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願いは強く

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 安珠の姿は再び、しゅるっと縮んで金色の光になった。
 ただし、今度は美園の帯締めの珠に向かうのではなく、神社のほうへ飛んでいく。
 一瞬でなにも見えなくなった。まるで白昼夢かなにかだったように。
 美園も、それから横にいた理緒もしばらく無言だった。
 ただ、なにもなくなった鳥居の上を見つめていた。
 やがて視線を下ろした。次に見たのはお互いの顔だった。
「……なんかよく、わからないけど」
 口火を切ったのは理緒だった。
「俺たちの願い。届いた、みたい? だな?」
 理緒が言ったこと。
 「あれ、なんなんだよ?」とか「なんで狐坂先生が?」とか、そういうことではなかった。
 きっと理緒の中で、今の状況の中で、一番強くあったのが、『願いについて』だったのだろう。
 その言葉に、美園の中、やっとすべてが染み入ってきた。
 安珠の来てくれたこと。
 すぐに願いを叶えてくれなかった理由。
 それから、自分の決意が叶った……いや。
 認めてもらえた、ということ。
 美園の顔に笑みが浮かんだ。
「うん。届いたんだよ、確かに」
 その笑みが伝わったように、理緒の顔にも笑みが浮かんでいた。
 きっと大丈夫だ。
 自分たちの決意、確かに届いた。
 だから舞台も成功する。
 認めてくれた、やたら軽くて、からかい好きで、おまけにちょっと過激派で。
 でもとても優しいひとによって。

 ありがとう。

 神社を出るとき、美園は心の中。
 安珠の最後にくれた「頑張れよ」に、やっと返事をした。
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