消えない思い

樹木緑

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第162話 1年が過ぎて変わった事

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陽一が産まれて、
時間はあっという間に過ぎて行き、
彼もかわいい盛りの1歳になり
僕は何とか高校を卒業し、
4月からフランスの美術大学に通う事となった。

僕の卒業と共に、
お母さんも日本へ帰り、
僕はフランスに慣れたこともあり、
自立するためアパートに引っ越す事にした。

勿論、それを提案した時、
ポールは猛反対した。

勿論僕の両親も猛反対した。

でも、ポールも一緒に引っ越し、同居すると言う事で
話がまとまった。

僕としては納得できなかったけど、
このままおんぶに抱っこでは先に進まない。

とりあえずポールと同居することを受け入れ、
僕の引っ越しが決まった。

これまではどっぷりと両親や
ポールの家族の好意に甘え切っていたけど、
少しずつでも自分だけで生活できる術を身につけたかった。

まだまだ両親には経済面ではお世話にならなくてはいけないけど、
少しでも自分で稼ぎたかったので、ポールの意向により、
ポールの所属するモデル事務所の雑用係として雇ってもらうことになった。

そういう訳で、僕達が留守の間は、
可愛そうだったけど、
陽一にはベビーシッターがついた。

「おはようございます。
これ、陽一の一日のスケジュールです。
宜しくお願いします!」

陽一のベビーシッターさんは、名前をマリーさんと言い、
派遣から来た20年の経験があるというシッターさんだった。
自信も3人の子供を育てたと言うベテランっぷりだ。

「陽ちゃん、じゃあ僕行って来るね。
お利口にしてるんだよ」

そう話掛けると、大きなクリクリの目玉で僕を見上げ、
下2本やっと生えた歯をくっきりと見せて、
大きく笑った。

ポールは今、イタリアに行っている。
夏に開かれるコレクションの打ち合わせの様だ。

ポールの陽一に向ける愛情はアレだけど、
僕は本当に助かっている。

今思うと、ポール無しでは、
一から独立を始めるのは難しかったかもしれない。

事務所の雑用にと口をきいてくれたことにも
凄く感謝している。

今日はその一日目が始まる。
ポールの居ない日に初日とは凄く緊張するけど、
陽一の笑顔を見ると、
頑張らなきゃと思う気持ちが強くなる。

僕は陽一に行ってきますをすると、
学校へ向けて出発した。

僕の通う美大は妊娠中に散歩をしたエリアにあり、
生き方は既に熟知していたので、
迷わずにすんなりと行くことが出来た。

今日は新・入学生のオリエンテーションのみ。
その為、午前中で学校が終わった。

その事は前もってわかっていたので、
今日はお昼の一番からバイトに入った。

ポールのモデル事務所は大学の近くにあり、
歩いて行ける距離にあったので、
勝手が良かった。

忙しい僕には時間を無駄にせずに
学校、仕事と行けたので、凄く恵まれていた。

オリエンテーションが終わると、
持ってきていたお弁当を、
妊娠中にお散歩した公園のベンチで食べた。

食べながら、

“そう言えばクレアお祖母ちゃんどうしてるんだろう?”

と、1年前ここで会ったお祖母ちゃんの事を思い出した。

出産してからは殆どここには来なかったけど、
今日来てみても、お祖母ちゃんの姿は未だ見受けられない。

“元気にしてたらいいな~”

そう思いながら持ってきていたオニギリを食べ終えると、
ゴミをくずカゴに捨て、モデル事務所目指して歩き出した。

モデル事務所に行くと、受付で、

「今日からお世話になる赤城要です」

と挨拶をすると、奥にあるロビーに通された。

ロビーで待たされていると、
奇麗な男の人や女の人がグループになってやって来た。

“うわ~ モデルの団体だ!
美男美女の集団ってすごい迫力!”

