わざわざ50男を異世界に転生?させたのは意味があるんですよね"神たま?"

左鬼気

文字の大きさ
57 / 70
1章 異界の地

第五十七話 前日

しおりを挟む

 「……俺たちゃ土竜もぐらかよ…」
 
 若い兵士が呟く。

 「仕方無いだろ……まぁ確かに騎士の俺達がこんな穴蔵に潜んでるこの状況には、俺も思うところがある…」
 「だろ?………でも、まぁ仕方ないんだろうな」

 そんな若い兵士のやり取りを聞いていたロワンも溜息を吐いた。

 王都マリに近いロシャは、どんな事情か、領地を護るための騎士の数が圧倒的に少ない。
 多分に前(十二年前)の反乱の教訓を踏まえ、近くの直轄領以外には、大きな軍事力を置くのを恐れた国王の策であろうが……
 
 ロシャ領は八年前に起きた戦火で首都そのものが壊滅し、領主も戦いで命を落としていた。
 現在はトーンヘルブ領主、ジグスタン伯爵がロシャ領を管理しているものの、現在のロシャ領に住む領民はごく僅か、と言う有様だった。

 (あれから八年も経ってんだから何とかしろよ……)

 軍事力強化に躍起になっている、国王に思うところがあるロワンが顔をしかめるのは、当然と言えば当然だろう。

 ロワンは目を瞑り腰に下げた何の変哲も無い剣に手をやる。

 覚悟を決め、メルカス伯爵に自分自身の進退を委ねたのだが、何の処罰も言い渡されない代わりに今回の任務だ……
 八年前の再現を危惧したメルカス伯爵から、侵攻してくるであろう敵を食い止めるのが、伯爵から受けた任務だった。
 ただ、今回の侵攻にはサルモン辺境伯が関わっているのは、偵察隊の報告からわかっていた。
 現在サルモン辺境伯率いる軍勢は、ロシャ北西  シュプダ丘陵を超えた辺りを首都を目指して進軍している。

 メルカス伯爵から預かった約三千の騎士と、トーンヘルブ領主ジグスタン伯爵から預かった騎士八千。
 サルモン辺境伯率いる軍は約二万五千……

 (……分が悪いな……後はこの剣頼みか……)

 倍する戦力を引っくり返すであろう力が、ロワンの下げている何の変哲も無い剣に込められている……はずだ…

 メルカス伯爵に今回の任務を受けた際、戦力差があった場合の切り札として授かったのが、腰に下げた剣だった。
 
 任務を受けた際、その少年は静かな佇まいで、メルカス伯爵の横にいた。
 一見して冒険者と分かる外見をしていたが、この状況で伯爵の傍らに居るのだから、只者では無いだろうとロワンは推測した。
 
 「さてロワン。任務に割ける人数が、今回圧倒的に少ない。それに加え、サルモン辺境伯が指揮を取っている可能性が高い」
 「………………」
 「兵数、サルモン辺境伯の白麗の衣……厳しい状況だが、その状況を引っくり返す事が可能……らしい」
 「らしい……とは?」
 
 ロワンの疑問を当然と肯いたメルカス伯爵が、隣に立つ少年をロワンに紹介する。

 「儂の横に立つ彼は、ユウジ・タカシナと言う冒険者だ」

 伯爵はロワンが肯くのを確認して、話を続ける。

 「彼は少し特殊な能力を持っている」
 「特殊……」

 ロワンの眉間に、皺が寄るのを見た伯爵が溜息を吐いた。

 「うむ……いや、この際はっきり言うと異常な能力の持ち主じゃ」
 「…………」

 メルカス伯爵から紹介されたその少年こそが、ひがの戦力を覆す切り札だった。
 
 付与術エンチャント…と、その少年は自分のその能力を説明した。
 剣や盾、その他の道具に魔法の効果を付与する能力らしい。
 道具に魔法効果を付与する技術は、天才リーデンス・オルタニウスが発明した文様術式が有名なのだが、この少年は紋章や文様を刻まずに、物に魔法の効果を与える事が出来る。
 それも、メルカス伯爵が説明するには想像を絶する程の威力の魔法を、複合的に付与出来ると言う。
 ロワンの背筋が凍る。
 紋章の発見によって、道具に様々な魔法効果を持たせる事が出来たが、攻撃魔法のような複雑で強力な術式は不可能だったのだが、リーデンスと言う天才によって、第三位魔法程の攻撃魔法を紋様と言う技術によって可能とした……のだが、大群を蹂躙じゅうりんするような……例えば王宮魔道士だったキュイラスが得意としたグルジアスや、他の範囲魔法のような第四位を超える術式を刻む事は出来ない筈だった。
 
 (…それが可能なら……)

