ミニチュアレンカ

白妙スイ@1/9新刊発売

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本が繋いでくれたもの

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「へぇ。コレ、俺は持ってないな」
 次の週の月曜日。電車に乗ってくる彼を、美雪は待ち構えてしまっていた。心情的に、であるが。待っている形になっているのは以前からであり、特別なことでもないので。
 彼は「見つけたから、ひとつ買ってみたの」と、美雪の差し出した緑の柄の本を摘まんで、じっと見つめた。
 やはり優しい手つきであった。彼がそのように優しく『本』を扱ってくれるだろうとは思っていたものの、そうしてもらえればやはり嬉しい。
 このひとつはもう自分の持ち物なのだ。それを大切に扱ってもらえたら、嬉しくて当然ではないか。
「『幾山河』かぁ。実物見ると欲しくなるな。草木みたいで綺麗だ」
 自分が初めて見たときと同じような印象を感じてくれたらしい。そんな些細なことに嬉しくなってしまった。よって声は弾んだ。
「そうだね。ブラインドボックスだったの初めて知ったよ。ほしいの出るかわかんないもんね」
「そうなんだよー。狙ったのなかなか出なくてさ。『斜陽』なんて、まったく出なくて、いくつ買ったか」
「うわ、それはしんどい」
 もうこんなくだけた口調で話せるようになっていた。
 ついでに、今更ながら名前も名乗り合っていた。
 司(つかさ)と名乗った彼は、美雪の名前を聞いて「女の子らしくてかわいい名前だな」と褒めてくれたものだ。
「この『幾山河』ね、調べてみたんだけど、なんか切ない気持ちの歌だったみたいだよ」
「そうなのか。どういう?」
 聞かれたので美雪は自分のスマホを取り出した。『本』はとりあえず、今のところスマホにつけてはいなかった。やはりなんだか、そんなところまで一緒にするのはためらわれたので。
「旅のうちに感じられた寂しさから詠まれた歌、なんだって」
 簡単な説明と共に、美雪の差し出したスマホ画面を司は覗き込む。じっと見て、解説を読んでいるようだ。
 少し前に読書アプリを入れていた。そして若山牧水の歌集をひとつ買ってみた。
 司のするように、食い入るようにページを繰る、というほどの読み方ではない。
 それよりはむしろ、画面に表示させて、じーっと見つめて、言葉ひとつ。文字ひとつ。
 そういうものから、「これはどういう気持ちで詠まれて、どんな気持ちを込められているのかな」と思いを馳せる。美雪はそういう楽しみ方をしていた。
「ありがとう。……若山牧水って、恋の歌が多いってイメージあったけど、こういう切ない歌も詠ったんだな」
 一通り見終わったのだろう。お礼のあとに、司は言った。
「そうなんだ? ほかの歌も知ってるなんて流石だね」
「そう詳しくはないよ。けど、気に入ったのはあってさ……」
 言いながら今度は自分のスマホを操作して、その気に入ったという歌を出してくれる。それを今度は美雪が読ませてもらう。
 そういうやりとりができるようになったことを嬉しく思う。
 単純に楽しいし、知識が増えていくのも嬉しいし、そして文学作品に触れ、それを楽しむということも知った。
 たくさんのことを、司に教えてもらったのだ。
 そして今では思う。
 電車ではないところでも会えたらいいのに、とか。
 行ってみたいところがあった。
 それは本屋さんである。
 実際の本を見ながら、作品について話してみたい。司は電子書籍をメインで読んでいると言っていたが、だからといって実物の本を見に行かないわけがないだろう。本好きであるのに。
 そこへ一緒に行けて、本の話ができたらそれはどんなに楽しいだろう。
 これほど興味を沸かせてくれたのだ。楽しいものは、もっといっぱい見つけたい。
 でもそれは、実のところ純粋100%の気持ちというわけではなかった。よって口に出せないのであったが。
 ……単純に、プライベートの時間に二人で会いたいなど。そのようなことは。
「あ、着いちゃうな。……俺の学校、明日から夏休みなんだよ」
 それは数日前に聞いていた。美雪はそのまま頷く。
「そうだったね。いいなー。うちは明後日だから」
「まぁまぁ、一日なんて誤差だよ」
「誤差なら休みが多いほうがいいよ」
 言い合って、ちょっと笑った。そして司はまた、手をあげて電車を降りていった。
 ぷしゅっと音を立ててドアが閉まり、電車が発車する。すぐに速度を上げて次の駅へ向かって走り出した。
 美雪は、はぁ、とため息をついてしまった。
 明日は一人の電車なのだろう。学期最後の通学が一人なのは、なんだか寂しい。明日からしばらくは会えないのだろうし。
 でも司は特に気にした様子もなかった。今だって、「じゃ」なんていつもどおりに手をあげて降りていってしまったくらいだ。美雪としばらく会えない日々になっても、特に気にすることもないのかもしれない。
 やっぱり私ばっかが気にしてるのかなぁ。
 その思考は美雪の胸を、ちくりと刺した。彼も自分のことを多少は気にかけてくれていたらいいのに。そういう気持ちは、やはり確かにあったのだから。
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