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【外伝】Episode-α 氷華の女王 第1章 沈黙の海
1-1.シロイルカの鳴き声
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【読者の皆様へ:本作の位置づけについて】
本編をご愛読いただきありがとうございます。
この『Episode-α 氷華の女王』は、本編第3章と第4章
の間、2023年9月を舞台にした、サラの最強のライバルと
の出会いを描くエピソードです。
■ 本編との関係について
第3章と第4章の間の空白の1年の間に起きた事件で、
これまでは、自分はいつ死んでもいいんだと考えていた
サラ・テヴァリエの圧倒的な「生」への渇望。本編を
より深く楽しむための「鍵」となるエピソードを、
本編更新と並行して毎日19:50に投稿いたします。
■ どちらから読めばいい?
基本的には本編を追いかけながら、その「裏付け」として
こちらを読んでいただくのがおすすめですが、単体の過去編
としてもお楽しみいただけます。
2月28日の本編完結に向けて、物語の全貌が少しずつ
明かされていきます。
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2023年8月。
バレンツ海の中心部、北緯72度付近。凍結した海原は、どこまでも続く無慈悲な白銀の世界だった。
ロシア海洋科学研究所の極地調査チーム5名は、この氷の平原に小さな拠点を築いていた。
「天候、北北西の風。風速2メートル。海流は南東へ0.5ノット。水温はマイナス1.8度……。コ、コナミ、本当にこの条件で入るのか?」
観測係のイワンが、厚い防寒具の中で震えながらモニターを見つめている。
傍らでは、屈強な設営係の2人が、チェーンソーと重機を使い、厚さ2メートルの氷を正確に10メートル四方に切り出していた。
氷を押し沈め、即席で作られた「天然のプール」は、まるで暗黒の深淵へと続く鏡のような水面を湛えている。
コナミ・シバナヴァは、テントの中でゆっくりと最後の防寒着を脱ぎ捨てた。
露わになった35歳の肉体は、もはや女性という枠を超えた、ひとつの「極限の生命体」としての機能美を放っていた。
シンクロ時代の柔軟な関節、世界記録を塗り替えたフリーダイビング時代の広大な胸郭。肋骨の一本一本が浮き出るほど絞り込まれた腹斜筋は、内臓を保護し、水圧に耐えるための鎧だ。
彼女は静かに目を閉じ、マインドフルネスの境地に入る。
心拍数は毎分35回まで低下。血液は脳と心臓だけに集中し、末端の血管を収縮させる「血液シフト」を意図的に引き起こす。
金髪のボブヘアの下、その瞳は冷たい海と同じ色をしていた。
「シロイルカ、反応あり」
イワンが鋭く叫んだ。
「掘削の振動を警戒している。水深38メートル地点、ホバリング中。動かない。……彼ら、怯えているぞ」
「私が、宥めてくるわ」
コナミは全裸のまま、氷の縁へと歩み寄った。
マイナス8度の冷気が肌を刺すが、彼女の意識はすでに水中にある。
手に持っているのは、特殊な吸盤式のGPSタグひとつ。
接着剤も金属バンドも使わない。
シロイルカの滑らかな肌を傷つけないための特注品だ。
深淵へのダイブ
彼女は音もなく、水面へと滑り込んだ。
通常の人間ならショック死する温度。
しかし、彼女の脳は「冷たさ」を「情報」として処理する。
潜行開始。
フィンを使わず、シンクロ仕込みのしなやかなドルフィンキックだけで、彼女は垂直に深く沈んでいく。
【読者の皆様へ:本作の位置づけについて】
本編をご愛読いただきありがとうございます。
この『Episode-α 氷華の女王』は、本編第3章と第4章
の間、2023年9月を舞台にした、サラの最強のライバルと
の出会いを描くエピソードです。
■ 本編との関係について
第3章と第4章の間の空白の1年の間に起きた事件で、
これまでは、自分はいつ死んでもいいんだと考えていた
サラ・テヴァリエの圧倒的な「生」への渇望。本編を
より深く楽しむための「鍵」となるエピソードを、
本編更新と並行して毎日19:50に投稿いたします。
■ どちらから読めばいい?
基本的には本編を追いかけながら、その「裏付け」として
こちらを読んでいただくのがおすすめですが、単体の過去編
としてもお楽しみいただけます。
2月28日の本編完結に向けて、物語の全貌が少しずつ
明かされていきます。
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2023年8月。
バレンツ海の中心部、北緯72度付近。凍結した海原は、どこまでも続く無慈悲な白銀の世界だった。
ロシア海洋科学研究所の極地調査チーム5名は、この氷の平原に小さな拠点を築いていた。
「天候、北北西の風。風速2メートル。海流は南東へ0.5ノット。水温はマイナス1.8度……。コ、コナミ、本当にこの条件で入るのか?」
観測係のイワンが、厚い防寒具の中で震えながらモニターを見つめている。
傍らでは、屈強な設営係の2人が、チェーンソーと重機を使い、厚さ2メートルの氷を正確に10メートル四方に切り出していた。
氷を押し沈め、即席で作られた「天然のプール」は、まるで暗黒の深淵へと続く鏡のような水面を湛えている。
コナミ・シバナヴァは、テントの中でゆっくりと最後の防寒着を脱ぎ捨てた。
露わになった35歳の肉体は、もはや女性という枠を超えた、ひとつの「極限の生命体」としての機能美を放っていた。
シンクロ時代の柔軟な関節、世界記録を塗り替えたフリーダイビング時代の広大な胸郭。肋骨の一本一本が浮き出るほど絞り込まれた腹斜筋は、内臓を保護し、水圧に耐えるための鎧だ。
彼女は静かに目を閉じ、マインドフルネスの境地に入る。
心拍数は毎分35回まで低下。血液は脳と心臓だけに集中し、末端の血管を収縮させる「血液シフト」を意図的に引き起こす。
金髪のボブヘアの下、その瞳は冷たい海と同じ色をしていた。
「シロイルカ、反応あり」
イワンが鋭く叫んだ。
「掘削の振動を警戒している。水深38メートル地点、ホバリング中。動かない。……彼ら、怯えているぞ」
「私が、宥めてくるわ」
コナミは全裸のまま、氷の縁へと歩み寄った。
マイナス8度の冷気が肌を刺すが、彼女の意識はすでに水中にある。
手に持っているのは、特殊な吸盤式のGPSタグひとつ。
接着剤も金属バンドも使わない。
シロイルカの滑らかな肌を傷つけないための特注品だ。
深淵へのダイブ
彼女は音もなく、水面へと滑り込んだ。
通常の人間ならショック死する温度。
しかし、彼女の脳は「冷たさ」を「情報」として処理する。
潜行開始。
フィンを使わず、シンクロ仕込みのしなやかなドルフィンキックだけで、彼女は垂直に深く沈んでいく。
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