1 / 12
第12話「どうしても南へ行きたいんだ…」⑩『ログハウスの惨劇!! 死闘!SIT・AチームVSヒッチハイカー』
しおりを挟む
目標であるログハウスまで後約50mという地点まで来たところで、長谷川警部がヘルメットに内蔵された無線で全員に向けて合図を送った。『止まれ』の合図だった。
SIT(Special Investigation Team:特殊事件捜査係)隊員ではない伸田だけが合図を理解出来なかったが、隣を歩いていた安田巡査が伸田の名を呼び停止する様に手で指示したので、一人だけ先行せずに済んだ。
「長谷川だ。全員、よく聞いてくれ。作戦を伝える。これより我々を三班に分ける。一班は島警部補を班長とし、片岡巡査と安田巡査の3名で構成する。二班は山村巡査部長を班長とし、関本巡査に足立巡査を加えた3名だ。三班は私が班長で鳳指揮官と伸田氏の3名とする。
一班にはログハウスの正面入り口から突入してもらう。二班は勝手口等の別出入り口から屋内への侵入だ。三班はログハウス外にて待機し、両班への指示と有事にはバックアップに付く。それでよろしいですね、鳳指揮官?」
長谷川が自分が立てた作戦を、この場の指揮官である鳳に確認した。
「私はそれで構わん。作戦の立案及び指揮は君に任せる。もちろん私も君に従う。」
長谷川の5mほど右隣の位置に立っていた鳳が、右手の親指を立てた『サムズアップ』のサインで了承した旨を示した。
「では、続ける。一班と二班は共に携行したプラスチック爆薬『C-4』で両ドアの鍵及び接合部を同時に爆破しろ。それを確認し次第、三班の私がM84スタングレネード(閃光手榴弾)を窓越しにリビングへと投擲する、M84の爆発を合図として一班二班が同時に突入だ。
人質の皆元さんのいるリビング内では、やむを得ない場合以外での発砲は禁止する。皆元さんを安全に確保した後は各個の判断に於いてヒッチハイカーへの発砲を許可する。この場合も人質及び仲間への発砲には注意しろ。私からは以上だが、何か質問はあるか?」
長谷川が全員に命令を通達し終えた後、島警部補が発言した。
「おおむね了解です。しかし、皆元さんの所在はリビングで間違いないんですね? それに先ほどヒッチハイカーはログハウスの屋根に出ていると、鳳指揮官は仰ってましたが…」
すぐに鳳が答えた。
「その通りだ。ヒッチハイカーは、ついさっきまで屋根の上にいた。おそらく、ヤツは我々の接近を感知したんだろう。ヤツの五感なら我々の人数や距離までも感知したと見ていいだろうな。」
「山村巡査部長です。指揮官殿は嫌にヤツの事をご存じなのですね。」
これまで、あまり発言の無かった山村巡査部長が鳳に対し皮肉めいた口調で言った。どうやら彼は、押しかけ的に現れて強引に指揮官の座に納まった鳳に対して反感を持っているらしかった。
「この際、はっきり言おう。その通りだ。私は自分の職務に於いて、これまでにも多くのヤツと同種の怪物を扱って来た。そういう相手と実際に戦った経験も数知れないほどある。」
ここで一旦話を中断した鳳が全員の顔を見回すと、皆が一様に驚きの反応である事が分かる。鳳の着用しているヘッドセットを通して隊員達や伸田のどよめきの様な声が聞こえてくる。鳳は各員の反応を確認してから再び話し始めた。
「昨夜から続く今回の一件において、諸君達の同僚であるSITの他チームの警官達が全滅した状況や、君達自身がヤツとの戦闘を体験した結果でも分かるだろう。ヒッチハイカーは君達の装備しているSMG(サブマシンガン)や自動拳銃程度では倒せない。いや、通常の火器でヤツを傷付けてもすぐに再生してしまうのは、すでに君達も目にした通りだ。
これは国家の重要機密に関する事なので詳しくは言えないが、私は…ヤツを倒す事の出来る9mmパラベラム弾を所持している。その弾丸を装填していた私のベレッタはヤツに破壊されてしまったが、マガジンと装填されていた弾丸は無事だ。」
そう言った鳳がジャケットの内ポケットに入っていたベレッタの弾倉(マガジン)を取り出し、全員に見えるように掲げて見せた。
またもや全員の間にざわめきが起こったが、鳳が上に掲げて見せたのは何の変哲もないベレッタ用の弾倉だった。
「いったい、その9mm弾にどんな威力があるというんですか?」
興味深そうな顔で伸田が鳳に質問した。
「それは…機密事項なので言う事は出来ない。だが私自身、以前ヤツと同種の怪物との戦いで同じ弾丸を使用したが、効き目は十分だったとだけ言っておく。効果は実証済みだが、言うまでもなく目標に当たらなければ何の意味も無い。ただし、ヤツの身体に弾丸が掠っただけでも、ある程度の効果は期待出来ると思ってもらっていい。」
皆の視線が鳳の右手に握られたベレッタの弾倉に集中した。
「だが、現在私は、この弾倉に入った15発の弾丸しか所持していない。これを全員に配布するとなると、一人当たり一発もしくは二発のみだ。この吹き荒れる吹雪の中で高速で動き回るヒッチハイカーに当てるとなると、かなり困難なのは射撃に長けた諸君には十分理解出来るだろう。さあ、どうすべきだろうか?」
ここまで言った鳳は皆の反応を待つべく黙った。
「山村です。あなたの話が本当なら、その特殊弾を無駄にする事は出来ない。となるとやはり、最も射撃を得意とする者が所持してヤツを撃つべきではありませんか?」
そう言った山村が隣の島警部補を見た。
島は県警ナンバーワンの拳銃射撃の腕前を誇り、警察庁主催の全国大会に県から選抜されて毎年出場し、上位に入賞し続けるほどの実力だった。
「私もヤマさんに賛成です。だが、その弾丸は私ではなく伸田さんが所持すべきだと思いますね。」
島の意見に全員が伸田の方を向いた。すでに伸田の射撃の腕前を目の当たりにしたAチームの隊員達からは、反対の意見は出なかった。安田巡査と関本巡査などは大きく頷いて賛同を示していた。
鳳と長谷川は伸田の発砲について島からの無線報告により聞かされてはいたが、隊員達の反応を見て驚いた。射撃に関するエキスパートの集まりと言っても過言では無いSITの隊員達から、これほど絶大な信頼を寄せられる伸田の射撃の腕前とは、いったいどれほどの物だと言うのだろうか…? 実際に自分の目で見ていない鳳と長谷川の二人は首を傾げるばかりだった。
「どうやら、唯一の民間人である伸田さんはAチームの猛者達に絶大な支持を得ているようだ。長谷川警部、彼に任せても構わないかね?」
苦笑いを浮かべた鳳が右隣の長谷川の方を振り返って尋ねた。すると、長谷川は鳳に向かって大きく頷いて見せた。
「私は…Aチームの隊員達が支持する伸田さんを信じようと思います。」
長谷川の言葉に鳳は笑った。
「ふふふ… 犯罪者なら泣く子も黙るSITの面々は、実は大甘の連中なんだな。自分達の命運をたった一人の民間人の青年に賭けるとは… 分かったよ、私もその賭けに乗ってみよう。
そらっ、伸田君! ヤツを任せたぞ!」
そう言うと鳳は、右手に握っていたベレッタの弾倉を自分の左隣に立つ伸田に向けて放った。
パシッ!
