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親友との『援交』

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「下手だと思うけど文句言うなよ」
 夢を見ているのではないかと思った。俺をベッドに押し倒して、玲也がそんな言葉を吐くなんて。
 何回妄想したかもわからない。それが今、目の前に。
 俺の顔はきっと酷いだろう。泣き出しそうな顔をしているかもしれない。
 男に抱かれるなんてもう数えきれないくらいしてきているというのに初めて抱かれるような気すらした。体は強張ってしまっている。
 それでも確かに嬉しかった。
 今日は妄想なんて要らないんだ。
 だって、本物が目の前に……俺の上にいるんだから。
「んなことはわかってるよ」
 ふわふわしながら俺は言った。
 下手に決まってる。女の子だって抱いたことがないのだ。
 それをいきなり男だ。おまけに親友だ。ハードルが高すぎるだろう。
「……そう。……じゃ、」
 するっと、玲也の手が俺に触れた。シャツの胸へと。
 まるで電流が流れたかのように、俺はびくついてしまう。怯えているかのような反応に、玲也が顔をしかめた。
「……違った、か?」
 キスをすっ飛ばせば、次は胸に触るものだろう。そういう顔をしていた。
 セックスに対する不安ははっきり伝わってきたが、俺の緊張とは別の意味なのがわかってしまう。それが俺の胸を痛めてくる。
「や、……そのまま」
 首を振りたかったが、それもおぼつかない。
 体が凍り付いたようになっていて。やっと否定の言葉を口に出した。
「……ん」
 玲也がほっとしたように、俺の胸に手を這わせる。
 女の子が好きな玲也。本当なら、ふっくら膨らんだ胸を触りたいだろうに。俺のこんなぺたんこの胸ではなく。
 しかし俺のほうの反応は顕著すぎた。玲也の手が動くたびにびくびくしてしまう。
 自分のことを馬鹿かと思った。こんな反応、おかしいと思われるかもしれない。本当は体を売っているなんて嘘だと思われるかもしれない。
 だってこんな、慣れていないみたいな反応を見せているのだ。
 俺はただ、好きなヤツに抱かれるからこうなってしまっているだけなのだが、そんなことは言えやしないから。ただ、感じてこうなっていると思ってくれることを願うばかりだ。
 そして玲也は幸い、そう思ってくれたようだ。疑うような顔はなにもしなかった。
「はずしていい、か?」
 ボタンに手をかけて、顔をうかがわれる。どくんと心臓が跳ねた。
 脱がされる。
 こくりと頷く。声も出なかったのだ。
 まるで初めて男に抱かれる女の子になったような気がした。かわいい下着もふっくらした胸もないくせに。
 裸の上半身なんて、学校での着替えやらでもう何十回も見られているくせに。
 玲也の手が俺のシャツのボタンをぷちぷちとはずしていく。
 玲也の手も震えていた。ひとの服を脱がすなんて初めてなのだろう。おまけにベッドの上でなんて。
 別に、相手が俺だからじゃない。ちりっと胸が痛んだ。
「……綺麗」
 なのに玲也は俺の素肌を見て、感嘆したように言ってくれた。
 抜けるように白い肌。ピンク色の乳首。
 今ばかりは毎日丁寧に肌の手入れをしていたことが報われた、と思う。
 好きなヤツに褒められて。
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