そう思ってちょっとたじろいでいると、

「あなたモデル志望なの?」

と一人の女の子が声を掛けてきた。

「あ、いえ、僕今日からこちらで雑用係としてお世話になる
赤城要と申します」

と挨拶した。

「え? 雑用係?
もったいないわね~
あなた、良い素材持ってるわよ~」

そう彼女が言うと、
一緒にいた人たちがワラワラと僕の周りに集まって来た。

その中の一人の男の人が、
僕の顎を取って、
顔を左右に振ると、

「確かに良いな。
お前、アジア人?」

と聞いてきた。

「はい、日本人です」

「日本人の雑用係って……
もしかしてポールの従弟とかいう?」

「まあ、従弟と言うにはちょっと遠いんですが、
まあ、そんなもんです」

そう言うと、

「へ~ これが……」

と、品評会の様に、
皆にジロジロと品定めされた。

“どうせ僕はポールの様にカッコ良くは無いですよ!”

そう思っていると、

「私、社長呼んできてあげるね!」

そう言って、一番最初に声を掛けてきてくれた人が
社長を呼びに行った。

「あ~ 待たせてしまって済まないね。
丁度ポールから電話かかかって来てたんだよ。

本当にポールは心配性だね。
君の事、くれぐれも頼むって」

社長室から出てきたのは、
このモデルたちの集団にも
何れ劣らぬ長身イケメンだった。

握手をするために颯爽と出された
手でさえも決まっていて、
カッコイイ。

彼に見惚れていると、

「彼カッコイイでしょう?
一世を風靡したモデルのルネだよ」

と、やはり一番最初に声を掛けてきた人が
僕に耳打ちした。

「え~ッと……?」

「え? やだ~
あなたルネの事知らないの?
モデル業界に居てルネの事知らないなんて潜りよ!」

「すみません!
モデル業界に余り詳しく無くて!
ポールの事も街中でポスター見るまでは
全然知らなかったんです!」

「あなた変わってるわね~
普通ポールレベルになると
分かるでしょ?
感じた? あのオーラ!
もう、いい男オーラがビシバシと!」

そう豪語する彼女を見て、

“あ~ これがポールの言ってた事か~
彼女きっと、ポールがトイレにも行かないと思ってる一人なんだろうな~”

と思った。

「ほら、ほら、モデル自慢は良いから、
今日日、こういった
モデルに関心の無い子の方が雑用係には良いんだよ」

「そうよね、前の子なんて、
てんで仕事にならなかったしね」

「え? どういうことですか?」

「もう、自分を売り込むことで精一杯で、
与えられた仕事の一つも出来なかったのよ。

だから現場が最悪なムードでピリピリしてたしね。

その点あなたは良さそうね?

ポールがモデルだったと言う事も知らなければ、
ルネが超有名モデルだったことも知らない。

私、あなたの事だったら信頼できそう!

私の名前はアンナよ。
宜しくね」

「あ、はい、ありがとうございます。
今日から宜しくお願いします!」

「じゃあ、一緒に来てくれるかな?
簡単な仕事の説明とかするから」

そう社長に言われ、僕は彼の後を付いて社長室へと入って行った。

「じゃあ、その椅子に腰かけてもらえるかな?」

そう言ってデスクの前の椅子をすすめられたので、

「失礼します」

と椅子に腰を下ろした。

「私の名前はルネ・ベルナール。
ルネと呼んでくれても構わないよ。
このモデル事務所のオーナだ。

ここでカナメにやって欲しいのは、
忙しいモデルの日常的サポートかな?

やっぱりマネージャーだけでは
手が回らない事とかあるし、
必要事項が提出されれば、
それを前日までに準備してくれれば……

実を言うとね、ポールが
ずっと自分専属の付き人にしろってうるさくてね」

「あ、ポールの発言は無視でお願いします」

「ハハ、だよね。
でもポールはうちの稼ぎ頭だからね、
僕も強くは言えないんだよ~」

そう言ってルネは笑った。

結構打ち砕けた人みたいだ。

「じゃあ、今日はメインのモデルたちを紹介しようかと思ったけど、
もう彼等にはロビーで会ったよね?」

「あ~! あの美男美女集団ですね」

「今日は君を紹介するために
皆この時間に呼んでおいたんだ」

そう言ってルネは皆を社長室に呼んだ。

そこに入って来た彼らはやはり
凄みがあった。

全部で8人。
男性5人に女性3人のグループだった。
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