吹雪の中を自分に向かって正確に飛んできた弾倉を、伸田は右手でしっかりと受け止めた。
「これが、ヒッチハイカーを倒せる弾丸…」
伸田は鳳から受け取ったマガジンをひっくり返したり月明かりに透かして見たりしたが、見た目はどうって事の無い普通のベレッタの弾倉だった。伸田は弾丸が15発入ったの複列弾倉(ダブルカラム・マガジン)の開口部から指を使って弾丸を一発抜き出してみた。
見た目は通常の9mmのパラベラム弾と同じだった。だが、弾頭部は警察で通常用いられるギルディングメタルと呼ばれる銅合金で被覆されたFMJ(フルメタルジャケット)では無く、鉛の弾頭だった。警察が使用する銃器では殺傷能力の強い鉛の弾頭では無く、貫通能力の高いFMJ弾が用いられる事が多いのだ。それなのに、鳳の使用する弾丸は鉛が剥き出しのソフトポイント弾なのである。
「弾頭に何か模様が刻んである…」
伸田は先端が平らになった鉛の弾頭部分を目を凝らして見た。
「これは… ペンタグラム? 五芒星だ。」
伸田が弾頭に刻まれた模様を認識し、顔を上げた時だった。
すぐそばに鳳が立っていた。
「うわっ! 鳳さん! い、いつの間に…?」
雪の中を音も立てずに静かに自分が忍び寄っていた事に驚いている伸田に向かって鳳が言った。
「その通りだよ。君が言った通り、それは五芒星だ。しかも、安倍晴明の再来と言われる現代日本における稀代の陰陽師が、念を込めて手ずから一発ずつ五芒星を刻み込んだ弾丸だ。
つまり、その弾丸自体が陰陽術の込められた『思業式神』その物なのだ。名付けて『式神弾』だ。
その事を肝に銘じて、君には無駄弾は使わないでもらいたい。」
伸田に対し自分の言いたい事だけ言い終えた鳳は。くるりと背を向け元の自分の立ち位置へと戻って行った。
「わ、分かりました… 凄いプレッシャーだけど頑張ります。くそ、聞いちゃいない…
それにしても…その五芒星だとか陰陽師だとかが、あのヒッチハイカーに本当に通用するのか…? ヤツはドラッグでイカレた薬物中毒のサイコパスなんだろ?」
ブツブツと伸田が独り言をつぶやく。だが、彼は恋人の静香を救うためならどんな手段でも使うつもりだった。たとえ怪しげな弾丸であろうと藁にでも縋りたい気持ちなのだ。
「よし。では、先ほどの作戦で行くぞ。三班に分かれて進め。」
長谷川警部の言葉に全員が従い、それぞれが支持された班を組んでログハウスへ向けて歩き始めた。
「待っててくれ、シズちゃん。必ず僕が君を助ける。」
そう伸田はつぶやくと、長谷川と鳳と共にログハウスへと向かう。彼の右手には、鳳の言った『式神弾』が収まった弾倉の装填されたベレッタが、しっかりと握られていた。
********
明かりの消されたログハウスの居間では、屋根から戻ったヒッチハイカーが、まだ意識が戻らないまま横たわる静香の傍に静かに立っていた。
「三つに分かれた… もうすぐ来る。」
目を瞑ったまま、静かにそうつぶやいたヒッチハイカーの顔には、残忍だが嬉しそうな笑みが浮かんでいた。奇妙な事に、この男は今から自分の身に起ころうとしている状況が楽しみで仕方ないと言う態度だった。
********
『一班、島です。玄関口に到着。扉の鍵にC4をセットしました。』
一般の島が無線で皆に報せてきた。
『二班、山村です。勝手口の鍵にC4セット完了です。』
同じく二班から山村巡査部長の報告が入った。
「こちら三班、長谷川だ。これより作戦を開始する。C4の爆破を確認後、私が窓越しにM84を室内に投げ込む。一班と二班は音響閃光弾の炸裂と同時に総員で屋内に突入しろ。人質の救出が最優先だ。よし!爆破!」
ボンッ!
ボンッ!
仕掛けられたプラスティック爆弾C4がほぼ同時に爆発し、玄関と勝手口のそれぞれの扉の鍵の周辺部が吹き飛んだ。
「一班島、爆破成功!」
「二班山村、同じく完了!」
島と山村から、それぞれ扉の鍵を爆破した旨の無線が入る。
「了解した! こちら三班長谷川、M84を投げ入れるぞ。今から5秒後だ! 5、4、3…」
長谷川が3秒目で目の前にあるログハウスのリビングルームの掃き出し窓に音響閃光手榴弾の『M84スタングレネード』を投げ入れた。
窓ガラスが砕け散ると共に、引いてあったカーテンを押しのけて室内に飛び込んだM84が炸裂し、170-180デシベルもの爆発音を上げると同時に100万カンデラ以上の閃光を放ち、真っ暗な室内を真昼以上の輝きで照らし出した。カーテン越しでもまばゆい光だった。
中にいる人間は、防護無しだとM84の爆発で方向感覚の喪失や見当識の失調を起こす筈だった。たとえヒッチハイカーが並外れた体力と不死身に近い再生能力を持っていたとしても、生物である以上は影響を受けない筈が無かった。
「一班、突入っ!」
「二班、行くぞ!」
島と山村の力強い掛け声と共に、一般と二班の全員が同時にSMG(サブマシンガン)を構えたまま中へと突入した。もちろん全員がヘルメット付属の対閃光用にもなるフェイスガードで顔を覆っていた。
どこに敵が潜んでいるか分からないため、一班二班共に各員が警戒し、互いをカバーし合いながら建物内を進んだ。ログハウス内はスタングレネードが爆発した後の独特な匂いが漂っていた。最も匂いのきつい部屋がリビングの筈である。
すぐにたどり着いた6名のSIT隊員達は、ヒッチハイカーの逃亡を防ぐためにリビングへの二つの出入り口を片岡巡査と関本巡査にそれぞれ守らせ、残り4名が慎重に室内に入っていった。
部屋の中は長谷川警部がM84を投げ入れたためにガラスの割れた掃き出し窓から、雪混じりの風が吹き込んでいる。
M84のアルミケースの残骸がブスブスとまだくすぶって燃えていた。
「島警部補! ヒッチハイカーの姿は見当たりません! しかし、皆元さんを発見しました!」
安田巡査が指さした床に、毛布を数枚掛けられて横たわる皆元静香の姿があった。
「よし! 安田、皆元さんの生存を確認しろ! 他の者は安田を援護! 各員、警戒を怠るな!」
島が全員に命令を下す。
静香の首筋に手を当てた安田巡査が嬉しそうな叫び声を上げた。
「生存を確認しました! 皆元さんは生きています! 気を失っているだけです!」
「島警部補! リビングと続くダイニングにはヤツの姿はありません!」
山村巡査部長が大声で叫んだ。ここまでの騒ぎになれば、もう囁き声で会話する必要など無かった。
「安田! お前はそのまま、皆元さんの警護に当たれ! 他の者はリビング以外を調べるんだ! 俺は2階へ行く!片岡、お前も俺と一緒に来い! ヤマさん達二班は一階を頼みます。ヒッチハイカーを目にしたら躊躇せずに撃て! ただし、同士撃ちだけは十分に気を付けろ!」
全員がチームリーダーである島警部補の指示で行動を開始した。
Aチームの隊員達は全員が幾つもの死線を共に乗り越えて来た仲間である。互いに寄せる信頼は絶大なものがあった。
年齢も警察官としての経験も島警部補よりも山村巡査部長の方が上だが、上官としての島の人柄や的確な判断力には山村は敬意を表すと共に信頼しているのだった。
「片岡、十分に注意しろ。俺が向いている方と反対側をお前に任せるからな。」
階段を登り切った島が片岡に声をかけた。
まだ若い片岡巡査は、上官である島の自分を信じると言う言葉に感激しながら強く頷いて返事をした。
「任せて下さい、島警部補。必ずヒッチハイ…」
片岡の言葉が中途半端に途切れた事を不審に感じ、振り向いた島警部補がそこに見たのは…
身長178cmで自身の体重と全ての装備を合わせると100㎏近い重量の片岡の身体が、床から1m程も浮かび上がっていた。島の目の前に2mを超える大男が立ちはだかり、片岡の被ったヘルメットと顔の隙間に左手の指を指し込み、腕一本の握力と膂力だけで頭を掴み重装備の片岡を軽々と吊るし上げていたのだった。
「ヒッチハイカー…」
茫然として立ちすくむ島の口から洩れ出た言葉は、たったこれだけだった。
口を含めた顔の下半分を万力の様な握力の手で押えられたまま、片岡は声を上げる事も出来ないでいた。片岡は左手で自分の顔を握るヒッチハイカーの左腕を掻きむしりながら、右手に握ったSMGの銃口を相手の左肩に押し付けてフルオートの状態で引き金を強く引き絞った。
タタタタタタタッ!
