消えない思い

樹木緑

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第16話 当日

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ピンポーン

インターホンの音がする。
僕の家は最上階の48階にあり、
48階は3件のみ部屋がある。

というのは、上に行くにつれて、
段々と建物が細くなっているからだ。

その分、バルコニーが少し広めで、
他の戸建てよりも、ゆとり間取りとなっていて、部屋数も多い。

このマンションは、海外から赴任してくる人たち用に
洋式に建てられたものらしいので、中の間取りも、
外国のマンションの様になっている。

そして下1-5階部分は商業用の部屋が入っている。
言わば、5階建てのモールのような感じだ。

僕の住んでいるマンションでは、ホテルのように受付がある。
この受付は6階にあり、エレベーターを降りたところに受付がある。
全ての来客はこの受付でチェックインする必要がある。
その都度、住人には連絡が入る。
受付の人は住人全ての顔を覚えている。
またエレベーターにはガードマンがいて、彼らも住人の顔を知っている。

エレベーターは目的の階によって使い分けられる。
住民用のエレベーターは5つあって、
一つは1階から6階まで一気に上がって行く。
もう一つは6階から15階まで各階で止まる。
もう一つは 15階から25階までを各階で止まる。
だから6階から15階までは一気に上がって行く。
僕の家に来るためには40階以上は格階で止まれるエレベーターを使って上がる。
だから1階から40階までは、一気に駆け上って行く。

また、来客は受け付けでチェックインする時に
確認が証明されると、エレベーター用のカードをもらう。
それをボタンにかざすと、ボタンを押すロックが解除される。

またガードマンの人は、来客がちゃんと受け付けで
このカードを受け取っているか、確認をする。
潜り込みを無くす為だ。
従って、カードを持っていない人はエレベーターから先に進むことは出来ない。

インタホーンがなった後、受話器をとり、画面に映し出される人を確認する。
矢野先輩がニコニコとして、カメラに向かって手を振っている。
僕は「は~い、今開けま~す。」と言って、
そそくさと玄関に向かって歩いて行く。
その後を、何故かソワソワとお父さんが付いてくる。

ドアをあけて、
「先輩、いらっしゃい。どうぞ上がって下さい」
とスリッパを揃えて床に置いた。

先輩は「お邪魔しま~す」と言って、
靴を脱いでスリッパに履き替えた。

お父さんが後ろでモゴモゴとしている。

先輩が「お父さん、背が高いですね~ 
どれくらい身長あるんですか?」と尋ねている。
「あ~そうだね~ 要君、どれだけだったっけ?」
と僕に振ってくる。

「えー僕知らないよ。
180何とかって言ってなかったけ?」
と、お父さんもちょっと緊張しているようだ。

「あら~矢野君、ようこそ」
とお母さんがキッチンからやって来る。
「これ、つまらないものですが」
と先輩が手土産をお母さんに渡した。

「あらーわざわざ良かったのに。
ありがとう。
フラン・ロコのケーキね。
凄く良い香り。
ここのケーキ大好きなの。」

「あ~良かった。
僕、甘い物には目がなくて……
ここのケーキ大好きだから、ここにして良かったです。」
と先輩は嬉しそうだ。

「それにしても、凄いところに住んでますね。」
「景色もいいんだよ~」
とお父さんが先輩をベランダまで案内してくれる。

「うわ~ 丸見えですね。
あ、学校があんなに小ちゃく、公園も……
すごい良い眺めですね。」と先輩は感動している。

するとお父さんが、
「ほら、この絵も見て~」
と家中に飾った僕の絵を自慢気に披露してまわる。
僕は顔から火が出るかと思うくらい恥ずかしかった。

「じゃ、お昼の準備するからリビングでくつろいでいて。
何か飲み物は?」とお母さんが尋ねると、
「あ、今は大丈夫です。」と先輩は答えた。

「じゃ、何か必要な物があったら言ってね。」
と残して、お母さんはキッチンへと行ってしまった。

それに続いてお父さんも、
「あ、俺も手伝うよ」
とキッチンへと引っ込んでしまった。

僕は先輩と二人リビングに残され、どうしようと思っていたら、
「ご両親仲が良いね」と先輩が声を掛けた。

「そうですね、暇さえあればイチャイチャとしてますね」
と言って、クスっと笑った。

先輩が「要君の部屋見て良い?」
と聞いて来たので、僕の部屋に案内した。

「へー君の部屋からは外がこんな風に見えるんだね」
と窓から外を見回している。

「先輩の家はここから近いんですか?」と尋ねると、
「うん、ちょっと待ってね。
この方角からだと……」
と言って地理を瞑想している。

「そうだね、建物は確定できないけど、
あっちの方角だよ」
と指を差したのは公園の南の方角。

「じゃ、先輩の家も公園の近くなんですね。」
「そうだね、ここまでも歩いて来れるからね。
家から学校へ行く距離と同じくらいかな?」
と割と近いらしい。

「先輩は休みの日とか、どんなことをやってるんですか?」
と尋ねると、
「そうだね~、クラブ活動をしていない時は大体、
音楽を聴きながら絵を描いたり、リラックスしたりが多いかな? 
要君は?」

「僕も同じようなものです。」と答えた。

「本を読むのも好きなの?」
と僕の本棚にずらりと並んでいる本を取ってパラパラとめくり、
「どんな本が好き?」と尋ねて来る。

「そうですね、割と、推理小説とか、SF物とか……」
と答えると、「映画を見るのは?」
とさらに聞いて来る。

「映画ですか? 映画は好きですけど、
映画館へ行く事はほとんどありませんね。」と答えた。

「映画館、嫌いなの?」と尋ねるので、
「あ、いえ、体調面でなるべく、
人の集まる所へは行かないようにしてるんです。」と言った後、
「先輩は映画、好きなんですか?」と尋ねた。

「割と好きだね。
僕もサスペンスとか、刑事ものなんか好きなんだ。」

「あ、じゃあ、先輩、ちょっとこっちの部屋へ」
とシアターに改造している部屋へと先輩を通した。

「うわー! 君の家、何でもあるんだね」
「はい、これは父の趣味で……」
と部屋に入った瞬間、部屋中に貼ってある蘇我総司のポスターが目に入ってくる。

僕はヤバイ! と思ったが、先輩が、
「渋い俳優が好きなんだね? 
これは誰がファンなの?」と聞いて来る。

「あ、これは…」モゴモゴとしていると、
「ランチができたよ~!」
とお父さんが僕たちを呼びに来た。
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