけに、俺は何も答えられなかった。
 すると、彼女の表情がどんどん絶望に染まっていく。

「そうなると……ロゼットさんはこのまま――」

 メリーナはそこで言葉をつぐんだ。最悪の想定が頭をよぎったようだが、声に出すのは恐かったのだろう。
 彼女の表情がどんどん崩れていく。

「ライ、そんなのイヤよ……」

 メリーナは声を震わせながら、俺に寄りかかってくる。
 俺は彼女を抱き留め、静かに語りかける。

「諦めるのは早い。きっと見つかるさ」
「そうよね……ごめんなさい、わたし……」
「謝る必要はないよ。ただ、こういう時だからこそ落ち着くことが大事だ」
「うん……それならお願いしてもいい……?」
「お願い? なんの話だ?」
「髪をね……撫でてほしいの……」

 メリーナは遠慮気味に言ってくる。
 こんな時ではあるが、それで落ち着けると言うなら、いいだろう。
 幸いにも俺たちは夜空に浮かんでいる。誰かに見られることはないしな。

「……これでいいか?」

 俺はメリーナの長い髪をゆっくりと撫でてやる。
 ふわりとしているのに、どこか涼しげな触り心地。まるでそよ風を撫でているような感覚だった。

「ありがとう……すごく安らげる……」
「今日はずっと気を張ってたからな。これ以上は無理しなくていい」
「ロゼットさんも、ずっとそうやって励ましてくれたの……」
「そういえばロゼットにも撫でてもらってたな」
「うん……今日はずっと頼りっぱなしだったから……」

 またメリーナの感情が昂ってくる気配がした。
 それを落ち着けようと、俺は彼女の髪を撫で続ける。

 その時、不思議な感覚を味わった。
 メリーナの髪から、とてつもない魔力を感じたのだ。
 彼女の身体の奥底から生まれた力が、まるで髪から放出されているかのように。

 俺は思わずメリーナの髪に鼻を近づけ、くんくんと嗅いでしまった。
 するとメリーナもすぐに気づき、慌てふためく。

「えっ!? ウソ? 臭う? ヤダ……こんな時に……」
「いや、臭うのは臭うんだが、魔力の方だ」
「魔力……? あっ、もしかしてロゼットさんの臭いが残ってたとか?」
「そうじゃない。メリーナの髪から、相当な魔力を感じるんだ。これって前からか?」
「うん……強い魔法を使おうとすると、髪が爆発する時があるくらいよ。毎回じゃないんだけど。ほら、ライと初めて会った時もそうなってたでしょ?」

 あの高層ビルで出会った時のことを思い出す。俺にとっては、の出会いだが。
 確かにあの時は、メリーナの髪が爆発したようにふくらんで、羊の毛みたいになっていた。

「……これって、たぶん抜けた髪の毛にも、魔力が蓄えられてるよな?」
「えっ、そうなの? よくわからないけど……」
「昔から、魔法士が身体の一部に魔力を蓄える技法はあった。中でも最も使われていたのが髪の毛だ」
「聞いたことがあるかも……。だけど、それがなんなの?」
「もしかしたらメリーナは、普段から無意識に魔力を髪の毛に蓄えてたんじゃないか?」
「……そういえば、子供の頃にも言われた気がするわ。わたしは身体の中に魔力を溜め込みやすい体質だって」

 前から疑問だったのだ。メリーナの身体が、たまに光を放っていることが。
 恐らくメリーナは、潜在的に相当な魔力量を秘めている。

 しかし、そのコントロールの仕方は、これまで教わったことがなかった。あるいは、修練をサボっていたか……。
 おかげで魔法に使うべき魔力が、髪の毛の方に流れてしまうのだろう。
 だから彼女の魔法は安定感がない。

 ただ、その問題さえクリアできれば、逆に相当な武器になるはずだ。

「メリーナ、ロゼットを見つけられるかもしれない」
「本当に? さすがライね!」
「いいや、俺じゃない。メリーナが見つけるんだ」
「えぇっ!? わ、わたしが……?」
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