グレート・プロデュース  〜密かに国をコントロールする最強のエージェントは、恋に落ちた王女を大帝王に即位させることができるのか?〜

青波良夜

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第九章

No.128

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 俺は気を取り直し、アイマナに尋ねる。

「太古の魔獣が街のどこに散らばってるのか、位置を特定することはできないか?」
「一応、帝国魔法取締局マトリが魔獣の魔力を拾って、魔導地図マグマップに反映させてますけど……」

 アイマナは携帯型の魔導機器を取り出した。その小さい画面には、ニュールミナス全域の地図が映し出されている。
 地図上の赤い点が、魔獣の現在位置ということか。

「これって、すべての魔獣の位置を把握できてるのか?」
「どうなんですかね……。無線の会話を聞く限り、太古の魔獣が発する魔力量は強大らしく、割と位置把握は容易みたいですけど」
「不幸中の幸いだな。避難するにしても討伐するにしても、位置が把握できてることは大きい」
「でもセンパイ……この情報が本当なら、太古の魔獣は35562体もいることになりますよ」

 アイマナがその数を口にした瞬間、メリーナが息をのんだ。
 彼女も、以前に1体だけ太古の魔獣を討伐した経験があるからわかるのだろう。
 その数の恐ろしさが……。

「途方もない数だが、1体ずつ倒していくしかない」
「……でも、なんかおかしいんですよね」
「さっきも言ってたな。何がおかしいんだ?」
「太古の魔獣の数なんですけど、さっきから1体も減ってないんです」
「20体くらいは倒したって言ってなかったか?」
「無線では、討伐したと報告されてるんですが、このマップの赤い点はずっと減ってないんです」
「……なんだそれ? じゃあ、帝国魔法取締局マトリのシステムが壊れてるんじゃないのか?」
「そうなんですかね……?」

 アイマナは納得いかないといった感じで首をかしげる。
 その時、俺はふと嫌な予感がした。

「アイマナ、マップを拡大して、この付近を見てみろ」
「いいですけど……えっ!? これって――」

 アイマナの手元を覗き込む。マップは、この付近を拡大して映し出している。そこには、はっきりと赤い点が光っていた。

 それを見て、メリーナが最初に口を開いた。

「この近くに魔獣はいないみたいだけど……。やっぱり壊れてるのかしら?」
「それか、まだヤツが生きているかだ……」

 俺がそうつぶやいた直後、激しい地鳴りのようなものが聞こえてくる。
 それから間髪入れずに、巨大な人型の魔獣が、深い穴から飛び出してきた。

 グオオォッグァッオォグォオォォオオォォ――。

 サイクロプスは巨木を振り上げた格好で、こっちに向かって落下してくる。
 俺は反射的に魔法を発動させた。

絆された暴風のようにスプリングストーム

 吹き荒れる風が凝縮され、一瞬でサイクロプスを包み、遥か遠くへと吹き飛ばす。
 その姿は、あっという間に見えなくなった。
 しかし――。

「しまった……」

 すぐに俺は、対応をミスったことに気づいた。
 今の魔法では、サイクロプスを倒すことは不可能だ。ヤツは街のどこかに落下し、そこで暴れ回るに違いない。

「プリ、追いかけるぞ!」

 俺が声をかけると、プリが長い首を曲げて顔を近づけてくる。
 しかし、そのふわふわな頭に手をかけたところで、アイマナが声をかけてきた。

「ちょっと待ってくださいよ、センパイ!」
「待ってられない。サイクロプスは生きてるんだからな」
「冷静になってくださいよ! 追いかけてどうするんですか? 一度倒したはずじゃないですか!」
「だから、もう一回倒すんだろ。今度は確実にトドメを刺す」
「そんな……さっきだって確実にトドメを刺してましたよ。こんなのおかしいです! マナの話を聞いてください」
「話は後回し――」

 俺がそこまで口にした時だった。
 ふいに、頬が優しい温もりに包まれた。

「メリーナ……?」

 彼女の両手が、俺の両頬に当てられていた。

「ライらしくないわ」

 メリーナはそう言いながら、優しく微笑みかけてくる。まるで、わがままな子供をたしなめるかのように。

 こんな状況で、こんな心持ちで、そんな笑顔を見せられたせいで、俺は一気に頭が冷えた。

「……ありがとう、メリーナ。それと、悪かったな、アイマナ」

 俺は礼と謝罪を済ませ、ひとつ深呼吸をする。
 それから改めてアイマナに声をかけた。

「何か気になることがあるなら話してくれ」
「実は無線でも聞こえていたんです。そこかしこで、倒したはずの魔獣が復活してると」
「冗談だろ……?」
「初めは、現場が混乱してるだけだと思って、マナも気にしてなかったんですけど……」
「太古の魔獣の数が減らないのと、さっきのサイクロプスの復活で確信したのか」
「はい。センパイが倒した魔獣が復活するのは、さすがにおかしいですから」