カンッ!カン!カンッ!カン! カラカラ…
SMGから排出された真鍮製の薬莢が宙に舞って床に散らばる。
カチッ!カチッカチッ!
MP5SFKの弾倉に装填されていた9mmパラベラム弾30発はすぐに撃ち尽くされて空になった。
だがヒッチハイカーの仁王立ちになった姿勢には、いささかの変化も無かった。
30発のFMJ(フルメタルジャケット)のパラベラム弾を至近距離から生身の肉体に食らったのだから、本来ならヒッチハイカーの左肩はズタズタの挽肉状態になっている筈なのだ。
だが、確かに皮膚の表面は裂け血は飛び散っていたが、ヒッチハイカーの強靭な筋肉の鎧を突き破って骨にまで達した弾丸は無いようだった… それが証拠にFMJのパラベラム弾の弾頭部が、食い込んだ左肩の筋肉に反発されて皮膚に開けられた傷口から次々と押し出されて来た。
カン!カン!カツン!コン!コンッ!コロコロッ!
一度は肩に撃ち込まれながら、信じられない事に射入口の傷口から逆に押し出された30発の弾丸は、全てヒッチハイカーの足元のフローリングの床に落ちたのだろう。彼の足元に合わせて60個もの、元は一つの弾丸を構成していた薬莢と弾頭部が転がっていた。
「この野郎! 片岡を放せ、化け物っ!」
目の前の光景に茫然として固まったままだった島は、我に返ってヒッチハイカーの左側に回り込むと、構えたSMGを左わき腹の肋骨下部に押し付け、弾倉内の30発を全弾撃ち込む勢いで引き金を引いた。島はヒッチハイカーの内臓破壊を狙ったのだ。
タタタタタタタッ!タタタタタッ!
メキメキメキ! グシャッ! パーンッ!
ヒッチハイカーの左わき腹に意識を集中していた島の頭上で、胸の悪くなる様な何かが破裂する音がした。そして、島の身体に赤を主体とした様々な色の入り混じったドロリとした液体が降り注いだ。
「な…?」
ビクッとして頭上を見上げた島の目に映ったのは、ヒッチハイカーの左手の恐るべき握力で握りつぶされた片岡巡査の頭部から噴き出す血や脳漿の混ざった液体だったのだ。
「うわああああーっ! 片岡あーっ!」
自分の可愛い部下が目の前で無残に殺された島の頭の中で何かが弾け飛ぶ音がした。
「うおおーっ! 殺す! 殺してやるぞ! 化け物っ!」
島は撃ち尽くして空になったSMGの弾倉を、すぐに手持ちの予備弾倉と交換すると、もう一度ヒッチハイカーに向けてフル掃射した。
タタタタタタタッ!
ヒッチハイカーは島の撃つSMGの弾丸を胸や腹で平然と受け止めながら、左手にぶら下げていた片岡巡査の死体を島に向けて勢いを付けて放り投げた。
「ぐわっ!」
恐ろしい勢いで片岡の遺体をぶつけられた島の身体が後方に吹っ飛び、二階の丸太で組まれた頑丈な壁面に叩きつけられた。片岡の遺体の下敷きとなって倒れた島の意識はそこまでで途絶えた。
********
「島警部補!大丈夫ですか?」
一階を捜索していた二班の三人が、二階で始まったSMGの斉射音を聞きつけて階段下に集まって来た。不安で仕方のない三人を代表して山村巡査部長が叫んだ。
「・・・・・・・」
三人が耳を澄ましても、最後の斉射音が止んでから二階からは何も聞こえてこなかった。
「返事が無い… 島警部補も片岡もヒッチハイカーに遭遇して…」
不安そうな顔を引きつらせた関本巡査が二階を見上げながらつぶやいた。
「やはり、SMGなんかじゃヤツは倒せないんだ…」
足立巡査が苦し気な声で弱音を吐いた。彼の脚は激しく震えていた。
「お前ら、しっかりしろ! まだ二人が死んだと決まったわけじゃない。だが、俺達が助けに行かないと二人とも本当に殉職しちまうぞ!」
山村巡査部長が怖気づき始めた二人の部下を叱咤し、自ら先行して二階へ続く階段を登り始めた。山村は数段上がった所で立ち止まり、振り向くとリビングにいる安田巡査に向かって叫んだ。
「おい、安田! お前は皆元さんを長谷川警部達の所へお連れしろ! ここにいちゃ危険だ! 急げ!」
「は、はい! ですが、山村巡査部長。皆元さんは、その…全裸なんです…」
安田の情けなさそうな声が聞こえて来た。
「バカ野郎!美女の裸目の前にしてチンポおっ立ててる場合じゃねえんだぞ! さっさと、うら若いお嬢さんを毛布にくるんで、お前のバカ力で担いで行け! ここにいたら、彼女まで殺られちまうんだぞ! これは命令だ、早く行け!」
山村が怒鳴りつけると、安田は丁重に毛布で包んだ静香の身体を左肩に担ぎ上げた。
「安田! そのお嬢さんを必ず愛しい恋人さんの所まで連れて行けよ!」
関本巡査がSIT内での気心の知れた親友でもある安田に対して叫んだ。
「安田! ここは俺達に任せろ!」
先ほどまで恐怖に震えていた足立巡査も勇気を振り絞って叫ぶ。
「皆元さん、美しいあなたをこんな格好で運んでごめんなさい。でも、自分が必ずあなたを伸田さんの所へ連れて行きますから…」
気は優しくて力持ちを地で行く身長185cmで体重90㎏の大柄な安田巡査は、学生時代にはアメリカンフットボールをやっていた経験があり、柔道三段に剣道二段の猛者でもあったため、50㎏有るか無しかの静香の身体を軽々と運んで行く。
「みんな、死なないでくれよ… 皆元さんを運んだら必ず戻るからな。」
正義感の強い安田は仲間達が赴こうとする死地から自分だけ離脱するのを決して潔しとは思わなかったが、ようやく助け出した静香をこの場から無事に逃がしたいというAチーム全員の強い意思に背中を押されて、ログハウスを後にした。
「みんな、分かってるな。安田と皆元さんを三班の隊長達の所まで逃がすんだ。それまで絶対に死ぬなよ。」
山村が前を見つめたまま階段を上りながら、後ろを振り返る事無く関本と足立に言った。
「分かってますよ、ヤマさん。」
「絶対に島警部補と安田達を殺させはしません。」
強い覚悟で二階へと階段を登る関本と足立の二人が、後ろから山村に声をかけた。
「俺はいい後輩達を持った…」
そこまで言った山村の言葉が凍り付いた。
「し、島警部補…? 片岡か?」
山村の視線の先にはログハウスの二階の丸太組の壁面の下に、SIT隊員の装備をした二人の血まみれになった身体が折り重なるようにして倒れていた。
「おい、関本に足立、よく聞け…左側に二人が倒れている。俺が生死を確認するから、お前らは援護しろ。」
自分が階段を上がり切った山村は後続の部下達に命じると、一度素早く周囲を見回してから倒れている二人に近づいた。
そして、上になっていた片岡巡査のヘルメットの中でグシャグシャに潰れた顔は、様々な殺人事件で被害者の遺体に直面して来た山村でも目を覆いたくなるほどだった。
「片岡…」
いったい、どうやったら人間の顔をこんなに潰せるというのか…?
例えは悪いが…それはまるで、熟れすぎたトマトを握り潰したような有様だった。
「片岡… 安らかに眠ってくれ。お前の敵は俺達で取ってやるからな。」
目を瞑って、そう静かにつぶやいた山村は、片岡の身体を抱えると下敷きになっている島の上から横へどかせた。
そして、島の首筋に手を当てて脈を探ってみた。
「ふう…脈がある。おい、島警部補は生きてるぞ!」
そう嬉しそうに言って後ろの二人を振り返った山村の目の前に、またもや惨劇が展開されていた!
タタタタタタタッ!
関本が狂ったように階段下に向けてSMGを乱射していた。その銃口の先には足立の身体がある。
「バカ野郎! 関本! お前、足立を撃ち殺す気か!」
立ち上がった山村は関本に駆け寄り、彼の射撃を止めようと左上腕を掴んだ。
実際、関本の撃ったSMGの銃弾の何発かは足立巡査の身体に当たっていたのだ。
しかし、その足立の履いている靴底は両足とも床から20cmほど浮かび上がっていた。
関本が撃ったSMGの発した硝煙が、破れていた明り取りの窓から吹き込む風で吹き飛ばされて視界が明瞭になって来た。
「放して下さい、巡査部長! もう、足立は死んでるんだ!」
そう言った関本は山村の腕を振り払い、撃ち尽くしたSMGの弾倉を取り換えた。
そして、すぐさま発砲を再開した。
タタタタタタタッ!
もう一度関本を止めようとした山村が目にした吊り上げられた足立巡査の肩の上には…頭部が存在しなかったのだった。すでに彼は首をヒッチハイカーに切断されていたのだ。
「うおおおっ! 足立ぃっ!」
山村も自分のSMGを構えると、せめて足立の身体を取り戻そうと関本に倣って同じ方向に向けて撃ち始めた。
タタタタタタタッ!タタタタタタタッ!
片手で軽々と持ち上げた足立の遺体を盾にしているが、彼よりも二回りは大きくて隠れようの無いヒッチハイカーが階段を一段ずつ上って来た。その見えている身体の部分に向けて、二人の警官はSMGを撃ちまくった。
********
ログハウスの中から最初のSMGの銃声がした時、ログハウスから約50m離れた地点で待機する三班の長谷川警部と鳳 成治と伸田の三人の身体に緊張が走った。
「始まったか…」
真っ先に鳳がつぶやいた。
「そうですね…」
長谷川は部下達の作戦の成功と、静香を含めた全員の無事を心から祈った。
「シズちゃん…お願いだから死なないでくれ…」
恋人をヒッチハイカーに拉致されている伸田は気が気でならなかった。長谷川の『ここで待機』の命令さえ無ければ、他人任せにしないで自分自身が一刻も早く静香のいるログハウスに飛び込んで行きたかったのだ。
SMGの斉射音は少し間をおいて一回、そしてすぐにもう一回鳴り響いた。
合計3回の斉射音の後、少し経ってから玄関の扉が開き一人の大男が現れた。そして大男は吹雪の中を三人の方に向かって歩いて来た。
伸田は右手にベレッタを握りしめ、長谷川も自分のSMGを構えて安全装置を外した。鳳は防寒コートの下に着ている背広の内側に右手を伸ばした。
身構える三人に向けて、大男が歩きながら右手を雪空に向かって伸ばすと大きく振って見せた。近づくにつれて大男のシルエットが次第に明らかになって来た。
大男はSIT隊員の装備姿だったのだ。大男に見えたのは、その隊員が左肩に何か大きな物を担いでいたためだった。
「隊長! 安田です! 撃たないで下さい! 救出した皆元さんをお連れしましたあっ!」
安田巡査の張り上げた大声を聞いて、伸田達三人は緊張を解いた。
「シズちゃん…静香は無事なんですか?」
もう我慢の出来ない伸田は、雪の中を安田に向かって駆け寄った。
「ああ、伸田君。皆元さんは、この通り無事だよ。」
安田が自分より小柄な伸田を見下ろして、まともに出来ていない下手クソなウインクを一つすると嬉しそうにニッコリと微笑んで見せた。
その時だった!
タタタタタタタッ!
ログハウスの中からSMGを斉射する音が再び響き渡った。
それに続いて、誰が発したかは不明だったが叫び声も聞こえて来た。
「うおおおっ! 足立ぃっ!」
タタタタタタタッ! タタタタタタタッ!
その斉射音と足立の名を呼ぶ叫び声を聞いた安田は背後のログハウスの方へ顔だけ振り向けて立ち止まった。
「伸田君、後は恋人の君に皆元さんを任せるよ。自分は仲間達の元へ戻る。」
毛布にくるんだ静香の身体を伸田に優しく手渡した安田は、上司である長谷川と鳳に向かって最敬礼をした。
「長谷川隊長! 安田巡査、これよりAチームに復帰します!」
そう言い残すと、彼は胸元にSMGを構えながらログハウスへと駆け戻って行った。
力持ちの安田の様に軽々と担ぐ事が出来ない静香の身体を、文字通り重く受け止めた伸田は、雪の中を走っていく安田の背中に向かって叫んだ。
「安田さん! 静香を守ってくれてありがとう! 絶対に、絶対に死なないで下さい!」
安田が走りながら、前を向いたまま握りしめた左拳を突き上げて見せた。
伸田の両目から感謝の涙が流れ落ちたが、吹き荒れる吹雪で涙は頬の上ですぐに凍り付いた。
「シズちゃん… よく無事に生きててくれたね。それもAチームのみんなのお陰なんだよ。今度は、僕がこの『式神弾』でみんなを助けなきゃ…」
吹き荒れる吹雪の中、伸田は毛布にくるまれた恋人静香の身体を愛おし気に強く抱きしめながらも、ヒッチハイカーとの戦いを決意し右手に『式神弾』が装填されたベレッタを握りしめた。
吹雪が吹き荒れる山中、クリスマスの夜明けはまだ遠かった…
【次回に続く…】
SIT(Special Investigation Team:特殊事件捜査係)隊員ではない伸田だけが合図を理解出来なかったが、隣を歩いていた安田巡査が伸田の名を呼び停止する様に手で指示したので、一人だけ先行せずに済んだ。
「長谷川だ。全員、よく聞いてくれ。作戦を伝える。これより我々を三班に分ける。一班は島警部補を班長とし、片岡巡査と安田巡査の3名で構成する。二班は山村巡査部長を班長とし、関本巡査に足立巡査を加えた3名だ。三班は私が班長で鳳指揮官と伸田氏の3名とする。
一班にはログハウスの正面入り口から突入してもらう。二班は勝手口等の別出入り口から屋内への侵入だ。三班はログハウス外にて待機し、両班への指示と有事にはバックアップに付く。それでよろしいですね、鳳指揮官?」
長谷川が自分が立てた作戦を、この場の指揮官である鳳に確認した。
「私はそれで構わん。作戦の立案及び指揮は君に任せる。もちろん私も君に従う。」
長谷川の5mほど右隣の位置に立っていた鳳が、右手の親指を立てた『サムズアップ』のサインで了承した旨を示した。
「では、続ける。一班と二班は共に携行したプラスチック爆薬『C-4』で両ドアの鍵及び接合部を同時に爆破しろ。それを確認し次第、三班の私がM84スタングレネード(閃光手榴弾)を窓越しにリビングへと投擲する、M84の爆発を合図として一班二班が同時に突入だ。
人質の皆元さんのいるリビング内では、やむを得ない場合以外での発砲は禁止する。皆元さんを安全に確保した後は各個の判断に於いてヒッチハイカーへの発砲を許可する。この場合も人質及び仲間への発砲には注意しろ。私からは以上だが、何か質問はあるか?」
長谷川が全員に命令を通達し終えた後、島警部補が発言した。
「おおむね了解です。しかし、皆元さんの所在はリビングで間違いないんですね? それに先ほどヒッチハイカーはログハウスの屋根に出ていると、鳳指揮官は仰ってましたが…」
すぐに鳳が答えた。
「その通りだ。ヒッチハイカーは、ついさっきまで屋根の上にいた。おそらく、ヤツは我々の接近を感知したんだろう。ヤツの五感なら我々の人数や距離までも感知したと見ていいだろうな。」
「山村巡査部長です。指揮官殿は嫌にヤツの事をご存じなのですね。」
これまで、あまり発言の無かった山村巡査部長が鳳に対し皮肉めいた口調で言った。どうやら彼は、押しかけ的に現れて強引に指揮官の座に納まった鳳に対して反感を持っているらしかった。
「この際、はっきり言おう。その通りだ。私は自分の職務に於いて、これまでにも多くのヤツと同種の怪物を扱って来た。そういう相手と実際に戦った経験も数知れないほどある。」
ここで一旦話を中断した鳳が全員の顔を見回すと、皆が一様に驚きの反応である事が分かる。鳳の着用しているヘッドセットを通して隊員達や伸田のどよめきの様な声が聞こえてくる。鳳は各員の反応を確認してから再び話し始めた。
「昨夜から続く今回の一件において、諸君達の同僚であるSITの他チームの警官達が全滅した状況や、君達自身がヤツとの戦闘を体験した結果でも分かるだろう。ヒッチハイカーは君達の装備しているSMG(サブマシンガン)や自動拳銃程度では倒せない。いや、通常の火器でヤツを傷付けてもすぐに再生してしまうのは、すでに君達も目にした通りだ。
これは国家の重要機密に関する事なので詳しくは言えないが、私は…ヤツを倒す事の出来る9mmパラベラム弾を所持している。その弾丸を装填していた私のベレッタはヤツに破壊されてしまったが、マガジンと装填されていた弾丸は無事だ。」
そう言った鳳がジャケットの内ポケットに入っていたベレッタの弾倉(マガジン)を取り出し、全員に見えるように掲げて見せた。
またもや全員の間にざわめきが起こったが、鳳が上に掲げて見せたのは何の変哲もないベレッタ用の弾倉だった。
「いったい、その9mm弾にどんな威力があるというんですか?」
興味深そうな顔で伸田が鳳に質問した。
「それは…機密事項なので言う事は出来ない。だが私自身、以前ヤツと同種の怪物との戦いで同じ弾丸を使用したが、効き目は十分だったとだけ言っておく。効果は実証済みだが、言うまでもなく目標に当たらなければ何の意味も無い。ただし、ヤツの身体に弾丸が掠っただけでも、ある程度の効果は期待出来ると思ってもらっていい。」
皆の視線が鳳の右手に握られたベレッタの弾倉に集中した。
「だが、現在私は、この弾倉に入った15発の弾丸しか所持していない。これを全員に配布するとなると、一人当たり一発もしくは二発のみだ。この吹き荒れる吹雪の中で高速で動き回るヒッチハイカーに当てるとなると、かなり困難なのは射撃に長けた諸君には十分理解出来るだろう。さあ、どうすべきだろうか?」
ここまで言った鳳は皆の反応を待つべく黙った。
「山村です。あなたの話が本当なら、その特殊弾を無駄にする事は出来ない。となるとやはり、最も射撃を得意とする者が所持してヤツを撃つべきではありませんか?」
そう言った山村が隣の島警部補を見た。
島は県警ナンバーワンの拳銃射撃の腕前を誇り、警察庁主催の全国大会に県から選抜されて毎年出場し、上位に入賞し続けるほどの実力だった。
「私もヤマさんに賛成です。だが、その弾丸は私ではなく伸田さんが所持すべきだと思いますね。」
島の意見に全員が伸田の方を向いた。すでに伸田の射撃の腕前を目の当たりにしたAチームの隊員達からは、反対の意見は出なかった。安田巡査と関本巡査などは大きく頷いて賛同を示していた。
鳳と長谷川は伸田の発砲について島からの無線報告により聞かされてはいたが、隊員達の反応を見て驚いた。射撃に関するエキスパートの集まりと言っても過言では無いSITの隊員達から、これほど絶大な信頼を寄せられる伸田の射撃の腕前とは、いったいどれほどの物だと言うのだろうか…? 実際に自分の目で見ていない鳳と長谷川の二人は首を傾げるばかりだった。
「どうやら、唯一の民間人である伸田さんはAチームの猛者達に絶大な支持を得ているようだ。長谷川警部、彼に任せても構わないかね?」
苦笑いを浮かべた鳳が右隣の長谷川の方を振り返って尋ねた。すると、長谷川は鳳に向かって大きく頷いて見せた。
「私は…Aチームの隊員達が支持する伸田さんを信じようと思います。」
長谷川の言葉に鳳は笑った。
「ふふふ… 犯罪者なら泣く子も黙るSITの面々は、実は大甘の連中なんだな。自分達の命運をたった一人の民間人の青年に賭けるとは… 分かったよ、私もその賭けに乗ってみよう。
そらっ、伸田君! ヤツを任せたぞ!」
そう言うと鳳は、右手に握っていたベレッタの弾倉を自分の左隣に立つ伸田に向けて放った。
パシッ!
