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棚ぼた和装週間

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 翌日。美園は半信半疑ながら着物を身に着けていった。
 秋の折、季節感があるほうが良いと思ったので秋桜の着物。濃紫の生地に、ピンク色の花がかわいらしい。
 帯は黄色を合わせた。まったく違う色なので、秋桜のピンク色を引き立ててくれるだろう。
 ついでに帯留めにピンクのとんぼ玉を……ああ、かんざしに使ってもいいよね。ちょっとくらいなら髪飾りも……といそいそ装飾品を出してきてしまい、美園は、はっとした。
 これでは和装週間とやらを楽しんでいるようではないか。安珠を喜ばせてしまうのでは。
 悩んだものの、残念ながら、せっかくの機会であるというのは事実なのである。
 着物女子として着ないほうが勿体ないし、クラスや学校の皆にも知られている。むしろ着ないほうが不自然なのでは?
 なんて言い訳なのかなんなのかわからない思考で、色々合わせてみていたが、そこにとんとんと襖が鳴った。
「はい」
 美園が返事をすると、からりと開いて入ってきたのは安珠であった。
「おお、流石和服女子。さまになるな」
 懐手をして、嬉しそうににこにこしている。この状況を作り出した本人なのだから、そりゃあ嬉しいだろう。
 美園としては完全に喜びきれないところだが。
「それは……ありがとう」
 なので返事は生ぬるいものになった。流石に顔を輝かせて手放しで「ありがとう!」などとは言えない。
 だが安珠は気にした様子もない。笑みを崩さないどころか懐に手を突っ込んだ。
 そこからなにかが出てくる。指に摘ままれているのは珠……のようだ。
 金色の綺麗な珠。ころんとした小さめのもの。
「和装週間開始の祝いに俺からいいものをやろう」
 何故祝いになるのかはちっともわからなかったけれど、なにかくれるというのだ。
 それに安珠の持っているそれはとても綺麗だ。
 断る理由も嫌う理由も見当たらなかった。
「え、いいん、ですか」
「ああ。着物に似合うぞ」
 安珠はちょっとあたりを見回して、選ぶために色々並べられていた美園のかんざしに目を留めた。
 「ちょっと借りていいか」なんて一本、一番シンプルなものを取り上げて、それに珠をつけてくれたようだ。
 そして美園が自分でやるまでもなく、かんざしを美園の髪に挿してまとめてくれた。おそるべき手際の良さであった。自分でまとめるよりきっちり留まったくらいかもしれない。
「どうだ。今日の秋桜にもぴったりだ」
 美園が近くにあった鏡を覗いてみると、確かに良く似合っていた。
 帯が黄色なのが良かったようだ。金色が良いバランスになっている。
「ありがとうございます。いいんですか、本当にいただいて」
 そっと髪に手をやる。きらりと美しい金色の珠。
「ああ。せっかくやるんだ、たくさん使えよ」
「そう、ですね。使わせてもらいます」
 安珠の言い方がちょっと引っかかったものの、なにか贈ったならたくさん使ってほしいと思うのは自然だろう。美園はそう思っておくことにした。
「じゃ、行ってきます」
「おー。いってらっしゃい」
 今日は学校には行かないつもりらしい。安珠は家の前で手を振って見送ってくれただけだった。
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