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観劇デート

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「すごく面白かったね!」
 観劇も無事に終わって、二人はカフェに向かっていた。二時間弱、見ていたので少し休憩として。
 劇はとても面白くて、美園はつい興奮して話してしまった。カフェについてからじっくり話そうと思いつつも。
「ほんとだな! 流石、プロの役者だよ」
 だが理緒も同じような様子だった。
 なにしろ演劇部で、おまけにこれから同じものを演じるという身なのだ。良い舞台を見れば、興奮して当然。
「私もあんなふうに、登場人物になりきって演じてみたいな」
「ああ、俺もだよ」
 美園のうっとりした言葉にも、理緒は同意してくれる。
 それにまた嬉しくなってしまう。
 同じ目標に向かって進めている仲なのだ。
 一緒に舞台を作る、同志として。
 それ以上に、恋人同士としての役で、舞台の中心に立つ存在として。
 そう、恋人同士。
 さっき見た舞台を思い出してしまって、美園はどきどきしてしまった。
 恋人同士のこと。
 実際に自分たちも演じるのだ。
 上手く演じられるか、という不安もある。
 が、相手は理緒なのだ。片想い相手だ。
 そういう状況であれば、どうしてもどきどきしてしまうだろう。
 もしかしてこれをきっかけに……なんて、都合のいいことまで浮かんでしまう始末。
 いやいや、それは流石に高望みしすぎだから。
 それに安珠にも話したじゃない。
 今は恋より芸。舞台の成功のほうが大事……。
「ああ、そうだ。この先に神社があるんだ。道からちょっと外れたところだけど行ってみないか?」
 神社。
 美園はぎくっとした。
 勿論、安珠のことを思い出したからに決まっている。
 どうして急に神社、と思ったものの、理緒の考えたこともわかる。
 自分と同じだろう。
 つまり舞台の成功祈願。
 神頼み、と言っては少々人聞きが悪いが。
 理緒もちょっと気まずそうに言った。
「舞台を見たあとだからなんかご利益がある気がしてさ。神頼み……なんてな」
 その気持ちもわかるけれど、美園はなんだか嬉しくなってしまった。
 同じことを考えた、なんて。
 それに自分ももう一回、行ってみてもいいかもしれない。
 主演の二人でなら、お願いの効果も二倍になるかもしれないし。
「うん、そうだね。行ってみようか」
 それで二人で道を外れて、その奥にある神社へ向かうことになった。
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