吹雪の中を自分に向かって正確に飛んできた弾倉を、伸田は右手でしっかりと受け止めた。
「これが、ヒッチハイカーを倒せる弾丸…」
伸田は鳳から受け取ったマガジンをひっくり返したり月明かりに透かして見たりしたが、見た目はどうって事の無い普通のベレッタの弾倉だった。伸田は弾丸が15発入ったの複列弾倉(ダブルカラム・マガジン)の開口部から指を使って弾丸を一発抜き出してみた。
見た目は通常の9mmのパラベラム弾と同じだった。だが、弾頭部は警察で通常用いられるギルディングメタルと呼ばれる銅合金で被覆されたFMJ(フルメタルジャケット)では無く、鉛の弾頭だった。警察が使用する銃器では殺傷能力の強い鉛の弾頭では無く、貫通能力の高いFMJ弾が用いられる事が多いのだ。それなのに、鳳の使用する弾丸は鉛が剥き出しのソフトポイント弾なのである。
「弾頭に何か模様が刻んである…」
伸田は先端が平らになった鉛の弾頭部分を目を凝らして見た。
「これは… ペンタグラム? 五芒星だ。」
伸田が弾頭に刻まれた模様を認識し、顔を上げた時だった。
すぐそばに鳳が立っていた。
「うわっ! 鳳さん! い、いつの間に…?」
雪の中を音も立てずに静かに自分が忍び寄っていた事に驚いている伸田に向かって鳳が言った。
「その通りだよ。君が言った通り、それは五芒星だ。しかも、安倍晴明の再来と言われる現代日本における稀代の陰陽師が、念を込めて手ずから一発ずつ五芒星を刻み込んだ弾丸だ。
つまり、その弾丸自体が陰陽術の込められた『思業式神』その物なのだ。名付けて『式神弾』だ。
その事を肝に銘じて、君には無駄弾は使わないでもらいたい。」
伸田に対し自分の言いたい事だけ言い終えた鳳は。くるりと背を向け元の自分の立ち位置へと戻って行った。
「わ、分かりました… 凄いプレッシャーだけど頑張ります。くそ、聞いちゃいない…
それにしても…その五芒星だとか陰陽師だとかが、あのヒッチハイカーに本当に通用するのか…? ヤツはドラッグでイカレた薬物中毒のサイコパスなんだろ?」
ブツブツと伸田が独り言をつぶやく。だが、彼は恋人の静香を救うためならどんな手段でも使うつもりだった。たとえ怪しげな弾丸であろうと藁にでも縋りたい気持ちなのだ。
「よし。では、先ほどの作戦で行くぞ。三班に分かれて進め。」
長谷川警部の言葉に全員が従い、それぞれが支持された班を組んでログハウスへ向けて歩き始めた。
「待っててくれ、シズちゃん。必ず僕が君を助ける。」
そう伸田はつぶやくと、長谷川と鳳と共にログハウスへと向かう。彼の右手には、鳳の言った『式神弾』が収まった弾倉の装填されたベレッタが、しっかりと握られていた。
********
明かりの消されたログハウスの居間では、屋根から戻ったヒッチハイカーが、まだ意識が戻らないまま横たわる静香の傍に静かに立っていた。
「三つに分かれた… もうすぐ来る。」
目を瞑ったまま、静かにそうつぶやいたヒッチハイカーの顔には、残忍だが嬉しそうな笑みが浮かんでいた。奇妙な事に、この男は今から自分の身に起ころうとしている状況が楽しみで仕方ないと言う態度だった。
********
『一班、島です。玄関口に到着。扉の鍵にC4をセットしました。』
一般の島が無線で皆に報せてきた。
『二班、山村です。勝手口の鍵にC4セット完了です。』
同じく二班から山村巡査部長の報告が入った。
「こちら三班、長谷川だ。これより作戦を開始する。C4の爆破を確認後、私が窓越しにM84を室内に投げ込む。一班と二班は音響閃光弾の炸裂と同時に総員で屋内に突入しろ。人質の救出が最優先だ。よし!爆破!」
ボンッ!
ボンッ!
仕掛けられたプラスティック爆弾C4がほぼ同時に爆発し、玄関と勝手口のそれぞれの扉の鍵の周辺部が吹き飛んだ。
「一班島、爆破成功!」
「二班山村、同じく完了!」
島と山村から、それぞれ扉の鍵を爆破した旨の無線が入る。
「了解した! こちら三班長谷川、M84を投げ入れるぞ。今から5秒後だ! 5、4、3…」
長谷川が3秒目で目の前にあるログハウスのリビングルームの掃き出し窓に音響閃光手榴弾の『M84スタングレネード』を投げ入れた。
窓ガラスが砕け散ると共に、引いてあったカーテンを押しのけて室内に飛び込んだM84が炸裂し、170-180デシベルもの爆発音を上げると同時に100万カンデラ以上の閃光を放ち、真っ暗な室内を真昼以上の輝きで照らし出した。カーテン越しでもまばゆい光だった。
中にいる人間は、防護無しだとM84の爆発で方向感覚の喪失や見当識の失調を起こす筈だった。たとえヒッチハイカーが並外れた体力と不死身に近い再生能力を持っていたとしても、生物である以上は影響を受けない筈が無かった。
「一班、突入っ!」
「二班、行くぞ!」
島と山村の力強い掛け声と共に、一般と二班の全員が同時にSMG(サブマシンガン)を構えたまま中へと突入した。もちろん全員がヘルメット付属の対閃光用にもなるフェイスガードで顔を覆っていた。
どこに敵が潜んでいるか分からないため、一班二班共に各員が警戒し、互いをカバーし合いながら建物内を進んだ。ログハウス内はスタングレネードが爆発した後の独特な匂いが漂っていた。最も匂いのきつい部屋がリビングの筈である。
すぐにたどり着いた6名のSIT隊員達は、ヒッチハイカーの逃亡を防ぐためにリビングへの二つの出入り口を片岡巡査と関本巡査にそれぞれ守らせ、残り4名が慎重に室内に入っていった。
部屋の中は長谷川警部がM84を投げ入れたためにガラスの割れた掃き出し窓から、雪混じりの風が吹き込んでいる。
M84のアルミケースの残骸がブスブスとまだくすぶって燃えていた。
「島警部補! ヒッチハイカーの姿は見当たりません! しかし、皆元さんを発見しました!」
安田巡査が指さした床に、毛布を数枚掛けられて横たわる皆元静香の姿があった。
「よし! 安田、皆元さんの生存を確認しろ! 他の者は安田を援護! 各員、警戒を怠るな!」
島が全員に命令を下す。
静香の首筋に手を当てた安田巡査が嬉しそうな叫び声を上げた。
「生存を確認しました! 皆元さんは生きています! 気を失っているだけです!」
「島警部補! リビングと続くダイニングにはヤツの姿はありません!」
山村巡査部長が大声で叫んだ。ここまでの騒ぎになれば、もう囁き声で会話する必要など無かった。
「安田! お前はそのまま、皆元さんの警護に当たれ! 他の者はリビング以外を調べるんだ! 俺は2階へ行く!片岡、お前も俺と一緒に来い! ヤマさん達二班は一階を頼みます。ヒッチハイカーを目にしたら躊躇せずに撃て! ただし、同士撃ちだけは十分に気を付けろ!」
全員がチームリーダーである島警部補の指示で行動を開始した。
Aチームの隊員達は全員が幾つもの死線を共に乗り越えて来た仲間である。互いに寄せる信頼は絶大なものがあった。
年齢も警察官としての経験も島警部補よりも山村巡査部長の方が上だが、上官としての島の人柄や的確な判断力には山村は敬意を表すと共に信頼しているのだった。
「片岡、十分に注意しろ。俺が向いている方と反対側をお前に任せるからな。」
階段を登り切った島が片岡に声をかけた。
まだ若い片岡巡査は、上官である島の自分を信じると言う言葉に感激しながら強く頷いて返事をした。
「任せて下さい、島警部補。必ずヒッチハイ…」
片岡の言葉が中途半端に途切れた事を不審に感じ、振り向いた島警部補がそこに見たのは…
身長178cmで自身の体重と全ての装備を合わせると100㎏近い重量の片岡の身体が、床から1m程も浮かび上がっていた。島の目の前に2mを超える大男が立ちはだかり、片岡の被ったヘルメットと顔の隙間に左手の指を指し込み、腕一本の握力と膂力だけで頭を掴み重装備の片岡を軽々と吊るし上げていたのだった。
「ヒッチハイカー…」
茫然として立ちすくむ島の口から洩れ出た言葉は、たったこれだけだった。
口を含めた顔の下半分を万力の様な握力の手で押えられたまま、片岡は声を上げる事も出来ないでいた。片岡は左手で自分の顔を握るヒッチハイカーの左腕を掻きむしりながら、右手に握ったSMGの銃口を相手の左肩に押し付けてフルオートの状態で引き金を強く引き絞った。
タタタタタタタッ!
カンッ!カン!カンッ!カン! カラカラ…
SMGから排出された真鍮製の薬莢が宙に舞って床に散らばる。
カチッ!カチッカチッ!
MP5SFKの弾倉に装填されていた9mmパラベラム弾30発はすぐに撃ち尽くされて空になった。
だがヒッチハイカーの仁王立ちになった姿勢には、いささかの変化も無かった。
30発のFMJ(フルメタルジャケット)のパラベラム弾を至近距離から生身の肉体に食らったのだから、本来ならヒッチハイカーの左肩はズタズタの挽肉状態になっている筈なのだ。
だが、確かに皮膚の表面は裂け血は飛び散っていたが、ヒッチハイカーの強靭な筋肉の鎧を突き破って骨にまで達した弾丸は無いようだった… それが証拠にFMJのパラベラム弾の弾頭部が、食い込んだ左肩の筋肉に反発されて皮膚に開けられた傷口から次々と押し出されて来た。
カン!カン!カツン!コン!コンッ!コロコロッ!
一度は肩に撃ち込まれながら、信じられない事に射入口の傷口から逆に押し出された30発の弾丸は、全てヒッチハイカーの足元のフローリングの床に落ちたのだろう。彼の足元に合わせて60個もの、元は一つの弾丸を構成していた薬莢と弾頭部が転がっていた。
「この野郎! 片岡を放せ、化け物っ!」
目の前の光景に茫然として固まったままだった島は、我に返ってヒッチハイカーの左側に回り込むと、構えたSMGを左わき腹の肋骨下部に押し付け、弾倉内の30発を全弾撃ち込む勢いで引き金を引いた。島はヒッチハイカーの内臓破壊を狙ったのだ。
タタタタタタタッ!タタタタタッ!
メキメキメキ! グシャッ! パーンッ!
ヒッチハイカーの左わき腹に意識を集中していた島の頭上で、胸の悪くなる様な何かが破裂する音がした。そして、島の身体に赤を主体とした様々な色の入り混じったドロリとした液体が降り注いだ。
「な…?」
ビクッとして頭上を見上げた島の目に映ったのは、ヒッチハイカーの左手の恐るべき握力で握りつぶされた片岡巡査の頭部から噴き出す血や脳漿の混ざった液体だったのだ。
「うわああああーっ! 片岡あーっ!」
自分の可愛い部下が目の前で無残に殺された島の頭の中で何かが弾け飛ぶ音がした。
「うおおーっ! 殺す! 殺してやるぞ! 化け物っ!」
島は撃ち尽くして空になったSMGの弾倉を、すぐに手持ちの予備弾倉と交換すると、もう一度ヒッチハイカーに向けてフル掃射した。
タタタタタタタッ!
ヒッチハイカーは島の撃つSMGの弾丸を胸や腹で平然と受け止めながら、左手にぶら下げていた片岡巡査の死体を島に向けて勢いを付けて放り投げた。
「ぐわっ!」
恐ろしい勢いで片岡の遺体をぶつけられた島の身体が後方に吹っ飛び、二階の丸太で組まれた頑丈な壁面に叩きつけられた。片岡の遺体の下敷きとなって倒れた島の意識はそこまでで途絶えた。
********
「島警部補!大丈夫ですか?」
一階を捜索していた二班の三人が、二階で始まったSMGの斉射音を聞きつけて階段下に集まって来た。不安で仕方のない三人を代表して山村巡査部長が叫んだ。
「・・・・・・・」
三人が耳を澄ましても、最後の斉射音が止んでから二階からは何も聞こえてこなかった。
「返事が無い… 島警部補も片岡もヒッチハイカーに遭遇して…」
不安そうな顔を引きつらせた関本巡査が二階を見上げながらつぶやいた。
「やはり、SMGなんかじゃヤツは倒せないんだ…」
足立巡査が苦し気な声で弱音を吐いた。彼の脚は激しく震えていた。
「お前ら、しっかりしろ! まだ二人が死んだと決まったわけじゃない。だが、俺達が助けに行かないと二人とも本当に殉職しちまうぞ!」
山村巡査部長が怖気づき始めた二人の部下を叱咤し、自ら先行して二階へ続く階段を登り始めた。山村は数段上がった所で立ち止まり、振り向くとリビングにいる安田巡査に向かって叫んだ。
「おい、安田! お前は皆元さんを長谷川警部達の所へお連れしろ! ここにいちゃ危険だ! 急げ!」
「は、はい! ですが、山村巡査部長。皆元さんは、その…全裸なんです…」
安田の情けなさそうな声が聞こえて来た。
「バカ野郎!美女の裸目の前にしてチンポおっ立ててる場合じゃねえんだぞ! さっさと、うら若いお嬢さんを毛布にくるんで、お前のバカ力で担いで行け! ここにいたら、彼女まで殺られちまうんだぞ! これは命令だ、早く行け!」
山村が怒鳴りつけると、安田は丁重に毛布で包んだ静香の身体を左肩に担ぎ上げた。
「安田! そのお嬢さんを必ず愛しい恋人さんの所まで連れて行けよ!」
関本巡査がSIT内での気心の知れた親友でもある安田に対して叫んだ。
「安田! ここは俺達に任せろ!」
先ほどまで恐怖に震えていた足立巡査も勇気を振り絞って叫ぶ。
「皆元さん、美しいあなたをこんな格好で運んでごめんなさい。でも、自分が必ずあなたを伸田さんの所へ連れて行きますから…」
気は優しくて力持ちを地で行く身長185cmで体重90㎏の大柄な安田巡査は、学生時代にはアメリカンフットボールをやっていた経験があり、柔道三段に剣道二段の猛者でもあったため、50㎏有るか無しかの静香の身体を軽々と運んで行く。
「みんな、死なないでくれよ… 皆元さんを運んだら必ず戻るからな。」
正義感の強い安田は仲間達が赴こうとする死地から自分だけ離脱するのを決して潔しとは思わなかったが、ようやく助け出した静香をこの場から無事に逃がしたいというAチーム全員の強い意思に背中を押されて、ログハウスを後にした。
「みんな、分かってるな。安田と皆元さんを三班の隊長達の所まで逃がすんだ。それまで絶対に死ぬなよ。」
山村が前を見つめたまま階段を上りながら、後ろを振り返る事無く関本と足立に言った。
「分かってますよ、ヤマさん。」
「絶対に島警部補と安田達を殺させはしません。」
強い覚悟で二階へと階段を登る関本と足立の二人が、後ろから山村に声をかけた。
「俺はいい後輩達を持った…」
そこまで言った山村の言葉が凍り付いた。
「し、島警部補…? 片岡か?」
山村の視線の先にはログハウスの二階の丸太組の壁面の下に、SIT隊員の装備をした二人の血まみれになった身体が折り重なるようにして倒れていた。
「おい、関本に足立、よく聞け…左側に二人が倒れている。俺が生死を確認するから、お前らは援護しろ。」
自分が階段を上がり切った山村は後続の部下達に命じると、一度素早く周囲を見回してから倒れている二人に近づいた。
そして、上になっていた片岡巡査のヘルメットの中でグシャグシャに潰れた顔は、様々な殺人事件で被害者の遺体に直面して来た山村でも目を覆いたくなるほどだった。
「片岡…」
いったい、どうやったら人間の顔をこんなに潰せるというのか…?
