79 / 155
第6章 緋色の龍宮(龍墜)
6-17.蒼い部屋の泣き声
しおりを挟む
リーは誰とも言葉を交わさず、赤龍公社からほど近い、赤龍エンタープライズのビルの最深部へと向かった。
地下5階。
会長にさえ秘匿している、彼女だけの聖域――長さ50メートル、幅10メートル、水深10メートルの巨大なプライベート・潜水訓練用プール。
無機質なコンクリートの壁に囲まれた、静謐な蒼い空間。
リーは震える手で赤いワンピースのファスナーを下ろした。
絹の衣擦れの音と共に服が床に重なり、真っ赤なハイヒールが乾いた音を立てて転がる。
一糸纏わぬ姿となったリーは、プールの縁に立った。
目的は、限界を超えること。この絶望を物理的な苦痛で塗りつぶすこと。
リーは鋭く息を吸い込み、水面を割り、潜った。
水深10メートルの底まで一気に潜ると、彼女はそこから水平潜水(パラレルダイブ)を開始した。
壁に足をつき、力強く蹴る。1往復で100メートル。
そこからさらに150メートルの壁でターンを切り、最後の直線へと入る。
筋肉が酸素を渇望し、乳酸が全身を支配する。
脳が「呼吸しろ」と絶叫するが、リーはそれを拒絶した。
180メートル。これまでの自己最高記録だ。さらにその先へ。
(まだ……まだよ……!)
185メートルを超えたところで、リーは意識を朦朧とさせながらも水面を目指した。
ようやく顔を出し、一度だけ大きく息を吸い込んだ直後、脳のスイッチが強制的に切れた。
シャローウォーター・ブラックアウト。
リーの体から力が抜け、静かに、ゆっくりと10メートルの水底へと沈んでいった。
次に目を開けたとき、彼女は力強く、温かな体温の中にいた。
「社長! 社長、しっかりしてください!」
フランクの声だった。心配のあまり、密かに後を追ってきていた彼が、水底に沈む彼女を間一髪で引き上げ、その体を必死に抱きしめていた。
「……フランク……」
冷えた体に彼の体温が染み込むと同時に、堪えていた感情が堰を切って溢れ出した。
リーは全裸のまま、フランクの腕の中で声を上げて号泣した。
自分の居場所も、夢も、すべてを奪われた悲しみを、子供のように泣きじゃくりながら彼にぶつけた。
地下5階。
会長にさえ秘匿している、彼女だけの聖域――長さ50メートル、幅10メートル、水深10メートルの巨大なプライベート・潜水訓練用プール。
無機質なコンクリートの壁に囲まれた、静謐な蒼い空間。
リーは震える手で赤いワンピースのファスナーを下ろした。
絹の衣擦れの音と共に服が床に重なり、真っ赤なハイヒールが乾いた音を立てて転がる。
一糸纏わぬ姿となったリーは、プールの縁に立った。
目的は、限界を超えること。この絶望を物理的な苦痛で塗りつぶすこと。
リーは鋭く息を吸い込み、水面を割り、潜った。
水深10メートルの底まで一気に潜ると、彼女はそこから水平潜水(パラレルダイブ)を開始した。
壁に足をつき、力強く蹴る。1往復で100メートル。
そこからさらに150メートルの壁でターンを切り、最後の直線へと入る。
筋肉が酸素を渇望し、乳酸が全身を支配する。
脳が「呼吸しろ」と絶叫するが、リーはそれを拒絶した。
180メートル。これまでの自己最高記録だ。さらにその先へ。
(まだ……まだよ……!)
185メートルを超えたところで、リーは意識を朦朧とさせながらも水面を目指した。
ようやく顔を出し、一度だけ大きく息を吸い込んだ直後、脳のスイッチが強制的に切れた。
シャローウォーター・ブラックアウト。
リーの体から力が抜け、静かに、ゆっくりと10メートルの水底へと沈んでいった。
次に目を開けたとき、彼女は力強く、温かな体温の中にいた。
「社長! 社長、しっかりしてください!」
フランクの声だった。心配のあまり、密かに後を追ってきていた彼が、水底に沈む彼女を間一髪で引き上げ、その体を必死に抱きしめていた。
「……フランク……」
冷えた体に彼の体温が染み込むと同時に、堪えていた感情が堰を切って溢れ出した。
リーは全裸のまま、フランクの腕の中で声を上げて号泣した。
自分の居場所も、夢も、すべてを奪われた悲しみを、子供のように泣きじゃくりながら彼にぶつけた。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
17歳男子高生と32歳主婦の境界線
MisakiNonagase
恋愛
32歳の主婦・加恋。冷え切った家庭で孤独に苛まれる彼女を救い出したのは、ネットの向こう側にいた二十歳(はたち)と偽っていた17歳の少年・晴人だった。
「未成年との不倫」という、社会から断罪されるべき背徳。それでも二人は、震える手で未来への約束を交わす。少年が大学生になり、社会人となり、守られる存在から「守る男」へと成長していく中で、加恋は自らの手で「妻」という仮面を脱ぎ捨てていく…
還暦の性 若い彼との恋愛模様
MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。
そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。
その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。
全7話
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる