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蟹虎 夜光

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フューリアタウン編

第1話 現実とは違う世界

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 ここはどこだろうか。広大で見慣れない変わった世界でわたくし加賀美 帆人かがみ はんとはそこに立ち、思い浮かんだ疑問である。
 まるで過去に入ってしまったかと思わせる時代を感じとったものが目に広がる。馬に乗る貴族、洋風な建物、市民の服装……見るもの全て現代のものとは思えない。明晰夢とは違うしバーチャルとも言えない独特な世界。
「す、すげぇ……なんだここ……」
 恐らく現実で、漫画やアニメでよく聞く異世界転生と言うやつに自分も巻き込まれたのだろうと現状を分からないなりに仮説を立てることにした。
「お兄さん見ない服装だね?どこで売ってるんだい?」
 変なおじいさんに話しかけられた。敵意もなければ打って変わって優しそうだ。
「えっと学校の制服なので……」
 そう、俺は高校デビューをしたばかりの学生である。
「へぇ、学校ね……」
 おじいさんはそう言うと首を傾げながら、近くのカフェに入った。まさか学ランをどこで買ったんですか?なんて聞かれるとはね……。
 
 俺はこの国をとりあえず徘徊することにしてみた。見慣れない景色広がる空間は現実で暗く狭い空間を好む俺には修学旅行で都会を楽しむ田舎の中学生のような気分だ。
 ……なんてやってたら道に迷ってしまった。今まで見てきた大きな建物は大きな森林へと代わった。ここまで歩き回っていたせいか体はもう使えないぐらいヘトヘトだ。
「おりゃあ!」
 幻聴まで聞こえてきたのだろうか。それともここの場所にも異世界の住人がいるのだろうか。
「はぁ!」
 さらに聞こえる幻聴は自分の意識が遠くなっていくことを実感させる。
「つ……疲れたぁ……水を……水をくれぇ……」
 俺はつい情けない声でこの広い森林の中、気絶した。
「大丈夫ですか?」
 幻聴が近づくのが感じる、俺はここで死ぬのか?

 再び目を開けると、白髪の少女が視界中に映る。
「う、うぉぉああ!!!」
 俺は目の前の景色に驚き、大声を出しながら起き上がる。
「わ、わぁ~!!!」
 少女は俺の動きに驚きながらも避ける。
「そ、そんな急に起き上がらないでくださいよー!」
「ご、ごめん!こ、ここは……?」
 俺は周りを見ながら今の自分の現状を理解する。さっきの幻聴の声はこの少女であり、俺は今さっきこの少女に助けて貰ったのだ。
「ここはフューリアタウンから少し離れたラクリモサの森です。私は街を追放されてからここで暮らしています。」
「へ、へぇ……それで大変なところに。」
 碧眼の瞳で見つめる少女は少しやつれていて、はっきりいってみすぼらしい。
「なるほどね……」
 俺はこの少女の見る先を見て思いついた。
「ねぇ、こんな森じゃなくて本当はあの街で暮らしたいんじゃないのか?」
「……!?」
「さっき会ったおじいさんがさ、俺の服見てどこで買ったなんて聞いてきたんだよ、君はそんなおじいさんよりもやけに俺の服を見ている。」
 少女は服を見てばかりだ。
「君がなんであの街を追放されたのか分からないけど、なにか理由があるならこれも何かの縁だ、助けるよ。」
「……別にいいです。」
「え?」
 え?俺いかにもヒーローっぽい感じでしたよね?
「会ったばかりのあなたに私の事情を話しても困るでしょうし、それに私を助けてもいい事なんか……」
「いい事なんか……?」
「この世界に逆らうことになりますよ。」
 彼女が放った言葉は俺の心に突き刺さった。
「私はここの国である、主様に逆らった元下僕です。そんな私を世間も法も許してくれません。」
 そんな暗い発言と共に少女の目からは涙が流れている。
「……だからなんだよ。」
「え?」
「目の前で助けて貰った女の子に泣かれて何もしない男がいるかよ。」
 俺が子供の頃見ていたヒーローはこんな子を助けないわけが無い。何も分からない異世界のルールだけど、ねじ曲がってるのは確かだ。
「いいのですか……?」
「男に二言はない、君みたいな子が自由に暮らせる国を取り戻そう」
 自分でも何言ってるか分からない。強気な発言をしていても足はガクガク震えている。ただ命の恩人の悲しんだり苦しんだりしている顔は見たくない。
「……もうあんな悲劇・・・・・は起こしたくない」
「悲劇?」
「あぁ、いや……こっちの話。」
 首を傾げる少女。
  俺はかつて自分の中での唯一の後悔と言えるほど屈辱的な出来事を経験したことがある。何も出来ず何もかも失ったあの日の事を不意に思い出してしまった。
「とりあえず一旦街に入ってみないか?」
「え?えぇ?い、いきなりですか?」
「たしかにいきなりだけど、何事もやってみないと分からないもんじゃないか?」
 俺は少女の手を引っ張り、戻ってきた道を辿ろうとする。