 元々戦闘に役立つ魔法を行使出来る者の数が、圧倒的に少ない。
 ゆえに、国に高待遇で迎えられるのが一般的だ。
 リーデンス・オルタニウスの業績によって、ぎりぎり中級魔法を実戦で使えるようになったのだが、伯爵の話をそのまま信じるなら……

 
 
 ロワンの頬を撫でる風に、雨の香りが混じっている。

 「ロワン隊長。こりゃ、一雨きますね」
 「ああ、嫌な感じだな」

 (……サルモン……お前にとっては、これが必要なんだろうな……だが悪い。お前の目的が何であろうが、俺は潰す)

 メルカス伯爵から紹介された冒険者によって、ロワン率いる騎士達の装備には魔法効果が付与されている。
 その多くは防御に特化した魔法なのだが、ロワンを含め数名の騎士の剣には、馬鹿げた威力の魔法が付与されている。

 (下手したら、俺達だけで国を落とせそうだな…)

 ポツリポツリと雨が降り出す。

 (これから起きる惨劇を雨が洗い流してくれると良いんだが…)

 ロワンは薄暗い天を仰ぎ見るのだった。



 「そうですか。貴方がたが力を貸して頂けるなら、とても心強い限りです」
 
 ユーリヒ・ラジェ・メルカスはユウジ達に頭を下げる。
 それを見たロゼが慌てたのは当然だろう。

 「頭をお上げ下さいユーリヒ様。我々は冒険者です、いちいち貴族が頭を下げていては…」
 「いや、貴方がたの力を借りられるのは、万の兵を得たも同然ですから」

 それを聞いたジャンが意地の悪い笑みを浮かべる。

 「だがよ、俺達はロゼが言ったように冒険者だ。騎士と違って勝手に動くから、余り期待はしないでもらいたいな」

 ジャンの言葉にユーリヒは深く肯く。

 「了解しています。我々も冒険者にあれこれと命令する気など有りませんし…大体命令を聞くとも思っていません」
 「あっはっはっは。分かってれば結構結構」
 「……しかし、わざわざそれを言いに来ただけとは思えませんが…何か別の要件がおありですか?」

 ユーリヒの疑問にユウジが口を開く。

 「ユーリヒ様。今回の敵国の侵攻に対して、俺が初手を勝手にうっても良いですか?」
 「……それは、ユウジ殿がマルガリ大坑道で使ったような魔法をうつと言う事ですか?」
 「全く同じ魔法では無いのですが、敵の侵攻を止める事が出来るかもしれません」
 「………そんな事が…」

 ユーリヒが息を呑む。

 「マルガリ大坑道で使った魔法を撃てば、確かに敵を殲滅する事は可能でしょうが、俺は進んで大量虐殺をしたいとは思いません…」

 ユーリヒが慎重に肯く。

 「ですから、敵軍と我々の間に魔法で巨大な亀裂を作ろうと思ってます。マルガリ大坑道へ続くあの峡谷程の」

 それを聞いたユーリヒの表情が強ばる。

 「……そんな事が可能なのですか?…」

 いきなりユウジの体からヒョイと流精虫が飛び出し、例の妖精の姿になりながらユーリヒの眼前に浮かぶ。

 「可能も可能。ユウジに出来ないことは無いわよ!」
 
 ドヤ顔の流精虫の言葉を聞いて、何か疲れたようにユーリヒが溜息を吐いた。

 「…なにか……もう魔法とかのレベルではない気がするのは、私だけでしょうか…」
 「あー……それは多分誰もがそう思うから気にしない事だな!」
 
 ジャンの言葉にロゼとバロンドが何回も肯く。

 「……そうですね……峡谷程の亀裂を作るとなると、メーガン伯爵と話をしなければなりませんね…わかりました。直ぐにメーガン伯爵に話を通します。この場でお待ち頂けますか?」

 ユウジ達は肯く。

 「あー、出来れば茶とかじゃ無くて、もう少し気の利いた飲み物が欲しいな」

 ジャンの軽口にユーリヒが微笑む。

 「分かりました。用意させましょう」

 そう言うとユーリヒは立ち上がり、部屋を後にした。
 
 
 部屋を後にしたユーリヒは後に付き従うグレイズに顔を向ける。

 「グレイズはどう思う?」

 ユーリヒの言葉にグレイズは素直に答える。

 「ユウジ殿なら可能でしょうな……まぁメーガン伯爵様が信じるかどうかはわかりませんが……」
 「……………………」
 「ユーリヒ様がお気になさるのはユウジ殿の力の事ですかな?」
 「……………………」
 「前にも話しましたが、ユウジ殿の力は異常です。ですが私供ではどうにも出来ませんな」
 「そう、我々はあの大坑道でユウジ殿の魔法の痕跡を直に見たから納得もする……だが、他の者はどうだろう?」

 ゴツい顎に手をやりグレイズが少し思案する。

 「あの場にもし私がいなければ、俄には信じないでしょうな……」
 「だろうね。そういった者が悪戯にユウジ殿にちょっかいを出さねば良いのだが」
 「メーガン伯爵がそうすると?」
 「………どうかな…そうならねば良いが……」
 「ですな……下手をしたら国が無くなりますから…」

 ユーリヒは憂鬱な気分のままメーガン伯爵の執務室へ向かうのだった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜

シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。 起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。 その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。 絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。 役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。

神様、ちょっとチートがすぎませんか?

ななくさ ゆう
ファンタジー
【大きすぎるチートは呪いと紙一重だよっ!】 未熟な神さまの手違いで『常人の“200倍”』の力と魔力を持って産まれてしまった少年パド。 本当は『常人の“2倍”』くらいの力と魔力をもらって転生したはずなのにっ!!  おかげで、産まれたその日に家を壊しかけるわ、謎の『闇』が襲いかかってくるわ、教会に命を狙われるわ、王女様に勇者候補としてスカウトされるわ、もう大変!!  僕は『家族と楽しく平和に暮らせる普通の幸せ』を望んだだけなのに、どうしてこうなるの!?  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇  ――前世で大人になれなかった少年は、新たな世界で幸せを求める。  しかし、『幸せになりたい』という夢をかなえるの難しさを、彼はまだ知らない。  自分自身の幸せを追い求める少年は、やがて世界に幸せをもたらす『勇者』となる――  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 本文中&表紙のイラストはへるにゃー様よりご提供戴いたものです(掲載許可済)。 へるにゃー様のHP:http://syakewokuwaeta.bake-neko.net/ --------------- ※カクヨムとなろうにも投稿しています

おいでよ!死にゲーの森~異世界転生したら地獄のような死にゲーファンタジー世界だったが俺のステータスとスキルだけがスローライフゲーム仕様

あけちともあき
ファンタジー
上澄タマルは過労死した。 死に際にスローライフを夢見た彼が目覚めた時、そこはファンタジー世界だった。 「異世界転生……!? 俺のスローライフの夢が叶うのか!」 だが、その世界はダークファンタジーばりばり。 人々が争い、魔が跳梁跋扈し、天はかき曇り地は荒れ果て、死と滅びがすぐ隣りにあるような地獄だった。 こんな世界でタマルが手にしたスキルは、スローライフ。 あらゆる環境でスローライフを敢行するためのスキルである。 ダンジョンを採掘して素材を得、毒沼を干拓して畑にし、モンスターを捕獲して飼いならす。 死にゲー世界よ、これがほんわかスローライフの力だ! タマルを異世界に呼び込んだ謎の神ヌキチータ。 様々な道具を売ってくれ、何でも買い取ってくれる怪しい双子の魔人が経営する店。 世界の異形をコレクションし、タマルのゲットしたモンスターやアイテムたちを寄付できる博物館。 地獄のような世界をスローライフで侵食しながら、タマルのドキドキワクワクの日常が始まる。

俺、何しに異世界に来たんだっけ?

右足の指
ファンタジー
「目的?チートスキル?…なんだっけ。」 主人公は、転生の儀に見事に失敗し、爆散した。 気づいた時には見知らぬ部屋、見知らぬ空間。その中で佇む、美しい自称女神の女の子…。 「あなたに、お願いがあります。どうか…」 そして体は宙に浮き、見知らぬ方陣へと消え去っていく…かに思えたその瞬間、空間内をとてつもない警報音が鳴り響く。周りにいた羽の生えた天使さんが騒ぎたて、なんだかポカーンとしている自称女神、その中で突然と身体がグチャグチャになりながらゆっくり方陣に吸い込まれていく主人公…そして女神は確信し、呟いた。 「やべ…失敗した。」 女神から託された壮大な目的、授けられたチートスキルの数々…その全てを忘れた主人公の壮大な冒険(?)が今始まる…!

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

魔力0の貴族次男に転生しましたが、気功スキルで補った魔力で強い魔法を使い無双します

burazu
ファンタジー
事故で命を落とした青年はジュン・ラオールという貴族の次男として生まれ変わるが魔力0という鑑定を受け次男であるにもかかわらず継承権最下位へと降格してしまう。事実上継承権を失ったジュンは騎士団長メイルより剣の指導を受け、剣に気を込める気功スキルを学ぶ。 その気功スキルの才能が開花し、自然界より魔力を吸収し強力な魔法のような力を次から次へと使用し父達を驚愕させる。

処理中です...