怪獣と救われない救世主たち

コインランドリーと回る洗濯もの

夜中に悪夢で起きるようになったのはいつからだろうか。
まるで現実のような感覚。例えるなら遅刻する夢のような、テスト残り5分でマークミスに気づいてしまったような、そんな焦燥感で起きるのだ。
怪獣が目の前にいるよりも余程自身の過去の失敗やこれからする失敗のほうが恐い。

冷や汗がべっとりと肌に付いている。気が落ち込むときは着替えるのすら、風呂に入ることすら億劫だがこれは流石に不潔だろう。一人暮らしというのは自由であり孤独であり、服を脱ぎ捨てておいても勝手には片付かない。
洗濯もしないといけないな。一週間分の洗濯ものの入った籠から靴下がたなびいている。

コインランドリーはそこそこ繁盛している。回る洗濯機の数だけ人生があるわけだ。
洗濯ものを回すと一仕事終えた気分になってしまった。
しかし一度着替えて家を出てしまうとそのまま帰るのが惜しくなる。
どうせ帰ったらもう動きたくなくなるから。
折衷案として自販機でコーラを買ってコインランドリーの中のベンチで一息つく。
たかだか洗濯一回で店のラーメン1食分くらいの消費だ。
バイトして1時間働くのと手洗いで洗濯して1時間かかるのだとどっちがマシなのか......。深くは考えないようにしよう。
俺はイヤホンをつけてラジオを聴くことにした。
ラジオはリアルタイムの音声だから自分がこの世界に存在しているという実感がもてていい。世界には滅びてほしいが孤独には滅びたくないのさ。

また変な汗で目が覚めた。悪夢で起きたせいかうとうとと眠っていたようだ。
コインランドリーの洗濯物はほとんど止まっている。
意外にも人がコインランドリーに入ってきた様子はなく、洗濯ものは置き去りにされているようだ。
その理由はなんとなく先ほどから感じる振動で察しはついている。
しかし起きたばかりの脳はラジオのアナウンサーの音声を拾うまで数分を要した。
結果は予想に反しない。やはり俺が居るあたりに怪獣が出現しているらしい。