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【外伝】Episode-α 氷華の女王 第2章 紺碧の呼吸
2-2.深淵の胎内
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午後。
入り江の陽光が水深10メートルの砂地に、揺らめく網目状の光を投げかけている。
そこには、重力からも、そして「呼吸」という生物の根源的な制約からも解き放たれた2人の姿があった。
「特訓の時間よ、エドワード」
サラの言葉を合図に潜行し、たどり着いた静寂の底。
全裸の2人が重なり合う。
水圧が2人の肌を密着させ、浮力が互いの体温を混じり合わせる。
サラの肢体は、水中でこそ真の躍動を見せた。
彼女の広背筋は海水の抵抗を完璧にいなし、しなやかな大腿部は、黒崎の腰を絡め取る際に岩のような強靭さを覗かせる。
無重力のセックス。
結合部は熱を持ち、水中で反響する鼓動だけが2人の時間を刻む。
サラの瞳は、水深10メートルの高圧下でパッチリと見開かれ、黒崎の魂を射抜いていた。
彼女の肺は、取り込んだ酸素を驚異的な効率でヘモグロビンと結合させ、3分が経過してもなお、その四肢に瑞々しい活力を送り続けている。
だが、黒崎は限界だった。
肺胞が縮み、二酸化炭素が血中を支配し始める。
脳が「酸素を吸え」と悲鳴を上げた。
黒崎はたまらず、彼女の抱擁を解き、水面へと向かって力なく腕を掻いた。
「プハッ……!」
水面を割り、飢えた獣のように空気を貪る黒崎。肩を激しく上下させ、肺を酸素で満たしながら、彼はふと真下を覗き込んだ。
10メートル下の海底。
そこには、信じがたいほど優雅な光景が広がっていた。
サラは浮上しようともせず、白砂の上に仰向けに横たわっていた。
頭の後ろで余裕たっぷりに手を組み、すらりと伸びた足をクロスさせて組んでいる。
彼女の胸は、水圧の中でも決して乱れることなく、静かな律動を保っていた。
サラは、水面で見下ろす黒崎に気づくと、いたずらっぽく、そして慈愛に満ちた仕草でゆっくりと手を振った。
(早く戻ってきて。続きをしましょう)
気泡一つ出さぬその唇が、そう告げた気がした。
黒崎は覚悟を決め、再び深く息を吸い込むと、彼女が待つ「深淵の寝室」へと身を投げ出した。
2度目の結合は、より深く、より本能的だった。
黒崎の肉体的な限界を、サラの精神的な包容力が上書きしていく。
極限の酸欠状態がもたらす酩酊感の中で、黒崎は己のすべてを、彼女の奥深くへと解き放った。
精液が温かな生命の証として、紺碧の闇へと混じり合う。
激しい絶頂の余韻に浸る間もなく、黒崎の視界が火花の散るような酸欠の闇に包まれた。彼は再び、必死の思いで水面へと這い上がった。
一方、サラは。
彼女は絶頂の余韻を噛み締めるように、余裕のバタ足で、ゆっくりと、まるで羽毛が舞い上がるような軽やかさで浮上してきた。
水面へ顔を出した彼女の肌は、紅潮しながらも呼吸一つ乱れていない。
「はぁ、はぁ……死ぬかと思った……」
荒い息をつき、ボートの縁にすがりつく黒崎に、サラは優しく寄り添い、濡れた髪をかき上げた。
「エドワード、死ぬことを恐れたらダメよ。肺の中の空気に執着するのをやめて。海と一体となるの」
黒崎は彼女の言葉に、呆然とした目を向けた。 (一体になったって、酸欠になったら死ぬるが人間なんだよ……)
天才的な戦略家としての理性がそう反論したが、目の前で微笑む、一滴の酸素も必要としていないかのような女神の姿を前に、彼はただ沈黙するしかなかった。
この島での隠居生活は、かつてのケアンズでのビジネスの戦いよりも、遥かに命懸けの修行になることを、彼は改めて確信していた。
入り江の陽光が水深10メートルの砂地に、揺らめく網目状の光を投げかけている。
そこには、重力からも、そして「呼吸」という生物の根源的な制約からも解き放たれた2人の姿があった。
「特訓の時間よ、エドワード」
サラの言葉を合図に潜行し、たどり着いた静寂の底。
全裸の2人が重なり合う。
水圧が2人の肌を密着させ、浮力が互いの体温を混じり合わせる。
サラの肢体は、水中でこそ真の躍動を見せた。
彼女の広背筋は海水の抵抗を完璧にいなし、しなやかな大腿部は、黒崎の腰を絡め取る際に岩のような強靭さを覗かせる。
無重力のセックス。
結合部は熱を持ち、水中で反響する鼓動だけが2人の時間を刻む。
サラの瞳は、水深10メートルの高圧下でパッチリと見開かれ、黒崎の魂を射抜いていた。
彼女の肺は、取り込んだ酸素を驚異的な効率でヘモグロビンと結合させ、3分が経過してもなお、その四肢に瑞々しい活力を送り続けている。
だが、黒崎は限界だった。
肺胞が縮み、二酸化炭素が血中を支配し始める。
脳が「酸素を吸え」と悲鳴を上げた。
黒崎はたまらず、彼女の抱擁を解き、水面へと向かって力なく腕を掻いた。
「プハッ……!」
水面を割り、飢えた獣のように空気を貪る黒崎。肩を激しく上下させ、肺を酸素で満たしながら、彼はふと真下を覗き込んだ。
10メートル下の海底。
そこには、信じがたいほど優雅な光景が広がっていた。
サラは浮上しようともせず、白砂の上に仰向けに横たわっていた。
頭の後ろで余裕たっぷりに手を組み、すらりと伸びた足をクロスさせて組んでいる。
彼女の胸は、水圧の中でも決して乱れることなく、静かな律動を保っていた。
サラは、水面で見下ろす黒崎に気づくと、いたずらっぽく、そして慈愛に満ちた仕草でゆっくりと手を振った。
(早く戻ってきて。続きをしましょう)
気泡一つ出さぬその唇が、そう告げた気がした。
黒崎は覚悟を決め、再び深く息を吸い込むと、彼女が待つ「深淵の寝室」へと身を投げ出した。
2度目の結合は、より深く、より本能的だった。
黒崎の肉体的な限界を、サラの精神的な包容力が上書きしていく。
極限の酸欠状態がもたらす酩酊感の中で、黒崎は己のすべてを、彼女の奥深くへと解き放った。
精液が温かな生命の証として、紺碧の闇へと混じり合う。
激しい絶頂の余韻に浸る間もなく、黒崎の視界が火花の散るような酸欠の闇に包まれた。彼は再び、必死の思いで水面へと這い上がった。
一方、サラは。
彼女は絶頂の余韻を噛み締めるように、余裕のバタ足で、ゆっくりと、まるで羽毛が舞い上がるような軽やかさで浮上してきた。
水面へ顔を出した彼女の肌は、紅潮しながらも呼吸一つ乱れていない。
「はぁ、はぁ……死ぬかと思った……」
荒い息をつき、ボートの縁にすがりつく黒崎に、サラは優しく寄り添い、濡れた髪をかき上げた。
「エドワード、死ぬことを恐れたらダメよ。肺の中の空気に執着するのをやめて。海と一体となるの」
黒崎は彼女の言葉に、呆然とした目を向けた。 (一体になったって、酸欠になったら死ぬるが人間なんだよ……)
天才的な戦略家としての理性がそう反論したが、目の前で微笑む、一滴の酸素も必要としていないかのような女神の姿を前に、彼はただ沈黙するしかなかった。
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