 言われてみると確かにおかしい。
 仮に死んでなかったとしても、サイクロプスがあんなにピンピンしてるのは、どう考えてもあり得ない。

「何が起きてるんだ……?」

 俺たちが考え込んでいると、遠くの方から何者かが近づいてくる気配がした。

「ライライ~!」

 ロゼットだ。大きなとんがり帽子を被り、マントを羽織った彼女が、杖を振り回しながら走ってくる。
 その後ろには、紫髪の派手な格好の奴と、黄緑色のコートに身を包んだ男もいた。

「ロゼットさん、ジーノさん、ソウデンさん! みんな無事だったのね!」

 メリーナが嬉しそうに三人の名前を呼ぶ。
 そしてロゼットは、俺たちのそばまで走ってくると、真っ先にメリーナを抱きしめた。

「メリーナちゃん! 大帝王になれて良かったわ……おめでとう」
「ありがとう、ロゼットさん」

 メリーナが大帝王に選ばれてから顔を合わせるのは初めてだったな。
 そんなことを思っていると、ソウデンがロゼットに声をかけた。

「ロゼットくん、メリーナ様は今やグランダメリス大帝王陛下なんだ。そのような行為は、謹んだほうがいい」
「あぁん? なんであんたに指図されないといけないのよ? あたしたちの関係に、身分なんてものは存在しないんだから! ね、メリーナちゃん」

 ロゼットは、わざとらしい言い方で、メリーナの同意を得ようとしていた。
 そんな聞き方されたら、否定できないだろ。

 とはいえ、似たようなことは、メリーナ自身も普段から言っていたが。

「うん、わたしにとってみんなはみたいなものだもの。今まで通りに接してほしいわ」

 メリーナがそう言うと、ロゼットは勝ち誇った笑顔をソウデンに向けていた。
 そんな騒がしいやりとりを見ていたら、珍しくジーノが真面目な顔つきで話しかけてくる。

「あのぉ、ボス。ちょっと報告してもいいっすか?」
「なんの報告だ?」
「実はオレら、ニュールミナス市に着いて、最初にスモークモール総理のとこに行ったんすよ」
「タツミに会ったのか?」
「はい。そんで、ボスの名前を使って、総理に緊急事態宣言を出すよう言ったんです。ボスから、『すぐに住民を避難させろ』って伝言を預かってるって……」
「なるほどな。やけに動きが早いと思ったよ。それはジーノのアイデアだったのか?」
「いや、違うから! 別に勝手にやるつもりはなかったんすよ! 本当はボスの許可を取ろうと思ったんだけど、いつ街に来るかわからなかったし、それで……」
「いや、よくやってくれた。最高の仕事だ」

 俺は素直に思ったことを口にした。すると、これまた珍しく、ジーノが照れたように笑う。
 と、そこにロゼットが割り込んできた。

「ちょっと待ちなさいよ、ジーノ! あんたは最初、ライライが来るまで待ってるって言ってたじゃないの! それであたしが、そんな余裕はないからって言って、総理官邸に突撃したんでしょ!」

 その場の光景がなんとなく思い浮かぶ。
 別に細かいやりとりがどうだったかなんて、俺としてはどうでもいいんだが。

「ロゼットもよくやってくれたよ。いつも助かってる」
「もぉーライライってばぁ~。もっと褒めてくれてもいいんだからね」

 ロゼットはあっさり機嫌良くなっていた。こういうふうに、わかりやすいと助かるんだけどな。

 一方ソウデンは、いつものごとく何を考えてるのかわからない。

「……何をじっと見てる?」

 俺が声をかけると、ソウデンは不敵な笑みを見せた。

「いえ、僕はいつ褒められるのかと思いましてね」
「お前も何かやったのか?」
「団長が到着するまでに、すでに太古の魔獣を3体ほど仕留めました」
「へぇー、やるな。で、復活したのか?」
「さすがは団長。すでにご存知でしたか」
「原因はわかるか?」
「いえ、途方に暮れていました。そんな時に、上空をプリくんが通過したので、騒がしい二人と一緒に追いかけてきた、というわけです」

 ソウデンはやれやれといった感じで肩をすくめる。
 すると、今の話を聞いていたロゼットとジーノが声をそろえて言うのだった。

「「騒がしいのは、こいつだけだろ!」」

 ジーノとロゼットは互いに指差して、睨み合う。
 このままだと、くだらないケンカが始まりそうだったので、俺は全員に声をかけた。

「移動するから、プリの背中に乗れ」
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