消えない思い

樹木緑

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第30話 疑惑

そこには異様な空気が流れていた。 

「何故、そんなことを?」僕は少し緊張した。
「いや、裕也が美術室で僕を待ってたんだけど、待ってる間に寝入ってしまったらしくて、良い香りがしたから起きたら、パタパタと走り去って行く足音が聞こえたから、誰か来たんだと分かったらしいけど…後を追って美術室を出たけど、もう誰の姿も無かったって…」
「それで何か言ってましたか?」
「それで聞いてきたんだ…もしかしたら、美術部にはΩの生徒が居るか知ってるかって。」
「あ…僕…」僕は黙って下をうつ向いた。

暫くして、「部室に居たのは要君でしょ?」と先輩が尋ねたので、僕はコクンと頷いた。
「あ~やっぱりそうだったんだね。どうやってごまかそう?」と先輩はちょっと考えていた。
僕は先輩に嘘をつかせたくなかったので、「あ、先輩、正直に言っても僕は構いませんよ。」と言ったけど、
「じゃ、居るには居るけど、プライバシーの厳守で誰かは言えないって伝えておくよ。」と、先輩はごまかしてくれるみたいだった。
「すみません。お願いします。でも、本当にタイミング悪くあんな場所で発情しかけるなんて…そんな予感ちっとも無かったのに…」と少し困惑したが、
「大した事にならなかったから、今回は良しとしよう!」と先輩は余り気にしてないようだ。

「あの…あれが生徒会長だったんですか?」と僕が尋ねると、
「そうだよ。僕の幼馴染で生徒会長の佐々木裕也。どう?カッコよかったでしょ?モテモテ君だよ~」と先輩は答えた。
「いや、確かにカッコ良かったですけど…あ、じゃなくて、あの、生徒会長は大丈夫でしたか?僕の匂いに誘発されたりとか…」と恐る恐る聞くと、
「あ、裕也がαだって事は知ってるんだ」
「あ、はい、友達から聞いて…αでカッコよくて、権力持ちで、婚約者がいて、それでもいいからって女の子達は後を絶たないって。」と僕が言うと、
先輩は笑いながら、「要君は正直だね~ほら、裕也はカッコ良いって言ったのが色んな意味で分かったでしょ?でも、大丈夫だったと思うよ。詳しい事は言って無いけど、メッセージ出来るって事は大丈夫だと思う。もしラット起こしてたら、今頃、学校ぐるみで大変な事になってるからね~」と言った。
「そうですか、良かった~」そう言って僕は、胸を撫で下ろした。
「僕、まだ発情期始まったばかりだから時期がまだ不安定なのかなぁ~」と心配そうに言うと、
「そう言う事はあるかもね。気を付けるに越したことは無いよね。」と先輩が返してくれた。
「でも、ちゃんとラット抑制剤、持ってくれていたんですね。ありがとうございます。凄く、心強いです。」
「要君の両親にあった後、直ぐにもらいに行ったんだよ。早速役に立って良かったよ。」
「やっぱり先輩って頼りになりますよね!」
「ハハハ、おだてたって、今日は何にも出ないよ?」
「今日は?ですか?今日も…じゃ?」と言って僕は笑った。
「何時もお菓子あげてるでしょ~」
「先輩、それじゃ僕、駄々こねてる子供みたいじゃないですか~」と口を尖がらせると、
「まだまだ子供でしょ。」と先輩は僕をからかった。

「そう言えば、僕に何か用があったんでしょう?」
「そうそう、僕、クラスの応団幕の制作リーダーになっちゃったから、美術部の制作と被っちゃって…それを伝えようと思って美術部に行ったんです。」
「あ~そんな事、大丈夫だよ。出来る範囲で美術部にも顔を出してくれたら良いよ。」
「ありがとうございます!本当に、まったく、美術部員と言うだけで青木君に指名されちゃって…」と僕は苦笑いした。
「ハハハ、そう言う事ってあるよね。僕も一年生の時は同じ目に合ったよ。」
「先輩もですか?」
「そうだよ。スポーツクラブも同じだしね。クラスマッチの時なんて、そりゃあスポーツクラブは走り回ってるよ。」
「そうですね、そうですよね。皆同じって事ですよね。じゃ、僕もが学級委員長の特権を使って、クラスマッチの時は青木君を…ウッ・シッ・シッ~」と笑って見せた。
「ハハハその意気、その意気!でも思い出すな~。一年生の時のクラスマッチ!もう生徒会長の裕也が大変でね~。今思い出しても、笑いしか込み上げて来ないよ!もう目が回るほどクルクル・クルクルやって…先輩たちにこき使われてたからな~」
「そうですよね。先輩たちにも1年生の時があったんですよね~。なんだか先輩達に先輩がいて、こき使われてたことなんて想像出来ませ~ん。それもあの生徒会長がだなんて…でも生徒会長、何だか凄く良い香りがしてたな~」と言った瞬間先輩が立ち止まって、僕の方を急に振り返った。

「どうしたんですか?急に立ち止まって…」僕が驚いていると、
「え?要君、彼から何か匂いがしたの?」と先輩が驚いたように聞いて来るので、
「はい、凄く良い香りがして…どうかしたんですか?」と僕が言うと、
「今、僕から何か香りがする?」と先輩が尋ねたので、僕はクンクンと先輩の香りを嗅いでみた。
「あ、先輩、汗のにおいがしますよ。」と僕が言ったら、先輩は僕の頭にチョップをくれたけど、少し怪訝な顔をしていた。
「裕也の匂いもこんな感じ?」と先輩が尋ねるので、
「いえ、違いますね~。最初はコロンかなって思ったんですけど、ちょっと違いましたね。コロンって僕は全然使わないし、周りにも使ってる人は殆ど居ないから嗅いだことは殆どないからはっきりとは断言出来ないんですけど、どちらかというと、何かを付けたって言うよりは、生徒会長自身が匂ってたような…あっ、これ言ったら体臭みたいで失礼ですけど…でも、なんだかフワ~ッとするような、クラっとするような…強烈では無いんですけど、癖になっちゃうような…」と言うと先輩は、
「僕には今さっき汗のにおいがするって言ったばかりじゃないか~。僕には失礼じゃないのか~!」と言って頭をクシャクシャとしてきた。
「先輩、痛いですってば~。」
とふざけているうちに、僕のマンションのビルのドアの所についてしまった。
「あの…要君…もしかして…」と先輩は言いかけて、
「いや、何でもないよ。部屋まで送って行こうか?」と聞いてきた。
僕は何だろうと思ったけど、
「先輩、ここまでで大丈夫ですよ。薬も安定しているみたいだし。今回は問題なく行けそうです。」と答えた。
「じや、何かあったら、直ぐに電話して。」そう先輩は言い残して、僕は先輩が見送る中、エレベーターへと入って行った。
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