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あやかし授業中

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 翌日も平日であった。
 が、美園は昨日の比ではなく度肝を抜かれることになった。
「えー、今日は急だが家庭科の時間の予定が変更になった」
 朝、担任の先生が言ったこと。そのときまだ美園は「そうなんだ」としか思わなかった。
「取組み中だった裁縫は少し置いておいて別の内容だ。特別講師が来たからな」
 ……特別講師。
 昨日の今日、嫌な予感しかしない。
 美園のその予感は的中した。
 三時限目にあった、家庭科の時間。
 場所は作法室であった。茶道部や書道部が使う畳敷きの部屋である。
 美園たちクラスの生徒が入っていくと、そこに正座をしてにこにこしていたのはやはり安珠。
 美園は驚くより先に脱力した。今度はなにをしようというのか。
「狐坂さんじゃないですか!」
 同じクラスの華が声と顔を輝かせた。
「やぁ。お邪魔しているよ」
 安珠もさらりと答える。そして担任の先生が紹介してきた。演劇部の子たちしか安珠のことは知らないのだから、ほとんどのひとたちにとってははじめましてだ。
「和装研究家の狐坂さんとおっしゃる。特別講師として和服の授業をしてくださることになった」
 おー、と感心したような声が生徒たちから上がった。
 和服を好きだという者はあまりいないだろうが、少なくともつまらない内容ではなさそうだと思ったようだ。喜ばしいのかそうではないのか。美園は測りかねた。
 安珠とはここ三日でだいぶ色々話して過ごしたから、愛着のようなものが湧いていたのかもしれない。つまらないと思われては可哀想だと思ってしまって、しかし、はっとした。
 受け入れられるのも、それはそれで困るのでは。
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