例えは悪いが…それはまるで、熟れすぎたトマトを握り潰したような有様だった。
「片岡… 安らかに眠ってくれ。お前の敵は俺達で取ってやるからな。」
目を瞑って、そう静かにつぶやいた山村は、片岡の身体を抱えると下敷きになっている島の上から横へどかせた。
そして、島の首筋に手を当てて脈を探ってみた。
「ふう…脈がある。おい、島警部補は生きてるぞ!」
そう嬉しそうに言って後ろの二人を振り返った山村の目の前に、またもや惨劇が展開されていた!
タタタタタタタッ!
関本が狂ったように階段下に向けてSMGを乱射していた。その銃口の先には足立の身体がある。
「バカ野郎! 関本! お前、足立を撃ち殺す気か!」
立ち上がった山村は関本に駆け寄り、彼の射撃を止めようと左上腕を掴んだ。
実際、関本の撃ったSMGの銃弾の何発かは足立巡査の身体に当たっていたのだ。
しかし、その足立の履いている靴底は両足とも床から20cmほど浮かび上がっていた。
関本が撃ったSMGの発した硝煙が、破れていた明り取りの窓から吹き込む風で吹き飛ばされて視界が明瞭になって来た。
「放して下さい、巡査部長! もう、足立は死んでるんだ!」
そう言った関本は山村の腕を振り払い、撃ち尽くしたSMGの弾倉を取り換えた。
そして、すぐさま発砲を再開した。
タタタタタタタッ!
もう一度関本を止めようとした山村が目にした吊り上げられた足立巡査の肩の上には…頭部が存在しなかったのだった。すでに彼は首をヒッチハイカーに切断されていたのだ。
「うおおおっ! 足立ぃっ!」
山村も自分のSMGを構えると、せめて足立の身体を取り戻そうと関本に倣って同じ方向に向けて撃ち始めた。
タタタタタタタッ!タタタタタタタッ!
片手で軽々と持ち上げた足立の遺体を盾にしているが、彼よりも二回りは大きくて隠れようの無いヒッチハイカーが階段を一段ずつ上って来た。その見えている身体の部分に向けて、二人の警官はSMGを撃ちまくった。
********
ログハウスの中から最初のSMGの銃声がした時、ログハウスから約50m離れた地点で待機する三班の長谷川警部と鳳 成治と伸田の三人の身体に緊張が走った。
「始まったか…」
真っ先に鳳がつぶやいた。
「そうですね…」
長谷川は部下達の作戦の成功と、静香を含めた全員の無事を心から祈った。
「シズちゃん…お願いだから死なないでくれ…」
恋人をヒッチハイカーに拉致されている伸田は気が気でならなかった。長谷川の『ここで待機』の命令さえ無ければ、他人任せにしないで自分自身が一刻も早く静香のいるログハウスに飛び込んで行きたかったのだ。
SMGの斉射音は少し間をおいて一回、そしてすぐにもう一回鳴り響いた。
合計3回の斉射音の後、少し経ってから玄関の扉が開き一人の大男が現れた。そして大男は吹雪の中を三人の方に向かって歩いて来た。
伸田は右手にベレッタを握りしめ、長谷川も自分のSMGを構えて安全装置を外した。鳳は防寒コートの下に着ている背広の内側に右手を伸ばした。
身構える三人に向けて、大男が歩きながら右手を雪空に向かって伸ばすと大きく振って見せた。近づくにつれて大男のシルエットが次第に明らかになって来た。
大男はSIT隊員の装備姿だったのだ。大男に見えたのは、その隊員が左肩に何か大きな物を担いでいたためだった。
「隊長! 安田です! 撃たないで下さい! 救出した皆元さんをお連れしましたあっ!」
安田巡査の張り上げた大声を聞いて、伸田達三人は緊張を解いた。
「シズちゃん…静香は無事なんですか?」
もう我慢の出来ない伸田は、雪の中を安田に向かって駆け寄った。
「ああ、伸田君。皆元さんは、この通り無事だよ。」
安田が自分より小柄な伸田を見下ろして、まともに出来ていない下手クソなウインクを一つすると嬉しそうにニッコリと微笑んで見せた。
その時だった!
タタタタタタタッ!
ログハウスの中からSMGを斉射する音が再び響き渡った。
それに続いて、誰が発したかは不明だったが叫び声も聞こえて来た。
「うおおおっ! 足立ぃっ!」
タタタタタタタッ! タタタタタタタッ!
その斉射音と足立の名を呼ぶ叫び声を聞いた安田は背後のログハウスの方へ顔だけ振り向けて立ち止まった。
「伸田君、後は恋人の君に皆元さんを任せるよ。自分は仲間達の元へ戻る。」
毛布にくるんだ静香の身体を伸田に優しく手渡した安田は、上司である長谷川と鳳に向かって最敬礼をした。
「長谷川隊長! 安田巡査、これよりAチームに復帰します!」
そう言い残すと、彼は胸元にSMGを構えながらログハウスへと駆け戻って行った。
力持ちの安田の様に軽々と担ぐ事が出来ない静香の身体を、文字通り重く受け止めた伸田は、雪の中を走っていく安田の背中に向かって叫んだ。
「安田さん! 静香を守ってくれてありがとう! 絶対に、絶対に死なないで下さい!」
安田が走りながら、前を向いたまま握りしめた左拳を突き上げて見せた。
伸田の両目から感謝の涙が流れ落ちたが、吹き荒れる吹雪で涙は頬の上ですぐに凍り付いた。
「シズちゃん… よく無事に生きててくれたね。それもAチームのみんなのお陰なんだよ。今度は、僕がこの『式神弾』でみんなを助けなきゃ…」
吹き荒れる吹雪の中、伸田は毛布にくるまれた恋人静香の身体を愛おし気に強く抱きしめながらも、ヒッチハイカーとの戦いを決意し右手に『式神弾』が装填されたベレッタを握りしめた。
吹雪が吹き荒れる山中、クリスマスの夜明けはまだ遠かった…
【次回に続く…】
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち
ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。
クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。
それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。
そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決!
その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。
中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語
jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ
★作品はマリーの語り、一人称で進行します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる