昨日、君が微笑んでくれたから

樹木緑

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出会い

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川辺に座りキラキラと光る水面を眺めていた。

逆光になった沈みゆく太陽の光が反射している。

オレンジ色に光るそれは僕を黄昏時へと導いて行った。

この時間帯は別名、逢魔時とも言う。

この風景を見ていると、
とても魔物や妖怪が出てくると言った雰囲気では無い。

でもいっそ、僕の全てを飲み混んで、
何もかもを無にしてくれる存在があったら……

そんな僕の思いを乗せて、
川はゆっくりと流れて行った。

小さい頃は近くにあった笹で作った船を浮かべて流した。

小学生になった頃は友達と泳ぎながら魚を捕まえた。

中学生になったら初恋のあの子と手を繋いでこの河川敷を歩いた。

そして高校生の今、昨日この河川敷で僕は振られた。

僕の全てを捧げた君は、まるで要らなかった物のように僕の心を捨てた。

あの3年間は何だったのだろう……

好きだと囁いた言葉は嘘だったの?
僕に見せてくれた笑顔は作り物だったの?

「ごめん、
本当はあなたと、ずっと付き合ってきた事は凄く辛かった。

でももうこれ以上は耐えられない!」

少しも予期しなかったセリフだった。

「そんな……

どうして今になって?

君から好きだって告白してきたよね?

僕、何度も断ったよね?」

「ホントにごめん……」

「どうして?
僕、何か君にイヤな事でもした?
何かイヤな事でも言った?
それとも他に好きな人でも出来たの?」

僕がそう尋ねると、
彼女は慌てて

「違っ……」

と言いかけた。

「じゃあ何?
何が理由なの?」

彼女は俯くばかりでなにも言ってくれなかった。

行き交う人達は、さも僕が彼女をいじめているような目で見ていく。

「もう良いよ。じゃあね」

そう言い捨てて、僕は彼女の元を去った。

そして今朝、他の男と仲良さそうに
手を繋いで歩いているところを見た。

「やっぱりじゃないか……」

僕は呟いた。

「よう!」

肩越しに巽が話しかけて来た。

「お前、蘭と別れたんだろ?
噂が飛び交ってるぞ」

巽は小さい時からこの川で一緒に泳ぎ、
素手で魚を取った僕の唯一の今でも交流のある幼馴染みだ。

「そう言った噂は早いんだな」

そう言って僕は小さく笑った。

「別れなんてそんなもんさ。
でも女の変わり身の速さは凄いよな。

見ろよあいつら。

絶対昨日今日の仲じゃ無いぞ?」

「もう良いよ。
彼女の事を見抜けなかった僕が悪いんだから……」

「お前もお人好しだな。

だが俺の感は絶対当たるんだ。

アイツら絶対直ぐに別れるぞ。
そして蘭な、お前に絶対復縁を迫るから」

僕は、

“何を言ってるんだよ”

とでも言う様に巽をじっと見つめた。

「まあ、女心と秋の空って言うじゃないか。

それに、犯罪の影に女有りっても言うしな。

ま、魂抜かれないように気をつけろよな」

今朝下駄箱で巽に会った時、
彼は笑いながらそう言って去って行った。

川の水面に目を戻すと、
水面下で戯れる魚でさえ 僕を嘲笑っている様に見える。

クルっ、クルっと回っては、
キラっ、キラっと光って、
水面に顔を出しては口をパクパクとしている。

その一連の動きが

「クルクルパ~」

と僕に言っている様で、
落胆して大きく息を吐いた瞬間、

「キャ~ そこの貴方、
どいて、どいてぇ~」

と叫び声がしたかと思うと、
勢いよく僕に 打つかった彼女は、
僕が咄嗟に差し出した手も虚しく、
そのまま僕の背中に躓いて川の中に見事に転がり落ちてしまった。

「君、大丈夫?!」

彼女は水面に浮かぶ数枚の紙を拾うと、
クシャッと握りしめて、

「実はね、今日のテストの成績が悪くってどうしようって思ってたの!

でもほら、水に濡れてグチャグチャ!

証拠隠滅ね!」

僕に向けられたテストを握りしめた手が沈み行く太陽にの光に照らされて、
彼女の顔が誇らしげに僕を見た。

その時彼女が僕に向かって微笑んだ。

水に濡れてビチョビチョ、ヨレヨレの彼女だったけど、
彼女の笑顔は天使の様な笑顔だった。

太陽の光に照らし出されたその笑顔は、
これまで川辺で悩んでいた僕の心のモヤを吹き飛ばしてくれた。

「役に立てなくてごめん。
テストの結果はアレだけど……
君に怪我が無くてよかったよ!

少しここで考え事してたんだけど、
君の笑顔に救われたよ!

頭の上に葉っぱが乗ってるけど、
僕もう行くね!

助けられなくて本当にごめんね!」

そう言って僕は走りだした。

「ねえ!
あなた、名前は何て言うの?」

叫ぶ彼女に、

「葉山慎吾! 君は?」

「立木文香宜しくね!」

そう叫んで彼女は手を振った。

帰り道の足取りは軽かった。
今朝家を出たときはこんな気持ちになるなんて思いもしなかった。

彼女の笑顔が僕を救ってくれた。

それから1か月ほどたって、巽の感は的中した。

元カノだった蘭はあの彼と別れ、
僕に復縁を持ち掛けてきた。

「慎吾……
私が悪かったの。

あいつの口車にうまく乗せられて自分が見えなくなっていたの。
本当は慎吾が好き。

チャンスがあったらもう一度私とやり直して?」

「何? 他にも女がいたんだって?

で? 僕のことは都合がいいスペア?」

「ううん、そんな事ない!
やっぱり私には慎吾だけなの!

絶対、絶対もう自分を見失うことなんてしないから!
だからお願い!

もう一度私と……」

蘭がそこまで言ったとき、

「慎吾~ 待った?」

ハアハアと息を切らしながら真っ赤な顔をした文香が駆けてきた。

「いや、全然。
じゃあ行こうか?」

そういうと、僕は文香の手を取った。

「慎吾!
ねえ! 誰よ、その女?」

僕は蘭のほうを振り向きニコッと微笑むと、

「僕が世界で一番、愛する女性!
そして僕の全てをささげる人」

そう言って、唖然とする蘭を残し、
僕たちは歩き出した。





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