その魚達は水を知らない。

古川ゆう

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第一章

2話「おはよう。」

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「香澄。朝ごはんできたわよ。」

自分の名を呼ぶ方へとぼんやりとした頭で目を瞑りながら顔を向けた。

「もう、いつまで寝てんの。」

「早く起きないと遅刻するわよ。」

呆れ果てたその声は生前嫌と言う程聞いていた母親の声と良く似ていた。

「そうか。これは夢だ。」

そう思い香澄は再び枕へと顔をつけた。

「はぁ、お母さん遅刻しても知らないからね。」

声の主は深いため息を付き強めに部屋の扉を閉め出て行った。

その音に体はビクッと反応する。

「うん?」

「夢…じゃない?」

重く開かなくなった目を擦りながら辺りを見渡す。

「え…何で。」

「私の部屋だ。」

「じゃあ、さっきのはお母さん…?」

現実だと理解した香澄は急いで体を起こし部屋を出た。

リビングのテーブルには椅子に座りカップを片手にコーヒーを口に啜りながら丸い銀縁色の眼鏡の奥からは目を細め「うーん。」と唸りながら朝刊を読む父親の姿。
 
それを横目に肩まで伸びた黒い艶のある髪型に慌ただしい様子で台所に立ち小さなピンク色の弁当箱に「もうこんな時間」と手料理をぎゅうぎゅうに詰め込む母親の姿。

「2人が生きてる。」

「何で。」

「あれは夢だったの。」


「お母さん、お父さん。」

自然と自分の口から2人を呼んでいたのだろう。

笑顔でこちらを振り返る2人の姿が滲んだ瞳に映しだされた。

「何だ、泣いてるのか。」

「どうしたの、香澄。」

2人を心配させまいと、自分の顔がくしゃくしゃに崩れないよう下唇を強く噛み「ううん、何でもない」と首を横に振り答えた。


「これは私が暮らしてた日常だ。」


香澄は2人に「おはよう。」と言った。

















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