黎明のクマちゃん

蟹虎 夜光

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第9話 億万長者のdaughter

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第9話 億万長者のdaughter

 一ノ瀬はんね。かつての彼女はまさに『箱入り娘』のような人間だった。

 父は今でもテレビに出るほどの超人気俳優、母はアナウンサーということで彼女の家計は突然変異として生まれた有名人家族といったところだろうか。

 そしてその彼女は幼い頃、家から出るのを一切許されなかった。それは数回に渡って行われた誘拐も原因である。

 学校は送迎されて少しでも寄り道しようものなら雇われた従者達に捕まり、即家ルートである。その光景はレースゲームの時に場外に行こうとするなら戻そうとするあの雲にのったアイツである。

「……」

 彼女にとって自由とはなんなのか。それは幻である。

 いつも窓から見る空は憂鬱すら与える。子供の頃は塗り絵やおもちゃで遊びながら見る窓から見た景色に興奮すら覚えたものの、今ではそれが憂鬱でしかない。

 森中は都会でこそあるが、監獄の中では都会であれ森であれどこであれ同じだ。

「もういっそ……いなくなった方が……」

 ふとそんな事を思い、窓から飛び降りようとする。

「いなく……なった方が……」

 外の景色を見て脚はがくがくと揺れて視界は涙でボヤけてしまう。未練でもあるというのか?いやないはずだ、だってこんな世界……私を縛ってばかりだ。

「……そんなとこで何してるんだよ。」

 男の子の声が聞こえた。

「え……?」

「窓から出て脱走か?もし転んでもしたらその……さ……綺麗な……か、顔が台無しになるだけだぞ。」

 少しなにかに影響を受けたような台詞の回し方である。

 それにこの聞き覚えのある声はと確認するとそこに居たのは友生だった。

「何してんの?」

「それはこっちの台詞だよ。やってること完全に脱獄犯みたいだぞ。」

「うっさい、もう私は……嫌なの。」

「そうか、何があったかわかんねぇけどさ……死にたいの?」

「……」

「お前が死にたいとでも言うのだったら、お前の家族を呼んででも僕は止める。」

「やめて、なんでそんなことするの……。」

「僕さ……、お前みたいに親とかいないけど、この間大切な人を目の前で失ったんだ。好きだとかじゃなくて人生で大切なことを教えてくれた人。」

「……」

「今お前が死にたいって思った今日は昨日まで死んでしまった人達が生きたいと思った今日なんだよ。だからさ……簡単に捨てようなんて思うなよ。」

「うん……」

 涙を引っ込めようとするはんね。だが不幸にも脚を滑らせてしまう。

「あっ……」

「危ない!」

 はんねは下をみながらあー、私はその今日で終えるんだと悟ろうとする。

 が……目を開けた時には誰かの手で支えられてるんだと周りを見ながら確信する。

「間に合った……」

 無茶をしたのだろうか、一切傷がない私に対して友生はあまりにも全力なのか少しボロボロだ。

「いたたたた……」

「ご、ごめん……」

 そんな騒ぎを聞いたのか誰かが扉を開ける。

「なんの騒ぎよ!あ!アンタって子はどうして外にいるのかしらお母さんね!どれだけ心配したか……」

「私……外の世界、知ってみたいの。外で何が起きてるか……学校とこの家だけじゃない……この街についても知りたいの。」

「何を言ってるの!今は何よりも勉強が必要なの!ほらさっさと自分の部屋に戻」

 そんな空間に彼が口を開く。

「外で学ぶことも……立派な勉強ですよ。」

「な、なによ!いきなり現れて……」

「どうしてアナウンサーの貴女が外がどうなってるか報道しないんですか?そんなに勉強が大事だって言いたいんですか?電車の切符の買い方だって着ぐるみの中身がどんなに苦しいかなんて外に出ないとわからなく無いですか?」