 少女と街に出ると、周りの目というのは非常に軽蔑的なものであり、少女はこの地域で不思議なことに嫌われているとまで予想出来た。
「すみません、あの……
 やっぱり私はここに来ちゃいけない子なんですよ……」
 少女は俯き俺は自分の行動が産んだこの光景を目に焼きつける。少女は綺麗な顔つきをしており、嫌われるような容姿をしている訳では無い。性格もこの通り問題がなく、現実世界にいたら声を1度かけてみたいレベルだ。
「おいおいおいおい……」
 後ろから謎の男に声をかけられた。服装からして貴族だろうか……。
「こんなところに罪人の娘として追放したはずの女がいるぞ……どういう事だ?」
 少女が罪人の娘?だから追放したのか。
「……俺が連れてきた。」
「へぇ、見ねえ顔だな。オマケにその服装……お前、この世界の住人じゃないだろ?」
 そこまで見抜かれてるか、まぁ流石にここで学ランは場違いすぎる。
「まぁ、そこまでバレてるか。」
 普通にバトル物ならここで戦いが起きそうだけど俺に戦う手段はない、しかも少女を守りながらだから尚更だ。
「言葉には気をつけろぉ?俺はここの地域を任されているんだ、ここでは俺様がルールだからなぁ!!!」
 赤い服のこの男、茶色の目から青い目に変わると同時になにかを起こすつもりだろう。
「バルーン!」
 男がそう唱えると男は空気中の空気を入れてニヤリと獲物を見つけた蛇のような目付きをする。
「俺の能力は……ありとあらゆるものを簡単に膨らませることが出来るスグレモノ。お前たちを膨らませて破裂することも出来ればお前らの空気を吸収して風船を作り呼吸出来ないからだにすることも出来るのさ!」
 何かと狂気なのは理解出来る。だが、コイツはアホなのかもしれない。自信の無い可能性が不思議と俺を突き動かしていく。
「仕組みさえ覚えればこっちのもんだ。」
「分からないであろうお前らに教えてやったんだ。感謝の一言もなしに戦いを始めるのか?」
「せめて武器をくれよ。感謝の一言はそれからだ。」
 俺は勉強は苦手だし体育に関しては平均よりやや下ぐらいといういかにもな結果だ。音楽や美術は平均台な俺だったが一つだけ……ただ一つだけ特技がある。それは……。
「ブグッシャア!!!」
 喧嘩である。子供の頃、おじいちゃんに鍛えられてから喧嘩を吹っ掛けられても簡単に相手を倒せるくらいには空手の術や心得をマスターした。
 転生前の俺はただのどこにでもいそうなモブのような学生だったが、転生先では今、俺はヒーローだ。自分の過去を知っているものもいなければ、学校なんてのも存在しない。
「す、すまん!い、命だけは……!!」
「んじゃ約束しろ、この子が住める場所を作れ。」
 少女は驚き、俺は風船野郎の顔面を睨みつける。
「そんなの与えれば俺の地位がなくなって……」
「んなことは知るかっ!
俺とこの少女がこれからこの国を変える!」
 俺はこの男に無茶言ってるのは分かるが、国に裏があると思ったからにはアジトを建てて仲間を集め国を倒す。
「お前も薄々思ってるんじゃないか……?」
「!?」
 俺は現実世界で友達がろくにいなかったが、唯一好きだったのは寝ているふりをしながら楽しむ人間観察だった。俺はそれが好きだったから人間の目や表情、言葉選びや思考回路から何か奥底の感情まである程度は見える。この男も国の法律に何か疑問を持っているようだ。
「お前、この権力の代わりに何か失ってるだろ?」
「……なんで分かる。」
「お前の眼が俺にそう応えてるんだよ」
 コイツも上の身分の人間やこの国の王に何か条件を出されて今の地位にたったのだろう。
「……バレちまったら仕方ねえな。この地位になって富や名声を得た代わりに妻と娘を王国の地下牢に閉じ込められた。俺だって嫌だったさ!だがそうでもしねえと……殺される!」
「……なんの意図があるか分からんが卑劣な奴だ。」
 この男は妻子を引き換えに巨万の富を分け与えてもらえる力を手に入れた。なんの意図があるかも分からない男を信頼しきってこうなったのかもしれない。
 だが、この男を前に誰も苦手そうだとか嫌っているという感じもなければむしろ人望すら感じる。
「な、なんだよジロジロとみやがって……!
 疑ってんのか?俺様を!?」
「……いや、周りの目を見る限り、あんた口は悪いが、見た目の割に意外と人望があるじゃねえかと思って。」
 この男は人望があるほど政治や経済を上手くまわせたのだろう。俺はそう判断した。
「だから、あんたをその地位のまま妻子と幸せに暮らせる最高の空間を俺達が作ってやる……だから家を用意させてくれ。」
「……負けたよ。アンタらの土地は用意してやるし少しばかり家賃は安くする。だから…俺の妻と娘を連れてきてくれ。」
 爽やかな笑顔でそう言うと土地を与え、男は仕事に戻ることにした。最初こそ嫌そうな顔をしていたが、話せば意外と良い人じゃないか。

 こうして俺とこの少女は土地を手に入れた。
「……良かったな、土地を手に入れたぞ。」
「は、はい!
こんなにも早く土地を手に入れることが出来るなんて……!」
「まぁな…
 そういえば君の名前は…?」
「私の名前は……『リンク』です。」
「そうか……リンクか」
 そういった途端、俺の視界は現実世界へと戻った。夢なのか異世界での現実なのかはまたその後わかるだろう。

 to be continued
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