上 下
5 / 16
新しい俺は何者なのだろうか

兄が何かとすごい人な件【前話コルア視点】

しおりを挟む
 僕は隣で泥団子づくりに集中する兄を見つめる。

(兄さんは、すごい人だ)

 この地味な作業をここ三年、毎日欠かさずやっている。他にも異国語の本を僕にくれるし、父と母の手伝いにも力を尽くしている。

(それに比べると、やっぱり見劣りするなあ)

 小さい時から本を読み漁っていた兄。その博識な姿に憧れて僕も追うように本を読み、二つの言語を身につけた。
 幼くして魔術を使いこなす兄。僕も使えるようになりたくて、色々なことを試して考えた。
 立派に手伝いをこなしながら、沢山遊んでくれた兄。影でこっそり泥団子を磨いていたのに、大して苦労もしてない素振りで毎日プレゼントしてくれた。僕もそうやって周りに優しくしたくて、態度を意識した。

(何か役に立てたらいいのに)

 三つしか離れていないのに、たくさんのものをくれた。僕からも返したくてやってきたけど、まだ出来ていない。
 焦ることはないと思う。兄も良くやっている、と褒めてくれる。それは嬉しい。けれど、兄の後ろを追いかけている今のままでは、どうしても道筋が見えないのも事実だ。
 今日も今日とて、兄の魔術を見ているしかない。そう思っていると、兄から提案があった。

「兄さん、植物に関する魔術はありませんよ?」

 兄が魔術の対象として指し示したのは、その辺に生えている草だった。

(きっと気を紛らわそうとしてくれてるんだろうな)

 その優しさに嬉しく思うと共に、そんな気を使わせてしまうのが情けない。

「いーから。物は試し!」

 その兄は僕が否定的な言葉を吐いたのも気にせず、自信ありげに促す。
 また失敗しそうな気はしたが、きわめて楽しそうに見てくるので提案に乗ってみることにした。

 草に手をかざし、本に書いてあった通り魔力を感じようと感覚を腕に集中させてみる。すると、なにかつぶつぶした感触が手のひらに触れる。目には見えないが、みちみちに詰まっている。
 兄にその正体を確かめてみるも、覚えがないようだ。となると、思い当たるものはひとつしかない。

(魔力は粒子のように……って書いてあったけど、これが?)

 確かにつぶではあるのだが一つ一つが塊のようにくっついて、凹凸の激しいボールのようにしか感じられない。本来ならこの一粒一粒が分離しているはずなのだが、これについては今はなんとも言えない。

(でも! 魔力を感じたということは、使えるかもしれない!)

 兄の視線を浴びながら、ボールをひとつ上に動かす。その動きにならって草も動かした分だけ上にいき、スポンと綺麗に抜けた。

「おっ! もしかして」

「はい! 使えたみたいです!」

 兄の目はそれはそれは輝いていた。僕も、何年かの思いが遂げられたことでとても高揚していた。

(出来た……! ものすごく、嬉しい!)

 兄を追っかけていた僕の道が、少しだけ違った方に開けた音がした。

(いつか、兄さんとは違った良さを身につけて、困った時に助けられるようになるんだ)
しおりを挟む

処理中です...