「そ、それは……す、少なからず着ぐるみは関係ないわよ!」

「あぁすみません……つい。でも……少しの校外学習くらいしたっていいじゃないですか。」

 確かにと思ったのだろうか。奥歯を噛み締めながらはんねの母親はその場を去った。

「……勝手にしなさい。」

 その瞬間、はんねと友生は思いっきり喜んだ。

「友生……ありがとう。私、嬉しいよ。」

「べ、別に……じゃあな、また学校で会おうな。」

 笑顔のはんねに照れながら友生はその場を去る。


 翌日、いつもの車登校ではなく歩きで学校を登校することにしたはんねは笑顔で歩く。

(自由に登校できるけど……迷子にならないといいな。)

 そう思いながら歩き続けると、何者かがハンカチを鼻と口に当ててきた。

 彼女は数年越しの誘拐にあった。


 もちろんすぐにニュースになった。

 そして友生ははんねの家に呼ばれた。

「だから嫌なのよ。……確かにあなたの言い分もわかるけれどはんねは普通の子じゃないの。」

「……こういうことだったんですね。」

「いつも通り身代金渡して終わらせるから……気にしなくていいわ。あと……これに懲りたらはんねとは二度と関わらないこと」

「無理ですね。」

「……え?」

「学校では必ず会うし……こんな汚い大人の会話に子供の友情、巻き込まないでください。」

「ちょっと!自分がどういう立場かわかった上で」

「わかってますよ……それにその身代金も用意しなくていいですよ。」

 そう言うと友生は走り出した。

「ちょっと……。」

 ふと家族写真を持ってはんねの母は顔が緩んだ。

「まるで……貴方みたいね。」


 全速力で走る友生。

(はんねの家には……銀行口座と写真と……あーもう考えるのめんどくさい!)

 とにかく真っ直ぐ直感で走り出す。目的地の分からない迷路のような道をひたすらに。

 そんな彼に高級車が止まる。窓をゆっくりと開け、姿を現したのは、はんねの母だった。

「乗って」

 真っ直ぐ現場に直行する。

「なんで……そこまでしようとするの。」

「すみません、自分、不器用ですから……。」

「高〇健さんかよ……。」

 苦笑いしながら車を走らせるはんねの母。

「私さ、……つい最近、着ぐるみに助けられたの。」

「……え?」

「なんか殺し屋だったのか分かんないけど……手裏剣を投げられてね、でもその着ぐるみが助けて始末までしてくれてさ……その人は冷静で冷たそうに見えるけど心の中は暖かいんだなって思った。」

「……」

「なんか君……その人に少し似てるような気もして……。」

「……どうですかね。」

「さぁ着いたよ……マスコミが来ないようにね。」

「わかってますよ。」

 はんねさんは車をどこかへ寄せるために移動して、友生は真っ直ぐ誘拐犯に近づく。

 そんな光景をこっそりと見守ってる人がいた。

 ノアである。

「……私が鍛えようと思わん理由が分かるといいんだがな。」


 誘拐犯の居場所にて。

「よ、よう……会いたかったぜ……って、誰だおま」

「お前が誘拐犯か?」

「あ、あぁそうだぜガキがよォ!ほら?これわかるナイフって武器な」

 誘拐犯は思いっきり殴られた。

「やはりか……。『完成』したものには『教育』は難しい。」

 ノアは確信するとその場をそっと去る。

「なぁ……はんね。」

「……な、なに?」

「何回こんなことがあっても俺が助けるから心配しないで街に出て欲しい。お母さんに心配されようが……ね。」

「……うん!」

 笑顔になったはんねは母の車に乗ってみんなで去る。


 時は現在。

「あの後……誘拐犯の人は倒れてるところを前科で逮捕されて、事件はこれで終わったんだよね。」

「あったな……。」

「ほら、次は君の妹を助ける番だよ。」

「助けるって……そんなヒーローみたいに言わなくても。」

「何言ってんの……。」

「わーったよ。」

 照れながらも満更でも無い顔をして作戦を考える。

「んじゃ助けるぞ、ヒーローが。」

「あ、今のセリフはくさい。」

「うるせぇ」

 つづく|《》
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